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【完結】生贄にされた王女は竜の城でお茶をたしなむ  作者: なんかあったかくてふわふわしたやつ
第四章 彼の決意

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 ざわざわとさわがしくなるフェリシーダ城の回廊かいろうを、リラは息を切らせて走っていた。


 隣国イストリアの第一王子ケヴィン・フォルト・イストリア。

 彼が、イルダのちょうもんに訪れたというのだ。


 隣国イストリアは、その広大な国土のため、他国と接地している部分が多い。

 ここ半年前にも、西の小国との小競こぜり合いが勃発ぼっぱつした。

 それを調停すべく遠征えんせいしていたために、ケヴィン王子は先日行われたイルダの国葬に参列することができなかったのである。


 リラが今、懸命けんめいに走っているのは、他でもない彼に会うためだった。


 ケヴィンは、勇敢ゆうかんな戦士として名高い王子だ。

 イストリアが抱く白鷹はくよう騎士団をまとめ上げ、国の各地で起きるいくさをそのたぐいまれなる手腕で治めて回っている。

 エリスよりわずかに年上なばかりだが、その剣のうでも相当なものだというのは、国をまたいで有名な話だ。

 その勇壮ゆうそうな姿から、古にドラゴンを倒し魔女をきさきにした、無敵とうたわれるかのエルマギア初代の王ロクシアスになぞらえられ“りゅう殺し”と呼ばれることもあった。


「ケヴィン殿下なら、きっと姫様を古城から連れ戻してくださるわ……!」


 階段をすべり落ちるようにけ下り、目指したのは城内にある礼拝堂だった。

 先日まで安置されていたイルダの遺体は、すでにここにはない。

 だが、かの王子が祈りをささげるためにそこを訪れているとの情報を、リラは召使い仲間たちから得ていた。走る。


 礼拝堂へのとびらが見えてきた。


 立ち止まった瞬間、扉が開く。


 中から二人の騎士をしたがえた、金髪の精悍せいかんな青年が現れた。

 王子だ。

 ハーデュスと元老院の面々に見送られて、城の出口へ向かおうとしている。


「ケヴィン殿下っ!!」


 リラは必死の思いで王子の前に飛び出した。

 ハーデュスがそれに気づき、まゆを寄せた。


「姫様付きのメイドではないか。殿下のぜんれいであるぞ、下がれ――」


「いや、いい」


 ハーデュスを手で制したのは、他でもないケヴィン王子だった。

 ハーデュスが険しい顔をする。


「殿下……しかし、いやしい身分の者がイストリアの次期国王と口をくなど……」

「卑しくなどないよ。彼女は私の友人だ……そうだね、リラ?」


 名前を覚えていてくれた、とリラは感激かんげきした。以前、エリスのお供をして、彼に会ったことがあったのだ。

 すいの目を細めてほほむ王子に、あわてて頭を下げる。


「ご無礼をお許しください!」

「気にすることはない。それよりどうしたんだい? エリスも不在のようだが」

「……そのことで、殿下にお話が」


 リラはくちびるを引き結ぶ。

 ハーデュスの視線がすように痛かった。怖い。腕がふるえる。


「……そうか。では、ここからはリラじょうに見送ってもらうことにしよう」


「殿下、それは――」

「なんだい大臣。問題でも?」

「…………………………いえ」


 ケヴィンの笑顔に、ハーデュスが押し黙る。


「……それでは、失礼いたします」


 その場で立ち止まり、ハーデュスと議員たちは一礼した。


 見送られ歩き出したケヴィンに、リラは半歩後ろをついていく。


「大丈夫かい?」


「え……? あ、あの……」

「震えていたようだが」


 ハーデュスの姿が見えなくなると、二人の騎士の背後でケヴィンがリラのとなりに並び、そっとたずねた。

 リラは、すがる思いで王子を見上げた。


「あの、あたしは大丈夫です。大丈夫じゃないのは、姫様で……」

「姫……エリスのことかい?」

「っ、ああ、ケヴィン殿下……どうか、どうか姫様を…………エリスティーナ殿下をお救いください!!」


 リラの様子に、ケヴィンが顔色を変えた。


「エリスを救う? ……詳しく聞かせてもらえるかな、リラ」

「はい。実は……」


 リラは懸命に説明した。

 主であるエリスが、眠りの森と言われるドルミーレの森の古城へとドラゴンを従えに行ってから戻ってこないこと。

 リラが頼んだところで、兵士たちはドラゴンを恐れて救助にも行ってくれないこと。

 その話に、ケヴィンは黙って耳をかたむけていた。


「姫様、ドラゴンに食べられちゃうかもしれません……眠れる森の古城へ行ってから、もう二週間も経つんです。もしかしたら、もう――」


 最後は涙声になって、リラは言葉を終えた。


 ちょうど、フェリシーダ城の出口だった。

 リラは涙で視界がくもり、その場に立ち止まってしまった。

 姫様、お願い無事でいて、と思わず口にする。


「リラ。君は、エリスのことを大切に思っているのだね」

「も、もちろんです……っ! 姫様は、あたしたちの宝物ですから!」


 リラは、エリスとのこれまでを思い返した。


 エリスは、とても優しい人だ。

 しんを、民を見下さず、同じ目線で物事を見てくれる。


 そして、何より国民の幸せを第一に考えてくれる人だ。


  一度、きんが国をおそった時のことだ。

 城下を訪れていたエリスが自分の食べ物を減らし、代わりに民に食べさせるように言ったことがある。

「わたしは我慢できるから、みんなにあげて」と。彼女がまだ六歳の時だ。

 同い年のリラは、彼女のことをすごいと思った。

 だから彼女に仕えたくて、王女付きのメイドに志願したのだ。


「あたし、姫様のこと、大好きなんです……」


 ……思い出して、彼女のきゅうに何もできなかったことに悔しさが込み上げてくる。

  エリスのような人が女王にならずして、一体誰がなれるだろう、いや、そんな人他にいないとリラは思う。

 なのに、その彼女が、ドラゴンに食べられてしまうなんて……

 ……いや、彼女はまだ生きているに違いない……

 彼女が死ぬなんて、あってはならないのだ……だから、誰か……誰か――


「安心しなさい」


 おだやかな声に、リラは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。

 ケヴィンが微笑む。


「私がエリスを助けに行こう……そういうのは、得意だ」

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