第70話 我が家に戻りて
ティコの背中に乗った私は、空を飛んであっという間に家まで戻ってきた。
以前も思ったけど、ティコが本気で飛べばものすごく速いのね。
家の近くの開けた場所で着陸すると、ティコは翼をしまい、私の魔法で小さいな子猫状態に戻る。
「にゃう~ん」
子猫の状態に戻ったティコは私に思い切り甘えてくる。
「ふふ、お疲れ様。さあ、帰りましょう」
「みゃう!」
私は疲れたティコを抱きかかえると、その場でティコは眠ってしまった。
ここまで全力で飛び続けてたもののね。疲れて眠ってしまうのも無理はないというものだわ。
ひとまずしっぽはカバーをかけてあるので、間違っても刺されることはないだろうと思う。
ティコの寝顔にうっとりしながら、私は家までのちょっとした距離を歩いたのだった。
「ふぅ、やっぱり自分の家が落ち着くわね」
ティコを寝床のかごに下ろすと、洗浄の魔法をかけてからベッドに体を放り投げる。
あれから結構日数が経ったせいか、この家が今の私にとっての家となっていた。
そもそも、人間時代の家は魔族の襲撃で全壊しちゃってるからね。今のお兄ちゃんの家は、セティスちゃんの実家みたいだし。
「ふぅ~……」
家に戻ってきたせいか、私は大きく息を吐いている。
気が抜けてのんびりしていると、頭の後ろに何かが当たる感触がする。
「うん、誰よ」
くるりと寝返りを打ってみると、そこには大抵一緒にいる魔導書が二冊ぷかぷかと浮いていた。どうやら私が帰ってきたのに気が付いて挨拶に来たみたい。
「ただいま。ずいぶんと家を空けてしまってごめんなさいね」
私が声をかけると、二冊の魔導書はぷかぷかと浮いたまま、くるくると踊るように回っていた。
魔導書たちの様子に、私は思わずくすくすと笑ってしまう。
「それじゃ、私はちょっと出かけてくるから、ティコのことをお願いね」
ベッドから起き上がった私は、魔導書にお願いをして出かけることにした。
家を出て近所までやって来た私は、薬草と茶葉用の葉っぱを摘み、食事用の魔物を狩る。まあ、いつもの生活の習慣ね。
すっかり生活の一部として落ち着いちゃっているせいか、これをしないと落ち着かないのよ。
すべてをやり終えると、ようやく帰ってきたんだという実感に満ちあふれてくる。
「よし、戻ったらポーションと茶葉を作って、お風呂に入って夕食ね」
ぽいぽいと収納魔法に摘んだ草や倒した魔物の肉を放り込むと、私はにこにことした顔で家へと戻っていった。
家に戻ってくると、まだティコはぐっすりと眠っていた。
隣国からここまで相当急いで飛んでいたみたいだから、疲れ切っちゃってるんだろうね。
すやすやと眠る寝顔を見て満足した私は、早速葉っぱの加工に入る。
納品分のポーションと茶葉をさっくり作り上げると、容器に入れて収納魔法へと放り込む。
「手練れてきちゃったせいか、もうまったく苦労する感じがしないわね。魔力を込めすぎても上級にしかならないし、もしものために少し多めに上級も作っておきましょうか。先日のお兄ちゃんみたいな事だって起きないとも限らないんだし」
あまりにも早く終わりすぎてしまった私は、余った薬草で上級ポーションをいくつか作っておいた。
「にゃうん」
「あ、ティコ、目が覚めたの?」
ポーションを作り終えてひと息ついていると、ティコが部屋へと入ってきた。
ただ、まだ眠そうなのか、入ってくるなり大きなあくびをしていた。魔物でもあくびってするのね。まぁ可愛いんだけど。
「それじゃ、ティコ。ちょうどお風呂に入るから一緒に入る?」
「にゃう!」
お風呂に入るかと聞いたら、元気に返事をしていた。お風呂が好きなのかな。
猫ってお風呂嫌う印象があるんだけど、ティコはマンティコアだから例外なのかな。
あんまり細かいことだから気にしないでいいか。
「ふぅ、お風呂に入ってさっぱりしたわね」
「みゃう」
久しぶりにお風呂に入ってさっぱりした私は、ティコを床に下ろすと食事の準備に取り掛かる。
「それじゃ、ちょっと待っててね。今日のお夕飯を作るから」
私が声をかけると、ティコは足に顔をすり寄せた後、おとなしく離れていった。
本当に聞き分けのいい子だと、私は気持ちが優しくなってしまう。
「さて、それじゃ夕ご飯を作りますか」
私はいつものメイド服を腕まくりすると、調理を始める。
台所の中に、ジュージューと肉が焼ける音と香りが充満していく。おとなしく料理ができるのを待っているティコの耳がぴくぴくと反応している。
「最後に香りづけのアクセントを飾ってっと、よし完成!」
元々宿屋で働いていたからか、今の生活に余裕が出てきたせいでつい遊び心が出ちゃうわね。
自分が食べる料理なのに、どうしてこんなことしちゃってるんだろ。
思わず苦笑いをしちゃうわね。
「ティコ、できたわよ」
「にゃうん」
床に寝そべっていたティコが体を起こす。
ぴょんとテーブルの上に飛び乗るので、その目の前に焼いた肉を置いてあげる。
「それじゃ、いただきましょうか」
「みゃう~ん」
こうして私たちは、久々に家での食事を堪能したのだった。




