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【完結】生贄にされた王女は竜の城でお茶をたしなむ  作者: なんかあったかくてふわふわしたやつ
第一章 眠れる森のドラゴン

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 エリスは議事堂をあとにするなり、淡々《たんたん》と準備をし始めた。

 弱音を吐いてめそめそするなんて、ハーデュスの思うつぼのようでいやだったのだ。それだけじゃなく、なげきの言葉を口にすれば、その瞬間に心がぽっきりと折れてしまいそうだった。


「こんなのってないです、ないですよ、姫様ぁ……」


 年が近く、仲のいいメイドのリラが、涙目になりながら出立のためのドレスを準備していた。

 とび色のひとみまった涙がぷっくり盛り上がり、大粒の水滴がぽとりぽとりと落下する。


「姫様がいなくなったら、誰が王位を継承けいしょうするっていうんですか! 姫様以上に相応ふさわしい人なんていないのに! 嫌ですよあたし、姫様じゃないと……姫様じゃないとおおお~!!!!」

「リラ、泣かないで。せっかくのドレスに、涙で染みができちゃうわ」


 胡桃くるみ色の髪を振り乱して、わんわんと泣きさけぶリラを、エリスは、どうどう、と落ち着かせた。


 ドラゴンは、今となっては伝説の生物だ。


 巨大な身体にはがねうろこを持ち、空をおおう翼を持つ。

 鋭くとがった牙と刃のようなかぎ爪を有し、口からは灼熱しゃくねつの炎を吐くらしい。

 その美しくも凶暴きょうぼうな姿に似合わず、とても高い知性を持っていて、一説によれば人間以上に賢いとも言われていた。


 彼らは本来、魔界にんでいて、こちらの世界と魔界が近かった頃――まだこちらの世界にも魔界からあふれた魔力が流れ込んできていた千年以上前には、時折ときおり、群れをなしてやって来ていたのだという。


 二つの世界がはなれた現在では、彼らは魔女や魔法と同じく幻想上だけの、伝説の存在になっている。

 だが、今も昔も変わらず神の使いとしておそれられ、同時に人を食らう存在としておそれられていた。


「こんなの、大臣が仕組んだわなですよ。姫様を城から追い出す気なんです……そ、それか、ど、どどどドラゴンに食べさせようとしてるんですよ、きっと……! ああ、なんっておそろしい……」

「……わたしも、そうなんだと思うわ」


 ドラゴンをしたがえろとは言われたが、これが体のいい『生けにえ』なのはエリスにだって分かる。

 エリスにドラゴンをどうこうするなんてできるはずがない……そう思っていながら、元老院は――いや、ハーデュスは、今回のことを仕組んだのだ。


 エリスを、女王にさせないために。

 城から追い出すために。


「……リラ、お願いがあるの。わたしが城を開けている間、ハーデュスがおかしな動きをしないか、見張っていて欲しいの」

「大臣が? ぐす……で、でも姫様、帰って来られるので……?」

「わたしは帰ってくるわ、必ず」


 ……負けるものかとエリスは思う。

 それに、ドラゴンの件は国のうれいでもある。

 どのみちいつかは古城におもむげなければならないことだった。


 希望がないわけではないのだ。

 ドラゴンを従えられないと決まったわけではないのだ。

 従えて、必ず生きてこの城に戻る。


 だって、それができなければ、女王にはなれないから。

 女王にならなければ、この国を守れない。母イルダの守ってきた、この国を――


「でも、でも……姫様って、とっても“いいにおい”がするから……ドラゴンにおいしそうだって食べられちゃうんじゃないかって、あたし………………うう、心配ですよう~……」


 指摘してきされて、エリスは自分のにおいを感じようとした。

 だが、自分では相変わらずいまいち分からない。


 エリスは、「かぐわしい花のようなにおいがする」とよく人に言われる。

 とてもいいにおいをしているのだと。

 それが、どうしてなのかは分からない。

 母イルダもいいにおいがしていたので、これは恐らく遺伝なのだ。魔女に関係したものなのかは分からないが、きっと身体に流れる血のせいなのだとエリスは思う。


「リラ、縁起えんぎの悪いこと言わないでちょうだい。約束するわ、ちゃんと戻るって。だから、お願い……留守の間、この城のことをたのむわね」

「わ……分かりました! 絶対、絶対帰ってきてくださいね、お待ちしておりますので!」


 リラと固く手を握り合って、エリスは強くうなずいた。


 夜が明ければ、出立である。

 これは、女王になるための試練しれんなのだ――エリスは無理矢理にでもそう思うことにした。

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