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【完結】生贄にされた王女は竜の城でお茶をたしなむ  作者: なんかあったかくてふわふわしたやつ
第五章 奇跡の魔法が起きるとき

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「な、何……?」


 ふわ、と風が吹いた。

 光と混じり合い、エリスとアシェルの身体を優しく包んでゆく。


 エリスの黒髪と、アシェルの白銀の翼がれる。

 あたたかい。何だろう、いつかいだことがあるような、懐かしいにおいがする。


「これは、お母様のにおい……いいえ、これは……」


 エリスは、気づいた。


 これは、自分のにおいだ。


 自分でも分かるほどに濃く、はっきりしている。

 花のような香り。

 そしてそれは、ミラージャが言っていた、魔力の香りだ。


 光が、香りが、風と共にあたりに広がる。


 視界に、ちらりと薄桃色のものが映った。

 手のひらですくい取ると――花びらだった。


 エリスは空を見上げた。

 ……そして、思わず目を見開く。


「え……?」


 花びらが降ってくる。

 はらはらと、雪のように。


 黄色に赤、青にオレンジと、色とりどりの花びらが、広場に舞い落ちてくる。



「これは、一体――」



 エリスが不思議に思った瞬間だった。


 エリスとアシェルを中心に、風が爆発した。

 花びらが、岸壁にぶつかった波しぶきのように舞い上がる。


 その直後、信じられないことが起きた。

 石畳の地面から、植物が芽吹き始めたのだ。


 通常ではあり得ない急速な勢いで成長して、それらはまたたく間に花を咲かせていく。



「うわああああ!!」


 エリスは、悲鳴の方向を見た。

 叫んでいたのは、兵士たちだ。

 きゅうや彼らの持っていた弓矢からも、植物が次々と芽吹き始めていた。

「何だこれは!」

「ひっ」

「や、やめて――」

 つたおおわれていく武器を兵士たちは気味悪げに放り投げるが、今度は地面から伸びた蔦が兵士たちを拘束する。議員たちは、その摩訶まか不思議な光景に、みな呆然として立ちくしている。


 凶暴な武器を飲み込み、兵士たちの自由を奪いながら、色鮮やかな花々が石畳を埋めくしていく。

 広場が一面、瑞々しい花畑になっていった。


 その広場の中央――花のじゅうたんの上で、エリスは目を瞬いた。

 美しく揺れる花の中、銀色のドラゴンが目の前に横たわっている。


 ドラゴンは、動かない。



 ……けれど、変化があった。


 ドラゴンの身体が、光に包まれ、淡く輝いていた。

 その光がくだけ、はじけた透明なきらめきが空に細かなつぶてとなって、吸い込まれるように上っていく。


 徐々に光が小さくなる。

 人の、形になる。

 懐かしい、人の形に――


「…………、っ」


 エリスは、涙でぼんやりする視界の中、息を止めてそれを見守っていた。


 目が離せなかった。

 離してしまえば、目の前の出来事が、夢かまぼろしのように消えてしまう気がしたから。


 だから、目をらした。

 全てを、見届けるために。



 光が、ゆっくりと収束する。



 そこに、銀色のドラゴンの姿はなかった。


 代わりに、花の絨毯に見覚えのある青年が横たわっていた。


 青年は、ゆっくりと身体を起こす。

 そして、エリスを見る。


 ……その顔が、やわらかくほころんだ。


「エリス」


 自分の名を呼ぶその声に、エリスは声を上げて泣いた。

 聞きたかった声。

 もう二度と聞けないと思った声だ。


「アシェル…………アシェルっ……!!」


 彼の胸に飛び込む。

 受け止めた両腕が、エリスをぎゅっと抱きしめた。


「あなた、どうして……!」

「僕にかけられていたセイリーンの魔法が完成したんだよ! 君が、完成させた。人間になれたんだ!!」


 アシェルが熱のこもった声で言った。エリスを抱く腕に力を込める。


 始まりの魔女セイリーンが千年前にアシェルにかけた魔法。

 彼が人間になるための奇跡の魔法(エル・マギア)


 それが、完成したのだ――魔女の末裔である王女エリスの、真実の愛によって。


 アシェルの左(ほお)――そこには、ドラゴンのあかしだった銀のうろこも、もはや、ない。

 なめらかな肌にそっと指先で触れて、エリスは胸がいっぱいになる。


「アシェル、あのね、わたし――」

「ええい、お前たち何をしている!」


 エリスが言いかけたその時、身体にまとわりつく蔦を怒りにまかせてむしり取ったハーデュスが、兵士たちを一喝いっかつした。

 兵士たちもあわてて蔦の拘束を解こうとする。

 だが、蔦は兵士たちをしっかりと足止めしていた。


「馬鹿どもめが……貸せ!」


 ハーデュスが苛立ったように近くの兵士から剣をうばい取り、その先端をエリスに向けた――


 その時だった。

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