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【完結】生贄にされた王女は竜の城でお茶をたしなむ  作者: なんかあったかくてふわふわしたやつ
第一章 眠れる森のドラゴン

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2

 連れて来られた場所は、ここフェリシーダ城内でも最も政治的な場所である、元老院の議事堂ぎじどうだった。

 ハーデュスにうながされて、エリスは中へと入る。


 そこには、国の政治を取り決める二十余名の元老院議員たちが集っていた。

 エリスは議事堂の円卓えんたく上座かみざへとこしを下ろす。


 ハーデュスがエリスの背後に立った。

 議長が通例にのっとった挨拶あいさつべようとしたが、それを彼がさえぎる。

 そうして、代わりに彼が話し始めた。


「さて……さっそくですが、姫様には即位の条件として、とある仕事をしていただくことになりました」


 母が亡くなってから、山ほどすることはあった気がする。溜まった政務の処理、葬儀の取り決めなど――

 これ以上どんな仕事が来たって怖くはないわ、とエリスは椅子に座ったまま悠然ゆうぜんと話を聞いていた。


「ここ王都の北、ドルミーレの森が『眠りの森』と呼ばれているのは、初代女王――〈始まりの魔女〉の血を引くあなたならご存じですよね、エリスティーナ王女」

「当たり前でしょう。何をいまさら」


 唐突とうとつに問われ、エリスは憮然ぶぜんとして返答した。

 反応に、背後のハーデュスは満足そうに「そうですか」とうなずく。


「その眠りの森で、封印されしドラゴンが目覚めたというのも、ご存じですよね?」

「もちろんよ」


 問題の二つ目――国の抱える問題――が、それ……ドラゴンのことだ。


 北のドルミーレの森に、千年前、エリスのご先祖様である始まりの魔女が封印したドラゴン。

 それが、最近、目を覚ましたという。


 今はまだ封印の古城の中から出てきていないらしいのだが、たびたび世にも恐ろしい咆哮ほうこうが古城から聞こえるので、民たちはみな昼夜に渡っておびえていた。

 国の平穏へいおんのため、対処しなければならないことだ。


「……何よ、どうにかする方法でも思いついたっていうの?」

「実はそうなのです。元老院で先ほどまとまりました」

「えっ……?」


 期待していなかった答えに、エリスは目を丸くした。


 ドラゴンのことは、女王になったらどうにかしなければ……と考えていたことだった。それだけに、この元老院の決定は、エリスにとって歓迎かんげいすべきものになりそうだった。

 ……けれど、そうはならなかった。


「眠りの森のドラゴン。それを、あなたに従えてきて欲しいのです、殿下」

「へっ?」


 エリスは、頓狂とんきょうな声を上げざるをなかった。

 振り返れば、ハーデュスが軽薄けいはくな笑みを浮かべている。

 議員に反論する者もいない。


「そ、そんなの、無理に決まって――」

「始まりの魔女の血を引くあなたにしか出来ないことですよ、殿下。他の誰にも出来ない、だって、魔女の血を引いているのは、女王陛下(へいか)亡き今、あなただけなのだから……。

 ですから、『ドラゴンをしたがえてくること』。それが、あなたが女王として即位するためにもうけられた、新たな条件です」


「な……なん、ですって…………?」


 エリスは、愕然がくぜんとした。

 自分が、ドラゴンを……?


 その様子を楽しむように、ハーデュスは続ける。


「ああ……あなたがドラゴンを従えられなければ、あなたを女王だと民は認めないでしょうねぇ。だって、あなたがそれを出来ないということは、あなたは始まりの魔女の血を引いていないということになるでしょうし」

「そんな…………一体、どうやって従えればいいって言うのよ…………」

「それは、私に聞くことではないでしょう? あなたの“血”が知っているはずなんですから」


 助けを求めるように見上げたエリスを、ハーデュスが冷たく突き放す。


「実行は、できるだけ早い方がよいでしょうね……ということで、しゅったつは明日――さっそく準備をしてくださいね、()()()()()()


 軽薄けいはくを通り越し、もはや酷薄こくはくな笑みを浮かべて、ハーデュスがエリスの肩に手を置いた。


(……う、うそ…………でしょう………………?)


 ずっしり肩にのしかかる重みに、エリスは目の前が真っ暗になった。

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