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第90話 キマイラと一緒に

 ピゲストロさんの待つ場所まで戻る。

 私の気配に気が付いたピゲストロさんは手を振っているものの、一緒にいるファングウルフたちは怯えてその場に伏せてしまった。

 どうやら、ティコの背中に乗っているキマイラたちに気が付いたみたいだ。

 それが分かったとしても、私は一度降りなければならない。ティコに命じて地面へと降りてもらった。


「うん、どうしたんですか、その子たちは」


 私が抱きかかえた三体の幼獣を見て、ピゲストロさんが首を傾げている。


「この子たちが、ファングウルフたちが南下してきた原因ですね」


「なんと?!」


 小さな魔物を見て、ピゲストロさんが驚いている。ちなみにファングウルフたちは怯えたままだ。

 小さくてもマンティコアよりも強力な魔物だものね。それに一度追いやられているとあって、においと直感ですぐ分かっちゃうのだろう。


「この子たちはキマイラという魔物です。この子たちが何らかの原因で山を越えてきたことによって、ファングウルフは生活の場を押しやられてしまったんですよ」


「なるほど、そういうことか。ということは、真の原因はあの山の向こうにあるということですかな」


「そうだと思います。ただ、ティコを通じて聞いてみても、この子たちは答えてくれないので、詳しくは分かりませんね」


 私はキマイラたちをぎゅっと抱き締める。

 私の気持ちが伝わったのか、キマイラたちはミャウミャウと鳴いている。


「それにしても、さすがはアイラ殿。キマイラすらも従魔にしてしまうとは、恐れ入りますな」


「たまたまですよ。魔導書たちが私に魔法を教えてくれたから、それでどうにか運良く対処できただけですから」


 私の周りでは、ついてきた魔導書たちがくるくると回っている。

 話を終えると、私はキマイラたちを地面へと下ろす。それと同時に少し遠ざかるようにいうと、魔法を使って元の大きさに戻す。


大なれ(ビッグ)!」


 ボフンという音とともに、キマイラたちが元の大きさに戻る。


「おおう……。これがキマイラ。なるほど、これではファングウルフがこれだけいても敵わないはずですな」


「マンティコア同様に風の魔法を得意としますからね。一体が相手でも、風魔法で簡単にあしらわれていたでしょう」


「ふむ」


 大きくなっても、すっかり私に懐いているのか、すりすりと顔をこすりつけてくる。ティコも負けじと混ざってくるので、威圧感がすごかった。


「この大きさだと餌が大変でしょうから、ティコと同じように普段は小さな姿で過ごしてもらおうと思うんです。小さい状態でも、強さは十分ありますし」


「ふむふむ、それはいいですな」


 ピゲストロさんも賛成しているようだ。


「三体とも私のところに置いちゃうと、多分ティコがやきもちを焼くと思うんですよね。なので、二体は別のところ、マリエッタさんたちに預かってもらおうかなと思うんです」


「ふむ。その方がいいかもしれませんな。それでアイラ殿」


「なんですか、ピゲストロさん」


 ピゲストロさんが改まって声をかけてくるので、私はきょとんとした顔で聞き返す。


「差し出がましいお話なのですが、よければファングウルフどもは我の方で引き受けますが」


 なんとまあ、ウルフたちを受け入れてくれるという。

 しかし、この間応急処置とはいえ巣を作ったばかりなので、どうしたものかと悩んでしまう。

 ちらりとファングウルフたちの方を見ると、キマイラたちに怯えていた時とは違った表情を見せている。


「そっか、お前たちはそれでいいのね?」


「がうっ!」


 ファングウルフたちの意見はひとつのようだった。キマイラがいなくなった事で元の住処に戻れるけれど、今の主である私にもあまり離れたくないらしい。なので、そこそこ近い場所にあるピゲストロさんのお屋敷に移住することを受け入れてくれたようだった。

 正直なところ、魔物にばかり好かれても困るというもの。でも、平和になるのならそれでもいいかと私は諦めた。

 しかし、私がティコに乗って戻ろうとすると、ファングウルフたちは寂しそうな表情をしていた。やっぱり、主である私と離れるのは嫌なのだと思われる。


「大丈夫よ。その気になればいつでも会いにくればいいし、私も会いに行くから」


 私はファングウルフたちの頭を撫でておく。嬉しそうにしている顔はとても印象的だった。


「では、ピゲストロさん、その子たちをよろしくお願いしますね」


「うむ、任された」


 二十匹にものぼるファングウルフたちを従え、ピゲストロさんは私たちを見上げている。

 私は手を振って挨拶をすると、ティコに命令を出す。


「さあ、家までひとっ飛びよ」


「ぐあああっ」


 ティコは大きく返事をすると、家に向けて飛び始めた。

 私の前では三匹のキマイラたちが楽しそうにしている。いつもは自分たちで飛んでいるから、別の魔物に乗って空を飛ぶという体験が新鮮なのだろう。

 そういえば、ピゲストロさんのところに戻ってくるまでの間も、ずいぶんとはしゃいでいた気がする。

 ひとまず、ファングウルフが南下してきた問題はこれで解決のはず。

 キマイラたちを連れ帰ってきたことで、ようやく私は自分の家で落ち着くことができたのだった。

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