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第6話 メイドと騎士

 男性の様子を見に来た私は、その男性から剣を突きつけられていた。


「答えろ、お前は何者だ」


「えっと、見ての通りのメイドですけれど?」


 私はメイド服を着ているので、男性にそう答えておく。

 ところが、男性は剣を引く様子はなく、さらに私を問い詰めてくる。


「嘘をつけ。大体その頭にある角はなんなんだ。魔族が俺に何をする気なんだ」


 どうやら私の頭の左にある角に気が付いてしまったようだった。

 魔族でなければ頭に角があるわけがないのだから。よく見ればすぐに気が付くものだ。


「薬草を摘みに出かけていたら、あなたが倒れていたから連れて帰ってきたんですよ。あのまま放っておくと魔物の餌になるようなケガをされてましたから」


「ケガ……?」


 私が必死に事情を説明すると、男性はぴたりと動きが止まる。そして、私の首筋から剣を引いて鞘に納めていた。


「そういえば、俺は森に魔物の討伐をしに来て……。いや、何があったんだ。思い出せないな……」


 どうやらケガを負ったことで記憶が混乱しているようだった。


「あなたは鎧を着ているようですから、騎士様でいらっしゃいますよね?」


「ああ、よく分かったな」


 私が確認をするように尋ねると、男性ははっとした様子で顔を上げた。やはり騎士様だったようだ。


「俺以外に誰か見なかったか?」


「いえ、騎士様一人だけでした。体のあちこちにケガをなさっていたので慌てていましたが、間違いなくお一人でした」


「そうか……」


 私の答えに、男性は黙り込んでしまっていた。

 しかし、すぐに私に再び質問を投げかけてきた。


「確かにあちこちに服の破けた跡があるな。しかし、ケガはない。一体どうやったんだ?」


「それは、私の作ったポーションを飲ませたからでございます」


 私はまだ提げていた鞄から、ポーションの空容器を取り出して見せつける。


「ポーションだと?! それは本当なのか?」


「はい、本当でございます。なんなら目の前で実演してみせましょうか? 魔族のいうことなど信じられないでしょうから」


 騎士の質問に、私は鼻息を荒くしながら余計なひと言まで話している。

 すると、騎士はいきなり考え込み始めてしまった。


「そうだな。見せてもらった方が早い。確かに魔族は信じられないが、君はどうも普通の魔族とは違うようだからな」


「畏まりました。材料を持って参りますので、少々お待ち下さい」


 私は錬金術を行っている部屋から道具を持ってくる。とはいっても、摘んできたばかりの薬草と入れ物だけなんだけど。

 戻ってきた私は、薬草一枚と水魔法による水を水晶の容器に入れる。そして、そこに魔力を注ぎ込んであっという間にポーションを完成させた。


「……確かにポーションのようだな」


「まあ、お分かりになりますか?」


「ああ、騎士という立場のせいでよく世話になるからな」


 騎士はそう言いながら、ポーションをまじまじと眺めていた。

 かと思えば近くのテーブルに静かに置くと、いきなり私に向かって頭を下げてきた。


「すまなかったな。魔族とはいえ命の恩人に剣を向けるとは。この通り謝罪させてもらう」


 騎士の態度に、私はつい目を丸くしてしまう。驚きすぎたせいで、どう反応していいのか分からない。


「俺の名前はクルス。よければ君の名前を教えて欲しい」


「私は……」


 ここまで言いかけて、思わず口ごもってしまう。

 私は元人間。でも、今は魔族で、魔族としての名前はない。

 だからといって、人間の頃の名前を名乗っていいのか、ふと疑問に思ってしまった。

 でも、クルスさんは私に名前を名乗ってくれた。だったら、こっちも名乗るのが筋ではないのか。

 そう思った私は、きゅっと胸の前で小さく手に力を入れた。


「私は、アイラと申します。わけあって、ここで一人で暮らしています」


「アイラか、いい名前だな。すまないが、ここがどの辺りなのか教えてもらっても構わないか。記憶があいまいな以上、俺は一度町に戻らないといけないだろうからな」


 クルスさんはこういってくるけれど、ここには一つ大問題がある。

 それは、私もここがどの辺りなのか分からないということだった。

 なにせ、魔族の屋敷を追い出されてから、まるっと四日間も森の中をさまよっていたんだもの。どこがどうなっているのかまったく分からないというわけだった。


「ごめんなさい。私も、詳しく場所が分からないの」


「そうか……。それはすまなかったな」


 私たちの間に沈黙が流れる。

 と思いきや、その沈黙を打ち破るべく、私の目の前に家の魔導書が一冊飛んできたのだった。

 いつものようにパラパラとめくれていくと、さっさと見てくれと言わんばかりに私に近付いてきた。


「わわっ、近い。近すぎて見えないから!」


 私が怒鳴ると、すすすっとよく見える位置まで下がっていく。


「アイラ、それは?」


「なんていうんでしょうかね。私の先生、かな?」


 はにかみながら、クルスさんの質問に答えておく。


「と、とにかく、この魔導書が何か私たちに見せてくれているみたいなので、一緒に見てみましょう。ね?」


「ああ、よくは分からんが、そうしようか」


 私たちが魔導書を覗き込むと、そこに書かれていたのは周辺の地図のようだった。ただ、かつてここに住んでいた人の時代のものだろうから、今の私たちに通じるとは限らないんだけどね。


「ふむ、今はこのあたりか。なら、ここをこう行けば、俺がいた町に戻れるようだな」


 ところが、クルスさんはすらすらと地図を読んでいるじゃないの。私にはちんぷんかんぷんなのに。


「だが、助けてもらって何もしないんじゃ、騎士としては恥ずかしい限りだな。しかし、俺は一体何をしたらいいんだ?」


 クルスさんが悩み始める。


「そんな、別に何もしなくてもいいんですよ。私が勝手にした事ですから」


 両手を振って断ろうとする私だけど、クルスさんはまだまだ必死に考えていた。

 結局その日はそのまま平行線となり、駆け引きはやむなく翌日に持ち越しとなったのだった。

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