第82話 ファングウルフ
目の前にはたくさんの犬型の魔物が気絶している。
小さいながらにも本性を現したティコの魔力にさらされたからだ。
あの魔力に対してこの程度の耐えられないので、この魔物の強さはそれほどでもないということだろう。
「よし、鑑定っと」
気になる私は犬型の魔物に鑑定魔法を使う。
知識がなくても、魔法が教えてくれるのは便利というものよね。
『ファングウルフ
群れで生活する中位の魔物
狙った獲物は執拗に追い回す性質を持つ』
「ふ~む、結構怖い魔物じゃないの。ティコ一人に完全に怯えてたみたいだけど」
「にゃうん」
威張るようにティコは鳴いている。
集められたファングウルフは二十匹くらいいる。普通に見るなら脅威なんでしょうけど、ティコに慣れちゃった私にはあまり怖く感じられないわね。
「あっ」
私がじっと見ていると、ファングウルフが目を覚まし始める。
目を覚ましたファングウルフは、飛び上がって私たちから距離を取っている。唸ってはいるものの、すごく腰が引けている。
「ちょっと待って」
逃げようとするファングウルフを一匹捕まえる。
「きゃうん!」
怖いと言わんばかりにじたばたと暴れている。傷ついちゃうな。
「よしよし、いじめないからじっとしててちょうだい」
私はきゅっと抱きしめてあげる。
すると、どうしたことだろうか。私とファングウルフとの間から光が放たれた。
「え?」
思わず目が点になってしまう。
おそるおそる手を放してみるが、さっきまで暴れていたファングウルフが逃げなくなっていた。ちょこんと座って私を見ながらしっぽを振っている。
「これって?」
不思議に思う私は、改めて鑑定魔法を使ってみる。
『ファングウルフ
状態:従属』
説明文の最後に『従属』という新しい文言が加わっていた。
「まさか……?」
ティコを改めて鑑定する。
「やっぱり……」
予想通りだった。ティコの説明文の最後にも『従属』の文字があった。
つまり、私の従魔になったということで間違いなさそうだった。
「嘘でしょ?」
とてもじゃないけれども信じられなかった。暴れるのを逃がさないようにしっかり捕まえていただけなのに。なんでこんなことになっているのかしら。
私は理解しがたい状況に頭が痛くなってくる。
そんな中、ティコが従属状態になったファングウルフに近付いてくる。にゃうがうと何か話しているようだ。
「ティコ?」
「みゃ~ん」
「えっ、ファングウルフが私の従魔になってくれるって?」
「にゃう」
従魔になったことでか、ティコの言っていることがなんとなく分かる。
自分たちが束になっても敵わないマンティコアを従えているとあって、ファングウルフたちは負けを認めたということらしい。なるほどね。
私が立ち上がるとずらっとファングウルフが取り囲んでくる。なんというか、これだけ集まるとさすがに少し怖く感じる。
私が戸惑っていると、最初の一体が突然吠える。その直後、ファングウルフが揃いも揃って私に向かって伏せをしていた。
「ど、どうしよう……。この状態で町に戻っても大丈夫かな」
ファングウルフが大量にいるという状態ゆえに、私はものすごく悩んだ。
「にゃう」
「えっ、近くまで行って待機させればいいって?」
「みゃうみゃう」
ティコが提案をしてくるので、私はそれに従うことにした。確かに魔物を大量に町まで近付ければ警戒されちゃうものね。
それにしても、従魔にしてから長くなってきたせいか、ティコの言っていることがなんとなく分かるようになってきた。これは嬉しいのだろうけど、ますます魔族になった実感が高まってしまう気がする。
魔物使いは人間でもなれるらしいけど、見たことないからね。魔族だからっていった方が楽じゃないの。私自身もそれで納得できちゃってるし。
「はあ……。私ってば、どんどん普通から外れていくわね」
ティコを抱きかかえ、大勢のファングウルフを引き連れた私の姿は、一体みんなにはどんな風に映るのかしらね。
ただただ、私はため息をつくことしかできなかった。
ティコの背に乗って、私は町を目指して戻っていく。
どのくらい戻っただろうか。まだ町が見えないというのに、突然ティコがその足を止めた。
「ティコ?」
「がうっ」
「えっ、ここでウルフたちを待機させろって?」
「ぐるっ」
ティコがファングウルフたちを待機させるように提案してきた。
確かにこのまま戻れば町の人たちを驚かせてしまう。
「しょうがないわね。ティコ、この子たちをお願い。この最初に従属になった子を連れて、町に行ってくるから」
「がるん」
ティコは頷いていた。どうやら了解ということのようだった。
そんなわけで、私はティコにこの場を任せて、ファングウルフを一匹連れて町へと向かって行く。
クルスさんかマリエッタさんがいれば話が早いと思うけど、そう都合よくいるかしらね。
いろいろと気になるところだけど、もうスムーズに話が進むことを祈るしかない。
私は従属させたファングウルフを連れて、男爵様の治める町へと戻ってきたのだった。
 




