第83話 受け入れられませんでした
「なんなのですのよ……」
街を出る時にすれ違ったマリエッタさんを捕まえられたので、マリエッタさんに同行してもらう。
そうやって、ファングウルフたちが待機している場所まで戻ってくると、あまりの状況にマリエッタさんは顔を引きつらせていた。
「ファングウルフですわね。こんなのが町の近くまで来ていましたの?」
「やっぱり、凶悪な魔物なんですね」
「それはそうですわよ。上位クラスの冒険者たちが数人がかりで相手にするような魔物ですわ」
私が確認すると、怒ったような声で私に説明をしてくれる。
だけど、私もティコも特に反応はなしな。マリエッタさんの心境が分からなくはないからよ。
危険な魔物がたくさん目の前にいれば、誰だって怒鳴りたくはなる。
「マリエッタさん、あまり叫ばないで下さい。ファングウルフたちに睨まれてますよ」
「えっ、いや、それは怖い」
マリエッタさんが私に抱きついてくる。
さっき私の従魔になったばかりのファングウルフたちは、マリエッタさんをとても警戒しているようだ。
「とにかく、この子たちはもう大丈夫ですよ。私とティコで実力の差を見せつけて従えましたから」
私はファングウルフたちを順番に撫でていくと、みんなおとなしく撫でられていた。まったくもって普通の人たちに信じられない光景だと思う。私も信じられないもの。
「くう~ん」
それにしても、撫でられているファングウルフたちはとても気持ちよさそうな顔を見せている。
あれだけ恐ろしく感じた魔物でも、一度懐いてしまうとこんなに可愛くなってしまうのかと思ってしまう。
その時、私ははっと気が付く。
「そっか、ティコもそうだったものね」
「にゃう」
きょとんとした顔の私を見て、ティコは笑顔を見せながら鳴いていた。
うん、ティコは可愛いわね。
私が拾い上げてあごの下を撫であげると、ごろごろと嬉しそうにしていた。
「それで、このファングウルフたちの従魔登録をしたいんですけど、大丈夫ですかね、これだけ連れていって……」
「ちょっと待ちなさいな。担当の者をこっちに連れてきますわ。これだけの魔物がついてきたら、さすに町の人が怖がりますわよ」
「分かりました。私はここで待っていますね」
結局話し合った結果、マリエッタさんは町へと戻り、従魔の担当者を連れてくることになった。近くに魔族がいるということもあって、必要だろうとして配置されていたらしい。一番の原因は私らしいけれどね。
しばらく待つと、自警団の従魔担当官を連れてマリエッタさんが戻ってきた。
「お待たせ。これだけいるけれど大丈夫かしら」
「無理です」
即答だった。
理由は従魔登録のための道具が足りないということらしい。
目の前にいるファングウルフたちは全部で二十匹くらい。確かに、ここまでの数は普通なら想定しないでしょうね。
「そ、それじゃあ、ある分だけで従魔登録をして頂けますでしょうか。それがなくても私に対して従属状態になっているので、私の命令であれば聞いてくれると思いますので」
「う、うん? 従属状態?」
担当官が目を白黒させて驚いている。何か変なことをいっちゃったかしら。
マリエッタさんにもどういう状況なのかを追及されたので、私は説明することにした。
「鑑定魔法でこうやって見てあげると、一番下の状態説明に『状態:従属』っていうのが出てくるんですよ」
「……本当ですわね」
「鑑定魔法、持っておるとはたまげたな……」
「あれ、やっぱり鑑定魔法って珍しいんですか?」
二人の反応に、私は顔が引きつってしまう。
やっぱり隠しておくべきだったかしら。
「いや、鑑定魔法自体はそこそこありふれたものだ。精度こそ違えどもな」
「ふむふむ」
「ただ、大抵のものは名前と簡単な説明が分かるくらいだ。状態まで分かるものとなると、ぐんと扱える者は減る」
「ええ……」
従魔の担当官の説明を聞いて、露骨なまでに表情が歪んでしまう。
「やっぱり、私の魔法っておかしかったのかしらね」
「そうでしょうね。そもそも錬金術の質も違いますからね」
マリエッタさんは額に指を当てて首を左右に振っていた。呆れているみたいだった。
「それよりも、この子たちどうするのかしら、アイラ」
「えっ、どうって?」
「ただでさえ、マンティコアだけでも危険視されているのよ? これだけのファングウルフを連れているとなると、さらに危険度に拍車をかけるだけですわ」
「そ、それは困ります。私はただのんびり暮らしたいだけなのに!」
マリエッタさんの言葉に、私は慌てて訴える。
ところが、マリエッタさんたちの反応は冷ややかなものだった。
「説得力がありませんわ。ひとまず、このファングウルフたちをどこに住まわせるかということを考えませんとね」
「そ、それは確かに……。でも、そもそもこのファングウルフたちはどうしてこんなところまでやって来たのかしら」
「それも問題ですわね。さらに調査をしてみる必要がありそうですわ」
私を見るマリエッタさんの表情は実に真剣だった。
「ひとまず、ウルフたちはあなたの家で預かってくれませんかしら。数が数ゆえに、すぐに町ではいそうですかと受け入れられませんのよ」
「分かりました。それでは、一度家まで連れて帰ります」
「ええ、お願いしますわ」
話がまとまると、結局従魔登録は見送りになって、ファングウルフたちは私の家でしばらく預かることになった。




