第93話 従魔たちの謎
目を覚ますと、ベッドの上にはティコとキイが揃って丸くなっていた。
「むむ……。ベッドから出られない……」
体の両脇を固められていて、抜け出そうにも少し苦労しそうだった。
私の胴体の両脇にティコとキイが寝そべっている。確か寝る時は専用の籠に入れておいたはずなのに、どうして私の隣にいるのかしらね。
いろいろと疑問に思うところはあるのだけれど、私はどうにかベッドから抜け出して顔を洗いに向かった。
寝間着から普段のメイド服に着替えた私は、朝食の準備に取り掛かる。
この辺りでよく見かける魔物の肉だけど、いくら食べても飽きない不思議な魅力がある。
魔法で火を起こして、平鍋の中で軽く焼いていく。
いい感じに焼けたので、そのおいしそうな香りが部屋の中に充満していく。
「にゃう~ん」
「ミャ~ン」
においに誘われるように、ティコとキイが食堂へとやって来た。
「おはよう、ティコ、キイ。そろそろ焼けるから、ちょっと待っててね」
「みゃう」
二匹に気が付いた私が声をかけると、揃っておとなしく床で座って待っている。
ティコは慣れたものだけど、来て間もないキイもちゃんとおとなしくしている。ティコのやっていることを真似しているのかしらね。
なんにしても、聞きわけがいいというのは助かるわ。
私は焼き上がった肉を木でできた平皿に乗せると、ティコとキイの前においてあげる。
すぐさま食べ始めないで、私が準備できるのをじっと待っているのはとても印象的だった。これも従魔だからなのかしらね。
「私も用意できたから、食べましょうか」
「にゃん」
「ミャウ」
私が声をかけると、二匹とも待ってましたと言わんばかりの笑顔で、肉に食いついていた。ふふっ、いい食べっぷりね。
よく見てみると、キマイラのキイは獅子とヤギの頭、それと蛇のしっぽそれぞれで食事をしている。食べた後ってどうなっているのかしらね。見ていてふと疑問に思った。
私はひょいと食事を終えたキイを抱え上げる。
「お前って、食べた後どうなっているのかしらね。よくよく思えば頭が三つもあるんだもの。気になっちゃうわね」
私はじっとキイを見つめながら話し掛ける。けれど、キイもよく分からないのか首を捻って困っていた。
本人が分からないなら、私たちにも分からないか。
そう思えば、魔物というものはいろいろ分からないことが多いわよね。
ひとまず食事を終えた私たちは、いつもの通りの生活を送った。
すべての用事を済ませると私は書庫へとやって来る。
キマイラの生態を調べるためよ。
これだけの蔵書があるのなら、多分一冊くらいはあるんじゃないかと思う。
「魔導書、ちょっといいかしら」
ティコとキイを寝かしつけた私は、書庫で魔導書に呼び掛ける。
いつもの本が私のところへ飛んでくる。何か用かといわんばかりに、魔導書はゆっくりと真横に傾いていく。
「キマイラについて書かれた本は、あるのかしら」
私が尋ねると、すーっと魔導書は飛んでいく。
ある程度の高さまで飛ぶと、こつこつと角をぶつけている。ここだよと言っているみたいだった。
しかし、困ったものだわね。
本のある位置が高すぎて、私ではとても届かなかったのだ。踏み台はあるものの、高さが低い。どうしたものかな。
「にゃう?」
私が困っていると、ティコがすっと顔を出した。
「ティコ、寝てたんじゃないの?」
「みゃうにゃう」
私が振り向いて声をかけると、ティコは少し長めに鳴いていた。
従魔契約のおかげか、なんとなくいっていることが分かる。
ティコは自分に任せてほしいと言っているようだ。
「そう? だったらお願いね、ティコ」
「みゃうう」
ティコは風魔法を使う。
風が巻き起こり、先程魔導書が叩いて示していた場所へと向かっていく。本棚の隙間へと風が入っていき、少しずつ、少しずつではあるものの、本がせり出してくる。
「すごい。こんな風魔法の使い方があるのね」
ティコに見せてもらった魔法にはびっくりだ。人間が使うならまだしも、魔物であるティコがこのような繊細な魔法の使い方をするのだから。
従魔に関しても分からないことが多い。やっぱり、ここにある書物をもっと積極的に読み込んでいかなきゃいけないかしらね。
ひとまず、ティコが取ってくれた本を私は読むことにする。
私が椅子に座ると、ティコは膝に乗っかってくる。
「ありがとう、ティコ。それに魔導書もね」
頭を撫でてやると、ティコは嬉しそうな声で鳴いている。魔導書も魔導書で、部屋の上の方でくるりと一回転していた。
その姿を見て、私もつられて嬉しそうに微笑んでしまう。
ひと通り落ち着くと、私はティコを膝の上に乗せたまま読書をする。時折ティコの背中を撫でながらだ。
マンティコアは背中が弱点らしい。優しく撫でているとくすぐったそうにしているので、弱点なのは間違いないかもしれない。
すやすや眠っている様子を見ていると、弱点とは分かってもつい繰り返して撫でてしまう。
「う、にゃあぁ~……」
「ふふっ、可愛い」
くすぐったいのか時折漏れる鳴き声に、私は顔が緩んでしまう。
私はお腹が空いて起きてきたキイにせがまれるまでの間、ずっと本を読みふけっていたのだった。




