第96話 問題は早く解決しなきゃ
いつものように家の近くの町へと納品へやって来た私は、男爵様にプレアさんの居場所を尋ねてみた。
すると、今日もマリエッタさんについて自警団へと向かっていたらしい。
「どうしてプレアのことが必要なんだい?」
話を終えたので向かおうとすると、男爵様に止められてしまう。
急な話だったせいか、男爵様は気になってしまったようだった。
隠す必要もないかと思った私は、その事情を話すことにした。
「……というわけでなんです。ピゲストロさんがかなり参っているようでしてね、読み書きできる方が早急に欲しいというわけなんですよ」
「なるほど、それは困った話だな。部下に一切仕事を回せず、すべての仕事をしょい込むのは場合によるが不信の表れと取られることもあるからな」
「オークはそもそも頭はそれほどよろしくありませんから、仕方ない判断だとは思いますけれど。ただ、彼の武人としての強さが失われかねませんからね」
「うむ、それは困るな。よし、私からも人員を出そうではないか」
男爵様は立ち上がると、すぐさま執事に命じて人を呼んでいた。そこまでしてもらわなくてもいいんだけど、この辺り一帯の平穏を考えればそうなるかしらね。
「分かりました。では、私はプレアさんのところに向かいますので、自警団に出向いています」
「そうか。ならば私もそちらに向かわせてもらうとするか」
男爵様との話を終えて、私は男爵邸を出て自警団へと向かう。
足元ではティコとキイがおとなしくついてきている。
周りには二匹を触りたがっている子どもがいるものの、どっちもしっぽに毒があるので、安易に近寄らせられないのは厳しいものだわね。ティコのしっぽはカバーがかけてるけれどね。
近寄りたそうな子どもたちに手を振りながら、私はようやく自警団へとやって来た。
「ああ、もう! におうわっ!」
到着するなり目的の人物の声が聞こえてくる。そう、この声はプレアさんだ。
オークの屋敷にいた時から、なにかと仕事をしたがらなかった人だし、このくらいは予想できた声だったわ。
「どうしたんですか、プレアさん」
「げっ、アイラ」
ひょっこりと顔を覗かせると、ものすごく気まずそうな顔をしている。
「あ、あんたには関係ないでしょ。ほらほら、いったいった」
恥ずかしそうに顔を逸らしながら、私を手で追い払う仕草をしている。なんだかその姿を見て笑ってしまう。
「プレアさん、今日はあなたに用事があってきたんですよ」
「なによ、私に用事って」
態度とは裏腹に、私の言葉に興味を示したみたい。
「あら、アイラ。プレアに用事なのかしら」
「マリエッタさん」
タイミングよくマリエッタさんも姿を見せる。これなら話が早いというものだわ。
「マリエッタさんも、ちょっとお話いいでしょうか」
「ええ、いいですわよ。用事もちょうどひと通り済みましたし、休憩をするところですわ」
マリエッタさんがこう言うので、私はプレアさんも捕まえたまま、今日の用件を話し始める。
「……なるほど。今まで気にはしておりませんでしたが、オーク側ではそのような話になっていますのね」
「そうなんですよ。戦いにしか興味のない人たちでしたし、文官の仕事はさっぱりみたいでして。結局ピゲストロさん一人で片付けているようなんです」
「それはいけませんわね。トップというものはいざという時でも的確な行動が取れなくてはいけません。ですが、オークの元にわたくしたち女性だけで向かうわけには参りませんわね」
事情は分かったようではあるものの、プレアは女性だけで向かうことには難色を示していた。
それはまあ、オークという種族特性ゆえなのだけれど、今回はそう言っている場合ではなかった。
このままピゲストロさんが無理をして倒れてしまえば、誰がオークをまとめ上げるのか。それが最大の問題となるのは分かり切った話だもの。
前の時から思ってたけど、オークって力を持った者による支配って感じだったものね。だから、前のリーダーの時にみんな逆らおうとはしなかったのよね。
つまり、このままピゲストロさんが激務に追われれば、次の力を持ったオークが体制をひっくり返しかねないというわけ。
マリエッタさんたちと話を終えて相談をしていると、男爵様が文官を連れて自警団の詰所へやって来た。
「待たせたね」
「お父様? なぜこちらに」
「文官を出す約束をしたからな。こっちは落ち着いてきたし、私のところの執事と、領主様から派遣された文官を一人ずつ回そうかと思うんだ」
「なるほど、分かりましたわ」
「わざわざすみません。ただ、あちらが受け入れてくれるかが問題ですけれどね」
私は男爵様の気遣いにお礼を言っておく。
問題はオーク側の反応だけとなっていた。
ちなみに、プレアさんは問答無用で同行することになった。マリエッタさんに言われては逆らえないみたい。
こうやって話がまとまったことで、ひとまずはオークの屋敷へと向かう準備をする。マリエッタさんとプレアさんの二人以外は準備万端だったので、思ったよりも早く出発ができそうね。
「大なれ!」
私はティコとキイを元の大きさに戻す。
「二人とも頼むわよ」
「ぎゃう!」
「グルルーン!」
大きな声で喜びを示す二体だった。
「キラとマイは、私たちがいない間の留守を頼むわよ」
「ニャアア!」
こちらも分かったと言わんばかりに、元気な返事をしてくれた。
準備が整った私たちは、すぐさまオークの屋敷へと向けて駆け出したのだった。




