第94話 馴染み具合はじゃれあえるほど
ティコに取ってもらった書物を見たけれど、キマイラのことは確かに書いてあった。でも、思ったより情報は少なく、さすがの前の住民でも生態は解き明かせなかったらしい。
キマイラもマンティコアも基本的には雑食だということ、ともに風魔法を得意にしていることは分かった。そして、しっぽにはどっちも毒があるらしい。
マンティコアのしっぽはサソリのしっぽなので、先端に気をつければひとまず大丈夫。
キマイラの方も蛇を怒らせなければ大丈夫らしくて、噛まれたからといって直ちに毒に侵されることはないらしい。
「さすが危険度の高い魔物だけあって、結構注意が必要なのね」
「にゃう?」
朝食を食べながらティコたちに声をかけると、二匹揃って首をこてんと傾けていた。
魔法で小さくなっている状態でその姿を見せられると、ものすごく可愛いだけだから困ったものだわ。
「よし、ティコ、キイ、出かけましょう」
「ミャウ!」
朝食を終えた私が声をかけると、二匹とも元気をよく返事をする。
町に向かう時にはティコに乗って移動する。ティコはクルスさんやマリエッタさんにも懐いているので、行きの方はとても嬉しそうに走ってくれるから。
そんなわけで、二日ぶりに町にやって来た私は、まずはキラとマイの様子を見に行った。マリエッタさんが預かっているので、おそらくこの時間なら自警団にいるはず。
「おはようございます」
私が小さくなったティコとキイを連れて自警団に顔を出す。
「あら、おはようございますわ、アイラ」
「マリエッタさん」
予想通り、マリエッタさんが顔を出す。その手にはキラとマイがしっかりと抱えられている。
「大事に抱きかかえてますね」
「ええ、大事な家族ですもの。ねっ」
「ミャウ」
マリエッタさんが声をかけると、二匹とも嬉しそうに鳴いている。
そういえば、かなり毛づやがいいように見える。
「さすが男爵家。ものすごくキラキラしていますね」
「ええ、それはもう。町を守ってくれる仲間ですから、大切にしてあげませんとね」
マリエッタさんはにこにことものすごい笑顔を見せている。
私のティコとキイだってしっかりお手入れしているけど、さすがに負けるわね。
私たちが話している間、ティコたちも会話をしているようだった。種族の違う魔物でも、意思疎通ってできるみたいなのよね。戦っている時だって、話をしていたみたいだし。
「そうですわ、アイラ。この子たちを大きくしてもらえませんかしら」
「えっ、キラとマイを?」
私が驚いていると、マリエッタさんはこくりと何度も頷いている。
でも、さすがに町の中で戻すには場所が狭いというもの。そのことをマリエッタさんに伝えると、しょうがないなという感じで了承してくれた。いや、先日見てたでしょ?!
やれやれという感じで、私たちは町の外へとやって来る。
どういうわけか、自警団のメンバーも一緒についてきているので、私は大体の察しがついた。
「大丈夫、キラ、マイ。毒とか使わないわよね?」
「ギャウ」
「ガルッ」
二匹とも大丈夫という返事をしている。まあ、従魔のことだから信用するけれど。
一応私の収納魔法の中には解毒ポーションも入ってるからね。あっ、またティコに血を分けてもらわなきゃ。素材だからね。
ちらりとティコを見ると、私の考えていることを察したのか、右の前足をひょいと差し出していた。
その仕草を見た私は、改めてティコを抱え上げる。
「大丈夫よ。必要ないようにするから」
「みゃう」
ティコはそう鳴きながら、しょぼんとしょげていた。なんだか私の気持ちを完全に察せられちゃってるわね。
「ニャー」
ティコを丁寧に撫でているものだから、やきもちを焼いたのかキイが私の足をつかんでくる。自分も抱きかかえてくれと言っているみたい。
私は仕方ないので、キイもひょいと抱きかかえる。ただ、両手が塞がってしまったので撫でることはできなかった。残念。
目の前では、キラとマイを相手にして自警団たちの訓練が始まる。
キマイラなんて魔物は、普通ならば出会ったら終わりという狂暴な魔物らしい。でも、ここにいるのは私の従魔となった子たち。攻撃も撫でるような感覚で優しくしてくれている。言ってしまえばじゃれつくような感じだと思う。
自警団員たちの本気の攻撃をもろともせず、軽くあしらって楽しそうにしていた。
「ふぅ、ありがとうございますわ。わたくしでもまったく歯が立ちませんわね」
マリエッタさんが自警団員たちを止めたので、私はキラとマイを小さな姿に変える。
その二匹は、褒めてと言わんばかりに私に駆け寄ってきていた。仕方ないので、ティコとキイを地面に降ろしてキラとマイの頭を撫でておいた。
「本当、これほど危険な魔物を従えているアイラが信じられませんわよ。でも、そのおかげでわたくしたちはこのような特訓ができるのですわ」
「それはそうですね。私でも戦った時は生きた心地がしませんでしたもの」
「ミャアミャア!」
キラがなにやら騒がしくしている。どうやら、謝っているといった感じのようだった。
すっかり私たちのいうことを理解しているみたいで、魔物たちの知能の高さというものを思い知らされる。
そういえば、ピゲストロさんたち預けてきたファングウルフたちも、私のいうことは理解している節はあったものね。
無事にマリエッタさんとの用事を済ませた私は、改めて男爵邸へと向かう。
今日も無事にポーションと茶葉を納品すると、キイに乗って家へと戻ったのだった。




