表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】生贄にされた王女は竜の城でお茶をたしなむ  作者: なんかあったかくてふわふわしたやつ
第四章 彼の決意

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/41

27

 ひやりとした冷たいものに、エリスはうっすらと目を開けた。


 身体は柔らかいものの上にあった。

 毛布に包まれている――どうやらベッドの上にいるようだった。



「……エリス、気がついた?」



 ベッドサイドにいたアシェルが、心配そうな顔でのぞき込んできた。


 人の姿をしていた。

 どこにも怪我をしていないようだ。ほっとして、エリスはたずねる。


「アシェル……ここは……」

「君の部屋。運んだんだ。ああ、まだ動いちゃだめだよ、熱があるみたいだから」


 ひたいでひやりとしたのは、れた布だった。

 アシェルがその位置を直してくれる。


「アシェル、ケヴィン様は」

「ああ、あのバカ王子なら――」



「エリスの具合はいかようだ、ドラゴン!」



 ばたーん、と扉が豪快ごうかいに開けられた。

 ケヴィンが部屋へと入ってきた。メイルが、おろおろとその後に続く。


「……静かにしなよ。エリスの具合が悪くなったらどうするんだ」

 アシェルが眉間の縦皺たてじわくして、来訪者をみつくようににらんだ。


「う。それもそうだな、すまない。おお、エリス、目覚めたようだな。よかった」

「ええ……そ、それはそうとケヴィン様……それは……?」


 ケヴィンの手にぶら下げられたものを見て、エリスは顔を青ざめさせた。

 アシェルも、ほおを引きつらせている。


「これか! これは、へびだ!」


 右手で、エリスのうでほどもあろう太さの蛇の首を器用にめ上げながら、ケヴィンが自信たっぷりに見せつけてくる。

 蛇がうねうねと抵抗ていこうしていた。生きている。


「それは分かっています。そうじゃなく、なんでそんなものを……」

「そなた、ここに来てから肉を食べていなかったそうではないか。体調をくずしたのは栄養のみだれと思ってな、こうしてってきたのだ!」


 どーん、と蛇をかかげ、高らかに報告するイストリア王子。

 エリスは頬をひくりとさせた。

 ……それを、食べろと?


「ちょっとバカ王子、エリスにそんなもの食べさせるつもり? ドラゴンのぼくだって、そんな選択しないっていうのに……」

「何を言うか。蛇の肉はとても美味だぞ。栄養も豊富で、摂取せっしゅすれば病も吹き飛ぶ。何より私の大好物だ!」

「あんたの好物とか、どうでもいいよ……とりあえず、そんなものこの部屋に持ち込むな。エリスだっていやだろ?」


 エリスは、こくこくとうなずく。

 ドラゴンであるアシェルの方が、どうやらまともな感覚の持ち主であるらしい。


「むう。仕方がない……よろいくん、これの調理、任せたぞ」


「へええっ!?」


 唐突に蛇を渡されたメイルが、蛇と格闘かくとうし始めた。

 さすがに金属の鎧。蛇のきばも毒も、彼には効かない。

 彼はそのまま「し、失礼しますー!」と蛇を部屋から引きずり出していった。


 ……本当に調理する気だろうか。

 エリスがそんな気持ちでぜんとしてメイルの消えた出口を見つめていると、ケヴィンがアシェルのとなりに並んだ。

 アシェルを、ちら、と見て、エリスに向き直る。


「……彼とは一時停戦している。エリス、そなたから話が聞きたいのだが……まだ身体はすぐれないようだな」

「大丈夫です。お話します」


 起き上がろうとすると、ケヴィンが「横になったままでいい」と言ってくれた。

 だが、エリスは起き上がった。話をする。


 母である女王イルダの崩御ほうぎょ

 それによって即位するかと思われた自分に、大臣ハーデュスからせられた王女としての役目。

 ドラゴンを従えてフェリシーダ城に帰らねば、女王にはなれないこと。

 アシェルはドラゴンだが、自分を捕らえているわけではないこと。



「……そうか。おおむねはリラじょうから聞いていたが……ハーデュス大臣は、君をおとしめようとしているのだろうか」

「ケヴィン様も、そう思いますか」

「リラ嬢が、君がいなくなってからにわかにフェリシーダの城内がさわがしくなったと言っていたのでな……それに」

「何です?」


「ハーデュス大臣が言っていたのだよ。『そのうちまたイストリアにもお邪魔します』と。何のことを言っているのか分からなかったが、引っかかったのだ。彼がが国を訪問することなど、久しくなかったのでな」


 ケヴィンが、思案するようにあごでた。

 エリスも、ハーデュスの放った言葉の意味を考える。


 ……一体、何を意味しているのだろう。


「一応、リラ嬢の力を借りて、私付きの騎士二人をフェリシーダに残してきた。何かあったら、早馬はやうまでここまで情報を持ってくるだろう」

寛大かんだいなご配慮はいりょ、感謝いたします……ところで、ケヴィン様はこちらに、お一人で?」


「当然だッ! 勇者は一人で姫を救い出すものだと、相場が決まっている!」


 エリスは額を押さえた。めまいがした。

 ……この人は、いつもこうだ。


 ケヴィンとは、隣国のあとぎ同士ということもあり、エリスは接する機会も多かった。

 初めて会ったのはエリスが十歳の時で、以後、年に数回、顔を合わせてきた。

 それから七年……幼いころに抱いた印象は、彼が国政にたずさわるようになった今もまるで変わらない。

 ケヴィンは相変わらず、永遠の少年のような人だった。


「友好国の正統な次期女王が困っているのだ、イストリアも可能な限り力を貸そう。だが、」


 ケヴィンはアシェルをじろりと見た。

 アシェルが片眉かたまゆを上げる。


「……何さ?」


「そもそも、ドラゴンが実際にいて、しかも話が通じるこの状況だ。エリス、君が彼を連れて行って、みんなの前で彼がドラゴンだと証明すれば、全て丸く収まるのでは? 先ほどの様子だと、彼はドラゴンの姿になれるのだろう?」


「それは……」


 エリスは言葉をまらせた。

 アシェルも視線をそらす。


 二人の様子に、ケヴィンが不思議そうな顔をしている。


「うん? どうしたのだ?」


「いえ……あの……」

「……僕、メイルの様子を見てくる」


 アシェルがスツールを立つ。

 そして、そのまま部屋を出て行ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ