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第72話 ティコという存在

「こいつで全部だな」


「ええ、アイラに何かあればわたくしたちが迷惑しますわ」


「う、うう……」


 家の外に出てきた私の前に、がっちり武装した兵士たちが並べられていた。

 魔法使いがいるかと思ったけど、兵士たちだったが予想外だった。


「まったく、王国の兵士がこんなことをされては困るというものだ」


「まったくですわね。アイラの存在はわたくしたちにとって有益ですわよ」


「あ、あの。これは一体どういうことなんですかね……」


 状況が飲み込めない私は、二人に何があったのか問い掛けてみた。

 そしたら、思った以上に驚くべき話が出てきた。


「ええっ?! 王国が私のことを危険視しているですって?」


「ああ、多分そのティコの影響だろうな。成獣のマンティコアを目撃した人からの通報が、城までいったらしい」


「マンティコアは危険度がとても高い魔物ですものね。それを使役するとなると、いずれ国に牙をむくのではないかと考えたようですわ」


「そ、そうなんですか……」


 私がちらりと兵士たちを見る。

 兵士たちは縛り上げられながらも、顔を背けている。


「私、そんな気はないんですけれどね。ね、ティコ」


「にゃう」


 私が話し掛けると、ティコもそうだといわんばかりに鳴いていた。

 とはいえ、この状況はあまりよろしくないように思える。なので、私はクルスさんたちに頼んでちょっと広い場所へと移動してもらうことにした。


「ここら辺でいいでしょうかね」


「何をする気だい、アイラ」


「ええ、ティコの安全性を示そうと思いましてね。ティコ、大なれ(ビッグ)


 魔法を使うと、ティコの体が大きくなっていく。

 ぐんぐんと大きくなるその体を、やって来ていた兵士たちは唖然とした様子で見つめている。


「これがティコの本当の姿ですね。成獣のマンティコアです」


 体が大きくなったティコは、相変わらず私に顔をこすりつけている。しかし、それと同時に兵士たちには睨みを利かせていた。

 まぁそうでしょうね。わけの分からない霧で家に閉じ込められちゃったんだもの。怒るのはとても分かる。


「があああっ!」


「ひ、ひぃっ!」


 ティコが雄たけびをひとつあげれば、兵士たちは揃って腰を抜かせていた。


「もうダメよ、ティコ。怖がらせちゃったらまた何をされるか分からないからね」


「ぐるる……」


 私が叱ると、ティコはしょぼんとした表情を見せている。本当に可愛い限りだ。

 ティコとの仲睦まじい姿を見せつけると、兵士たちはぽかんと情けなく口を開けていた。


「それにしても、これがマンティコア……。見るからに恐ろしい魔物ですわね。アイラに懐いているこの子はどことなく可愛いですけれど」


「ぐるっ」


 マリエッタさんにも可愛いといわれたのが嬉しいのか、ティコは目を細めて笑っている。


「マリエッタの今の言葉に喜んでるな。俺たちの言うことが理解できるくらいには、頭がいいようだな」


「そのようですわね」


 次の瞬間、ティコはゆっくりと捕らえられている兵士たちに近付いていく。

 猛獣マンティコアが近付いてくるとあって、兵士たちは恐怖で震え上がっている。

 至近距離まで近付いて、口をカパッと開けるティコ。食べられると思った兵士たちは思わず身構えてしまう。

 だが、次の瞬間に思わぬ行動に見舞われる。


 べろりんちょ。


「あわ……あわわわ……」


 ティコになめられた兵士は、震え上がって気絶してしまった。


「あらあら、刺激が強かったようですわね」


「まぁ、しょうがないよな」


 気絶した兵士を見ながら、クルスさんもマリエッタさんも反応に困っているようだった。

 ただ、この後もティコは他の兵士をなめて回っていた。どうやらじゃれつきたかったようだ。

 兵士が全員気絶してしまうと、残念そうにしょんぼりとしている姿が印象的だった。


「どうしたんだ、ティコのやつ」


「多分、遊んでほしかったのよ。なのにみんな気絶しちゃったから……」


 クルスさんに尋ねられたので、私はそう答えた。これにはクルスさんも、「そうか」と納得したようだった。

 しかし、兵士をこのまま放っておくわけにもいかないので、ティコの背中に乗せて町まで移動することにしたのだった。ちょうど、ポーションの納品のあったしね。

 その代わり、ティコの正体が街中に広まってしまったわ。

 兵士を連れていく上で小さくできなかったからしょうがないわね。

 しょうがないので、みんなの見ている前でティコを小さくする。


「まあ、普段目にしているティコちゃんだったのね」


「大きさ変えられるってすごいな」


 町の人の反応に、思わずびっくりしてしまう。

 小さい状態のティコを普段可愛がっているせいか、町の人たちもとても好意的に現実を受け入れてくれた。これには私も思わずホッとしてしまう。

 町の人たちに挨拶をした私は、兵士を自警団に引き渡した後、クルスさんとマリエッタさんと一緒に町長である男爵様たちのところへ向かった。

 これでようやく安心して久しぶりのポーションの納品ができるというもの。

 無事に町長の屋敷にたどり着いた私は、安堵のため息をついたのだった。

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