表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/109

第87話 異変の正体

 ティコに乗って移動すると、歩いて四日もかかる道のりもあっという間だった。


「あの屋敷の北側に、こんな光景が広がっているなんて……」


 目の前に広がるのは、山がちな光景だった。

 この山が、現在ピゲストロさんが治めている屋敷とマシュローとの間の経路を歪めている山。もっといえば、私の故郷の方向の崖に繋がる山らしい。


「ファングウルフは生息域こそ広範囲にわたるが、この辺りではこの山の中腹のやや下で暮らしている。そんな彼らが追い出されてきたということは、この山に何か異変があったということだろう」


「そうなんですね」


 ピゲストロさんの話を聞いて、私はファングウルフたちに視線を向ける。

 大きなティコの背中からなので、見下ろす形になってしまう。

 ファングウルフたちは私たちの方を見ることなく、山の方をずっと見ている。どうやら、自分の元々の住処を見て懐かしんでいるようだった。

 私の従魔となっても、やはり故郷というのは特別なのだろう。

 すっかりファングウルフたちに感情を寄せてしまった私は、どうにかしてあげたくて心が苦しくなってしまう。


「ピゲストロさんのいうことを聞くように伝えますので、私とティコで山の様子を見てきます」


「大丈夫なのか、アイラ殿」


「私には魔導書もティコもいますし、よっぽどじゃなければ大丈夫です」


 今回かなり警戒をしているせいか、普段は一冊しかついてこない魔導書がなんと二冊に増えていた。魔導書がついてくるということは、北側にあるあの山には何かがあるとみて間違いないと思う。

 私はピゲストロさんとファングウルフをその場に待機させて、北の山へと向けてティコと進んでいく。

 羽を出しての飛行スタイルなので、あっという間に山が迫ってくる。

 そういえば、私がこっちの方にやって来るのは初めてだ。遠くから見ていた限りでは分からなかったものの、この辺りの山はかなり高さがあった。


「こんな山のふもとあたりに住んでいたのね、あの子たち」


「がるっ!」


 空でとどまりながら、私は地上の様子を見ている。

 その時だった。


「がるるるる……」


「どうしたのよ、ティコ」


 ティコが突然唸り出した。

 何事かと顔を上げた私の視線の先には、魔物の姿が見えていた。


「えっと、三体かしらね」


 普通なら慌てるところだけど、この時の私はどういうわけかとても落ち着いていた。


「鑑定!」


 すぐさま私は鑑定魔法を使う。

 魔物は目の前にいるけれど、ティコもいるのでどうにかなると思ったからだ。


『キマイラ

 獅子とヤギの頭部、獅子の胴体、蛇のしっぽにこうもりの羽を持った混成獣』


 説明文が思ったより少ない。これでは能力がどういったものか把握しづらいわね。

 ティコですらかなり警戒しているので、おそらくかなり強い魔物なのだろう。空も飛べるわけだし、こちらの強みが活かせない。

 できるとすればしっぽの毒による弱体化だろうけど、向こうも蛇のしっぽを持つので通用するのか分からない。

 ひしひしとその強さが自分の身に伝わってくる。


「これは、厳しそう?」


「がるっ」


 ティコは頑張るといったような返事をしている。

 目の前のキマイラたちは襲ってくる気配はない。これ以上近付くなと、縄張りを主張しているように見える。


「ぐるっ、ぎゃうぎゃうっ!」


「てぃ、ティコ?」


 私がどうしようかと悩んでいると、ティコが吠え始める。

 するとどうしたことだろうか、キマイラたちの方も何かを叫んでいる。


「もしかして、話をしている?」


 ティコが静かになった時に、キマイラたちが吠え始めているので、どうやら会話をしているとみられるようだ。

 ティコとキマイラたちの睨み合いは続いている。

 その最中、ティコがちらりと私に視線を向けてきた。


「ふむふむ、この山は自分たちのものだ。入るものは誰であろうと排除する。そう言っているのね」


「がるっ」


 こくりとティコは頷いている。

 つまり、キマイラたちはこの山を自分の住処としたというわけか。


「ティコ、ふもとに降りてくるかどうかを確認できるかしら」


「ぐるっ」


 やってみるという感じの返事をしたティコは、再びキマイラたちに話し掛ける。


「そっか……。餌がないと困るものね。とはいえ、ふもとに降りてこられては私たちの生活にも影響が出るわ」


 事情を理解したとはいえ、私はとても受け入れられるという状況にはなかった。

 強大な魔物はあっという間に獲物を狩り尽くしてしまうし、弱い魔物や動物たちは恐れて逃げてしまう。そうなると、いずれこのキマイラたちはまた移動をすることだろう。

 となれば、今後もこういった被害がなくなるわけではない。今まで見たことがないので、おそらくは北から来たはず。どの方向に進んでも、私の知っている人に被害が及びかねない。

 そう考えた私は、今ここで、どうにか解決策を見出した方がいいかもしれないと考えた。


「……ティコ、戦いましょう」


「がるるっ!」


 私は決意を固める。せっかく魔導書も二冊ついて来てくれているんだし。

 私が敵対の意思を見せると、キマイラたちも空中で身構えている。

 マンティコア一体と一人対キマイラ三体。猛獣たちによる空中戦が、今ここに始まろうとしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ