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追放魔族のまったり生活  作者: 未羊


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第53話 改めて悩む

 翌日は町にポーションを納品しに出向く。

 私の足元にはティコが寄り添って歩いている。頭に乗りたがっていたけど、今日は我慢してもらった。


(うん、ティコは頭に乗せても可愛いんだけど、いかんせん重いのよ。首が痛くなっちゃう)


 理由は切実な問題だった。

 錬金術師はじっと対象を見続けていなければならないので、思ったよりも首に負担がかかってしまう。


(今度、首のダメージを和らげる薬でも作ってみようかしらね。あの魔導書たちならそのあたりも知ってそうだし)


 門番とやり取りをしながら、私はそんなことを考えていた。

 無事に町の中に入る。

 町の中にはオークの姿も見える。さすがピゲストロさんと友好を結んだことだけはある感じだった。

 でも、最近までは見ることがなかったから、あちらもあちらで忙しかったんでしょうね。

 いろいろと気になる光景はあるものの、私はおとなしく領主邸へと向かっていく。


「あら、アイラではありませんの」


「あっ、マリエッタさん、こんにちは」


 マリエッタさんとばったりと出くわしたので、私はおとなしく挨拶をする。

 よく見ると、隣にメイド服の女性が立っていた。誰かと思えば、先日拾ったメイドだった。


「ほら、あなたも挨拶なさい」


 マリエッタさんが促すも、メイドは隠れて出てこない。よっぽど私と顔を合わせたくないようだ。


「ごめんなさいね。プレアってばアイラと気まずいのか、名前を聞くだけで怒り出すのですわ。ええ、これからもちゃんとメイドとしてしつけていきますから、そのうち会話ができるようになりますわよ」


「はは……、そうなんですね」


 私は困った顔をしながら返しておいた。

 プレアと呼ばれたメイドは、マリエッタさんの後ろからずっと私を睨んでいる。よっぽど私のことを嫌っているみたいだ。何かしたというわけでもないんだけどね。

 ひとまず、マリエッタさんと別れた私は、改めて町長の屋敷へと向かっていった。


「こんにちは」


 いつも通り、目立たないように裏口から入っていった私は、町長の部屋を訪れていた。


「おお、アイラ。もう来たのかい」


「はい」


「みゃう」


 私が返事をすると同時に、町に入ってから頭に乗せていたティコも鳴いていた。


「おお、ティコもいたのか。しっぽにさえ気が付かなければ、本当にどこにでもいる猫っぽいな」


「みゃう!」


 男爵様に言われて、ティコは元気よく返事をしていた。私たちの言葉をしっかり理解している節がある感じがする。

 ティコの話はそこそこに、私は今日の納品分をテーブルの上に並べていく。

 収納魔法を気付かれないように鞄の中で展開して、そこから下級ポーションと茶葉を取り出していく。

 収納魔法は普通なら持ち合わせない希少な技能だという記述があったので、私はとにかく慎重だった。


「下級ポーション二十、茶葉一袋、確かに」


 男爵様はそういうと、部下の人に話をして片付けさせていた。

 今までの納品分は、一度町長邸に保管され、そこから組合の方へと卸されるそうだ。

 組合というのは商人や冒険者たちを管理する組織で、様々な物品を取り扱ったり依頼の仲介をしたりと、様々な業務を行う町長の直属組織らしい。

 自警団とはまた違う組織があったんだなと私は初めて知った。町娘時代はあまり意識してなかったもの。

 私が考えごとしていると、男爵様が話し掛けてきた。


「ところでアイラ」


「なんでしょうか、男爵様」


 私が返事をすると、男爵の視線はティコに向いていた。


「うん、そのしっぽ、どうにか擬態させた方がいい。魔物と分かると自警団に通報されるし、テイマーとして通報される可能性がある。国が動くとなれば、君の望むまったり生活は実質不可能になるだろう」


「それは困ります!」


 男爵様から言われて、瞬時に声が出てしまう。

 まったりのんびりの生活は、今の私の最大の望みだもの。正直、今のポーションや茶葉を納品しているのだってやめたいくらいだわ。

 でも、茶葉はおいしいって言ってくれるのが嬉しいのでやめることはできなそうかも。

 うーん、実に悩ましい感じだわ。

 なので、とりあえずはティコのしっぽに対策を施すことを決めた。


「しかし、他人に会わせるわけにはいかないかもな。どうにかして秘密裏に依頼を通さないとな」


 依頼を出すとなると、人に見せる必要が出てくる。

 それならば、私の判断はこうなるしかなかった。


「自分で作ります」


「大丈夫なのかい?」


 私が自分でやると宣言すると、男爵様は心配そうに私を見てくる。


「大丈夫ですよ。ポーション作りはあまり時間がかかりませんから。材料さえあれば錬金術でどうとでもできます」


 私はキリっとした表情で男爵様に訴えた。

 これには男爵様もあまり強くは言えなくなったようだ。


「分かった。必要な材料はすぐには調達できないから、ちょっと待っててもらえないかな」


「分かりました。では、今日はこのくらいで失礼致します」


 約束を取り付けたので、私は町長の屋敷を去っていく。

 ついつい可愛いので忘れていたけど、ティコは魔物だったわね。しっぽを見ないと本当に忘れてしまう。

 家に帰った私は、これからどうするのか本気で悩んだのだった。

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