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【完結】生贄にされた王女は竜の城でお茶をたしなむ  作者: なんかあったかくてふわふわしたやつ
第五章 奇跡の魔法が起きるとき

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「どけどけ、どけどけえええいっ!!!!」



 兵たちの背後から、聞き覚えのあるたけびが聞こえた。

 居並ぶ兵をなぎ倒して、鮮やかな金髪の青年が広場の中央に飛び込んでくる。


 彼は、エリスとアシェルをかばうように剣を構えてハーデュスにたいした。


「ケヴィン様……!」


 エリスはその人を見て、目を丸くする。

 ハーデュスが小さく舌打ちした。


「……これはこれは、ケヴィン殿下。異国の王子様は、本日お招きしておりませんが――」

「これはどういうことだ、大臣! 王女であるエリスをあやめようとするなど、臣下の風上にもおけんぞ! 即刻、武器を収めよ!」

「お断りいたします。むしろ、このような場を見られたからには、あなたにも消えていただく、ケヴィン殿下」


「……私をも殺すか。イストリアが黙ってはおらんぞ!」

「それは好都合。もとよりいくさなど起こすつもりでいたのだから」


 ハーデュスがわらった。

 むしの走る笑みだった。


 その表情のまま、彼は右手を頭上にげる。

 ハーデュス同様、剣の蔦を毟りとった兵士たちが体勢を立て直していた。


 ケヴィンが、剣のつかを握り直す。


「そうはさせん」

「いくら殿下が勇壮で名高い戦士でも、お一人では何もできますまい。そこの王女がそうであったように」

「……そうだな、一人では何もできぬだろう。だが、私もエリスも、一人ではない……――


 ――みなのものぉ、出ぇぇあえええええええええええッ!!!!!!!!!!!」


 ケヴィンが叫んだ瞬間だった。


 突如とつじょ、兵士たちの背後が、わっとにぎやかになる。

 叫び声に混じって、うめき声が生じている。

 がつん! ごつん! という打撃音、「ぎゃあ」「うわあっ」「ぐふっ」という痛々しい悲鳴。


「な、なに……?」


 ほうきや手持ちなべが派手に踊るのを、エリスは兵士の向こうに見た。

 兵士たちの陣形が次々とくずれていく。

 一体、何が起きているのか。


「姫様! 今お救いしますからね! 大丈夫ですから、絶対絶対、大丈夫ですから!」


 エリス付きのメイドのリラが、兵士たちの間でかんに箒を振り回しているのが見えた。

 メイドたちの他にも、エリスを森へと送ってくれた者を始めとした従者たち、庭師や料理人たちが、あっにとられている兵士たちにおそいかかっていた。めった打ちにしている。


 その数は、兵士たちの百を優に超えていた。

 エリスのことを愛する者たちが、ケヴィンとリラの声がけによってけつけてくれたのだ。


 もみくちゃになる兵士たちに向かって、ハーデュスがふんぎょうそうで叫ぶ。


「くそ、お前たち何をやっているのだ! しっかりしろ、馬鹿者! いいか、こうやって――うおっ!?」


 だが、兵士たちの壁が崩れたが最後、ハーデュスもメイドたちの手にかかり地にひれせられた。


 彼の手を離れた王冠が、を描いて宙を舞う。


 エリスは慌てて手を伸ばした。

 そして、王冠を受け止める。しっかりと抱きしめた。


 それから間もなく、ハーデュスは、従者たちによってなわで縛り上げられた。


 本丸の大臣が陥落かんらくしたことで、兵士たちもすぐに大人しくなった。



 戦いが、終わったのだ。



「みなの者、勝利だ!」


 ケヴィンが高らかに宣言する。

 メイドや従者たちも、一様に歓喜の声を上げている。




「……何だか僕ってば、役に立てなかったなぁ。ケヴィンにいいところを全部持って行かれたような」


 喜びにく人々の様子を蚊帳かやの外で見ながら、広場中央でアシェルはつまらなそうにつぶやいた。

 エリスは、慌てて否定する。


「そんなことないわよ」

「そう?」


「だって、わたしを命がけで守ってくれたじゃない」

「………………それもそうか」


 納得したのか、アシェルがほほんだ。

 エリスもつられて笑う。


 ……どうしよう。

彼が愛おしくて、たまらない。


「ところでエリス、さっき、何て言おうとしたの?」


 さっき? と考えて、エリスは思い出した。


 彼が死のふちからよみがえった時、言おうとしたことがあったことを。


 すうっと息を吸い込んだ。


「…………アシェル、あのね、わたし……」

「うん」


「ずっと一緒にいるわ。あなたと一緒に、生きる」


 エリスは、息をはき出した。

 空を見上げる。

 雲はいつの間にか晴れ、透明な青空がエルマギアの上空を満たしていた。

 エリスの心を映しているかのようだった。


 その隣で、アシェルが驚いたように目をみはっている。


「え、エリス……それってまさか、僕と、夫婦に――」

「姫様あああああああああああっ!!!!!!!」


 人々の中からエリスに飛びついてくる者があった。


 リラだ。

 エリスにすがりつき、えぐえぐ、とむせび泣く。


「心配したんですよ姫様! リラは夜も眠れず、毎日毎日、姫様が帰ってくるのを指折り数えて――って、あれ、こちらの方は? とっても素敵な殿方ですけど」


 リラが、アシェルを見てきょとんとした。


 問われて、エリスはアシェルと見合う。

 くすりと笑ってリラに向き直り――そして、はっきりと答えた。



「わたしの、だん様になる人よ」


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