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【完結】生贄にされた王女は竜の城でお茶をたしなむ  作者: なんかあったかくてふわふわしたやつ
第三章 王女とドラゴン

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「………………アシェル、わたし、あなたにお願いがあるの」



 エリスは、ここへと来た理由を彼に話すことにした。

 彼に伝えるか、ずっと今までなやみ続けた言葉を。


「わたしは魔女の子孫として、ドラゴンをしたがえてフェリシーダ城に帰還しなければならないの。それはわたしが女王になるために、国を守るために必要なことなの。だからアシェル――……あなたに、一緒に来て欲しいの」


 言い終えて「失敗した」とエリスは思った。


 アシェルが深く傷ついたような顔をしていたから。


「……僕を利用するってことかい? 人間じゃなく、“ドラゴン”として」


「それは――」

「否定できないだろ」


 アシェルが、エリスから身体を離した。

 うなれて、ちょう気味ぎみに笑う。


「……君は、僕にドラゴンになって欲しいんだね。そうでなければ、僕に利用価値はないから」

「違っ……わたし、そんな風に思ってないわ! わたしは、ただ――」

「君は、ドラゴンである僕が必要なんだろ……


 ……人間の僕じゃなくて、ドラゴンの僕が!!」


 エリスは言葉を失った。

 違う、とは言えなかった……彼の、言うとおりだったからだ。


 アシェルは、とても悲しそうな目で、


「……僕は、行かない」


 そう言ったきり、エリスに背を向けて歩き出してしまった。

 城の中へと戻るとびらに手をかけ、行ってしまう。


 その場に残されたエリスは、呆然ぼうぜんと彼の消えた扉を見つめていた。


 ……人間になろうとしているアシェルを、否定したのではない。

 けれど、彼はそう受け取ってしまったのだろう。


 それは、好きだと言ってくれた彼を拒絶きょぜつするにひとしい言葉だった。


 ドラゴンである彼が必要だということは、彼が人間になることを望んでいないということになる。

 共に歩むことを望んでいない……そういう残酷ざんこくな意味を持ってしまう。


 人とドラゴン。

 ずっと一緒にはいられない。

 それは、遠い千年前に魔女セイリーンが、アシェルと離ればなれになった理由でもある。

 アシェルは、それを思い出したに違いない。

 エリスが、それを望んだと思ったに違いない。


「違うの……違うのよ、アシェル……」


 つ、と何かがほおを伝う。

 エリスは、目元にれた。


 涙だ。


 ぽろ、ぽろ、と目からあふれる。

 悲しくて、胸が痛くて――止まらない。


 エリスは自分をしかった。

 泣いていいのは自分じゃない。彼を傷つけたのは他でもない自分なのだから。

 アシェルの方が、もっと、ずっと、悲しくて苦しかったはずなのだから。


 ……けれど、だめだ。嗚咽おえつが止まらない。

 彼の気持ちを思うと、どうにもならなかった。


「ごめんなさいアシェル、ごめんなさい、ごめんなさい――」


 中庭に、エリスの謝罪の言葉がひびく。




 ……どれくらいそこで泣いていたのか。




 やがて、冷たくなってきた夜風にえられなくなったエリスは、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたまま部屋へと戻った。

 茫然ぼうぜんしつの状態だったので、どのような経路をたどってきたかは分からない。

 先ほどまでアシェルと楽しく踊っていた幸せな時間が、嘘のようだった。


 エリスは、ふらふらとベッドに倒れ込んだ。

 まるで、イルダのそうの後のようにまくらに顔をうずめて、涙を流すままにした。

 身体は冷え切っていたが、心ほどではなかった。

 ダンスの時あんなにあたたかかった心が、真冬の海に投げ出されたように、今はてついてしまっている。


「目が覚めたら、全て夢だったらいいのに……」


 何もかも。アシェルを傷つけたこと――自分がこの城に来たことも、お母様が死んだことすら夢だったらいいのに。

 そうであれば、涙を流すこともなくて済むのに。



 エリスは目を閉じて、思った。

 このまま朝が来なくてもいい。このまま時間が止まってもいい、と……

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