第52話 オンとオフ
翌日は久しぶりにフリー。
朝はティコを連れての草摘みと食材集め。さすがに長々と旅に出ていたせいでいろいろと在庫が切れかかっているものね。
それに今日は解毒ポーションと除病ポーションもいよいよ作ってみたいからね。
私が草を摘んでいる間、ティコはその辺で適当に遊んでいた。しっぽがサソリになっているとはいえ、仕草は本当にただの猫そのものといった感じ。見ているだけで癒されるわね。
草を摘み終えると、ティコに声をかける。にゃうっと返事をして、ティコは駆け寄ってきた。凶悪な魔物のマンティコアなはずなのに、仕草が猫そのものでつい顔がほころんでしまうというものだ。
「さあ、移動するわよ。大好きなお肉を手に入れに行くからね」
「みゃう!」
待ってましたと言わんばかりの大きな鳴き声だった。
さすがは大型の魔物であるマンティコア。雑食ではあるものの、肉は大好物である。小さくなってもその好みにはまったく変化がなかったようだった。
しばらく歩いて移動すると、私がいつも魔物を狩っている現場にやって来た。
「今日もいるわね。ティコ、狩りをしてみる?」
「みゃうぅ?」
まるで「いいの?」といわんばかりに首を捻っている。
私が「いいわよ」と答えると、ものすごく喜んで駆け出していた。
元気がいいわねと微笑んでいたのも束の間だった。ティコはあっという間に獲物をしとめて帰ってきた。
「にゃう!」
褒めてと言わんばかりの満面の笑みを見せるティコである。本当に凶悪な魔物であるマンティコアなのだろうか。私はついその笑顔にときめいてしまう。
「ああ~、可愛い」
「みゃあ?!」
思いきり抱き締めてしまって、ティコを驚かせてしまう。
ティコの驚いた声に、私はすぐに我に返った。
「おほん、それじゃ解体しましょうか」
私はその場で解体を始める。ティコの攻撃に怯んだのか、近くからはすっかり魔物が遠ざかってしまったからだ。
周りに魔物がいなくなったおかげで安心して解体ができるわね。
私が解体している間はティコが周りを警戒してくれているから、さらに安心ができるというもの。小さくても猛毒を持つ魔物マンティコアだもの。
無事に解体を終えた私は、大部分を収納魔法へとしまい込む。使えるようになったら、ついつい頼りにしちゃうわよね。荷物がかさばらないのって本当に便利。
ただ、全部はしまわなかった。肉の一塊の一部をそぎ落とすと、私はティコに与える。
「にゃう」
ティコは嬉しそうに肉にかぶりつく。その一生懸命に食べる姿に、私はついにんまりしてしまう。
ここまで心を許すようなことになるとは思ってもみなかったかな。お互いにだけど。
おいしそうに肉を食べるティコの姿にすっかり癒された私は、ティコを抱きかかえて家まで戻っていったのだった。
家に帰るとティコを寝かしつける。
それというのも、解毒ポーションと除病ポーションという初めてのポーション作りに取り掛かるからだ。足元を絡まれちゃ気が散っちゃうもの。最初だから特に集中したい。
「まずは解毒ポーションね。材料は、薬草と水と、マンティコアの血っと……」
魔導書を呼んで作り方を再確認しながら薬瓶の中に材料を入れていく。ちなみにこのマンティコアの血は、ティコから頂いたもの。今は可愛がっているから、無駄にはできないのでさらに慎重だ。
「材料はこれでいいんだから、あとは魔力をどのくらい注ぎ入れるかよね……」
私は材料の入った薬瓶に魔力を慎重に注ぎ込んでいく。
作る解毒ポーションは最上級品であるために、最初から少し多めに魔力を注いでいく。
注ぐ魔力量の感覚は、経験がないとつかみきれない。これは通常のポーション作りで学んだことだ。加減が分からずに注ぎ込んだ結果が、最初から上級ポーションを作り出すという事態だったものね。
ただ、錬金術は必要な魔力に到達しないと材料が反応を起こさないという特徴がある。しかし、反応が起きた後も油断はできない。魔力量次第では失敗することだってある。
私は慎重に魔力量を見極める。
やがて、解毒ポーションの反応が始まった。魔力によって材料が混ざり始める。
薬瓶の中の状態を確認しながら、私は慎重に魔力を込めていく。足りなければごみと化してしまうから、本当に慎重だ。貴重なティコの血が無駄になってしまうもの。
真剣に薬瓶に向かう私。やがて、薬瓶の中が強い光を放つ。その光が消えると、私はドキドキしながら薬瓶の中を鑑定する。
【最上級解毒ポーション:優良品】
「で、できたぁ……」
どうにか無駄にすることなく、一発で解毒ポーションを作り上げてしまった。ここまでポーションを作りまくってきた経験が、ここで活きてきたというものだった。
いや、茶葉を作る時の繊細な魔力操作のおかげだろうか。
なんにしても、失敗することなく一発で最上級解毒ポーションを完成させてしまった。
「みゃう?」
「あら、ティコ。起きちゃったのかしら」
私は完成した解毒ポーションに蓋をして収納魔法にしまうと、近付いてきたティコを抱え上げる。
「ティコのくれた血のおかげで、解毒ポーションができたわ。本当にありがとうね」
私はティコに頬をこすりつける。なんのことかよく分かっていないようだけど、ティコは目を細めて笑顔になっていた。
ティコを足元に降ろした私は、除病ポーションも作ってみたけれど、こっちも一発成功だった。
使わないで済めばいいけれど、万が一ってことはあるので、私は作れるだけ作っておいた。
すべてを作り終えた私は、ティコと戯れて疲れを忘れたのだった。




