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線香

作者:


死んじゃった僕と生きている君のなんでもない墓参りのお話。



 何本目とも分からないほどの線香に今日も今日とて火をつけて、何も変わらない表情をしながら君はまた僕のお墓へお参りに来た。

 5年も前に死んだ僕の墓へわざわざ東京からやって来ては、墓石に水を掛けて鞄から線香を取り出して、君愛用のライターで火をつけて、何も変わらない表情で手を合わせている。それは酷く退屈でめんどくさい作業だと、昔君は言っていたのに。

 親戚の集まりで、初めて君と僕が出会った日。誰かの葬式だったのか、それとも正月の集まりだったのか。それすら僕は覚えてないけど。

 その日は雨で、外にも行けず。でも、家の中には知らない大人がいっぱいいて、何を話していいのか分からなくて。でも、大人は僕のことを知ってるみたいで、何度も何度も「大きくなったね」とか「ああ柚希くんとこの!可愛いねえ」とか話しかけてきて。小さい頃から僕は人見知りでも無かったけれど、知らない大人が僕のことを知ってるみたいに話しかけてくるのは結構怖かった。だから、自分の部屋に戻って、ゴロゴロと寝転がって、漫画を読んでいた。

 そうしたら、君が部屋を間違えて入ってきたんだ。

 君は僕を見て困った表情を浮かべた次には泣きそうな顔になっていた。僕も君のことは知らなくてその日その時初めて会ったから、泣きそうになってる君を見て、どうしたらいいか分からなかった。だけど僕は、泣きそうな子が笑顔になる呪文を知っていた。それはよくある朝の教育番組でやっていた、子供だましの短い呪文。

「僕とお友達になろう!」

 僕の言葉に、君は泣きそうな顔だったのが一瞬で冷めきった目で僕を見て、一言だけ口にした。

「・・・は?」


 君は綺麗で可愛い女の子だった。同い年の僕より大人びていて、色んなことを知っているかっこいい僕の友達だった。

 僕は京都、君は東京に住んでるから、滅多に会えなかったけど、連絡も簡単に出来るこんな時代だから、それは大して僕らを引き裂くものでも無かった。


 おや。君のことを思い出していたら、君はもう帰ってしまうようだった。こんな数秒のために僕のお墓までやってくるのも大概、君も僕のことが好きだったのだろうか。

 いや、きっとそうだ。僕のことが好きだったんだろう。じゃなきゃ、僕の葬式の時に、僕の部屋にわざわざ来て、僕に借りてた漫画を律儀に返した君の表情の説明が出来ない。あんなに泣いて、笑って、怒った君は初めて見た。

 あんなに親戚の墓参りを面倒くさそうにしていた君が、こんなに僕のお墓参りをしてくれるのもその証拠の一つだ。

 そう言って、君の前に証拠を叩きつけてやりたいけど、生憎僕は半透明な幽霊で、君は幽霊なんて信じない人間だったから、僕がこの墓石に座って、ただただ君を見ているなんて、君は考えもしないだろうな。


 そろそろ、君の姿が見えなくなる。僕の墓石に背を向けて歩く君は、短くなった髪を少し揺らしながら、綺麗な姿勢で、美しく、ランウェイを歩くように、帰ってしまう。

 僕は、ただ君に手を振る。


「今日も今日とてありがとう!僕は、君が長生きするまで見守るよ〜!」


 曇天の空、僕は君に、何も変わらない笑顔を見せた。

 君は振り返らず、静かに行った。





死んじゃった僕は、ちょっと可愛いだけの普通の男の子。生きている君は、誰よりも綺麗なカッコイイけど、何処にでもいる普通の女の子。



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