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第80話 頼られる現実

 2つの王国の国王に呼ばれて、その両方に静かに暮らしたいという要求を突き付けた私は、それからというもの平和な日々を送っている。

 薬草と茶葉用の葉っぱを摘んで、ティコと一緒に魔物を狩って、ポーションと茶葉を作る。時間が余れば書庫で読書もした。

 数日おきに近くの町に出向いてはポーションと茶葉を納品して、適当に町の中で買い物をする。

 少々の義務はあるけれど、悠々自適な生活を送れていて、私はとても満足だわ。


「みゃ~う」


 私が読書をしている横では、ティコが今日もごろごろとしている。

 私のことを理解しているのか、読書中はまったく邪魔をしてこない。

 ティコはマンティコアという魔物ではあるけれど、とても頭いい子のようだった。


「にゃう」


「どうしたの、ティコ」


 そんなティコが突然、私の横に座って前足で叩いてくる。

 ふと意識を外に向けると、どうやら家に誰かが来たみたいだった。

 この家にたどり着ける人物はほとんどいない。


「この気配は、プレアさんかしらね。魔力の感じが私に似ているもの」


 読書中だったけど、ひとまずしおりを挟んで読書を終わらせる。放っておくのも可哀想だからね。

 私が玄関の扉の前まで行くと、扉の向こうでうろちょろする影が見えた。

 感じた通りにプレアさんだとするなら、私とはいろいろあって気まずいはず。だから、入ってくるのに躊躇する気持ちはよく分かるというものだった。

 でも、家の前でうろちょろされるのは気持ちが悪いので、私は思い切って扉を開けた。


「ひっ!」


 いや、「ひっ」ってなんなのかしらね。こっちのセリフなんだけど。

 ちょっと頭にはきたけれど、とりあえず話を聞きましょうかね。


「プレアさん、お久しぶりですね。ひとまず上がって下さい」


「え、ええ。お邪魔します」


 プレアさんが頭を下げて家に入ってくる。

 知っているプレアさんと違って、だいぶおとなしい感じがする。多分、マリエッタさんたちから徹底的にメイドのことを叩きこまれたのでしょうね。これなら、きちんと話ができそうだわ。


「にゃーーーっ!」


 プレアさんを見たティコが威嚇している。そういえば見たことないかな。


「ティコ、お客様だからおとなしくしてて。大丈夫だから」


 私が言うと、ティコは威嚇をやめて私の肩に上がってくる。何かあったら守るよという意思表示なのかしらね。嬉しいけれど、プレアさんがちょっと……。あ、大丈夫そうだったわ。


「可愛いわね。触らせてくれてもいいかしら」


「ダメよ。多分、今触ったらしっぽが飛んでくるわ、猛毒のしっぽがね」


「ひっ!」


 忠告をすると、プレアさんは出そうとした手を慌てて引っ込めていた。


「も、も、猛毒って何よ!」


「この子、魔物のマンティコアなのよ。私には懐いているけど、敵意があると判断されると、容赦なく攻撃するわ」


「ま、マンティコア……?」


 しっかりと説明したと思うんだけど、理解が追いつかないのかプレアさんはぽかんとした表情をしている。

 私は肩に乗ったティコをつかんで、しっかりと両手で抱える。


「というわけで、用件だけをお聞きしますよ。わざわざプレアさんを寄こしたということは、マリエッタさんの依頼ですよね」


 一度ティコを私の椅子に置くと、お茶とお菓子を用意しながらプレアさんに確認をする。

 そしたら、プレアさんってばすごく驚いた顔をしていた。


「よく分かったわね、その通りよ」


「だって、プレアさんってばマリエッタさんの専属じゃないですか」


 偉そうな姿勢をするプレアさんだったけど、私が指摘すると思わずこけそうになっていた。一体どうしたのかしら。


「ま、まあ、それはそれとして、あなたに依頼があって来たのよ」


「依頼?」


 話が見えてこないので、私はつい眉間にしわを寄せてしまう。


「ほら、この近くの町があるでしょ。その北の方で魔物の群れを目撃したという証言が出ているのよ。それで、あんたならどうにかしてくれるんじゃないかっていうことになってね」


「そういうわけなのね」


 どうやら魔物が出てきたから、従魔持ちの私とティコの力を借りたいという話のようだった。

 さすがにこの案件はどうしたものかと思う。私としてはもうのんびり暮らしたいんだけど、だからといって知り合いが困っているのも見逃せない。


「う~ん、話くらいは聞くわ。魔族になったとはいっても、私もそこまで人でなしじゃないもの」


「助かるわ。あたしは戦闘が得意じゃないから」


 すっぱり言い切るプレアさん。無理だって言ってくれるのは、むしろ助かるわね。


「とりあえず、明日でいいかしら。近いとはいってももう日が暮れかけているし」


「泊めてくれるわけ? 助かるわね。あんたの料理はおいしいから、押し付けられたような役目だけど、こういうのは役得っていうのかしらね」


 プレアさんがものすごくにこにことした笑顔を見せている。そんなに私の料理が食べたかったのかしら。

 嬉しそうな顔に、つい顔がほころんでしまう。

 実際、そんな顔をしている状況ではないのだろうけど、ご飯くらいはおいしく食べなくちゃね。

 翌日、プレアさんから伝えられた依頼の詳細を聞くため、私はティコとプレアさんを連れて街へと向かったのだった。

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