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第5話 ある日、森で……出会ってしまった

 薬草を摘んでいた場所からしばらく移動すると、私はそこで思わない光景を見てしまった。


(誰か、倒れてる……)


 そこには行き倒れと思われる男性が倒れていた。全身のケガは酷いし、動く気配がない。

 男性の姿を見た時、私は自然と駆け寄っていた。


「よかった、息はある……」


 そっと口に手を近付けたら、息が当たっている。まだ生きている。

 でも、顔は苦しそうだし、全身のあちこちから血が流れるほどのケガを負っている。一刻の猶予もならないと、私は鞄から念のために持ってきていたポーションを取り出す。

 あおむけに倒れているのでこのままでは飲ませることはできない。

 どうしたものかと悩んでいると、周りから不穏な気配が近付いてくるのを感じる。


「魔物……」


 どうやら飢えた魔物たちが集まってきているようだった。


(怖い……。でも、見捨てることはできない。私はどうしたら……)


 まだまだ魔法も未熟な私では、魔物を倒すのは難しいと思う。

 でも、元人間として、男性の事を放っておけなかった。

 私は、ぎゅっと拳を握って顔を上げて魔物を見据えた。


「かかってらっしゃい」


 武器も持たない丸腰ではあるけれど、私は魔物を挑発する。

 魔物たちはいいエサが出てきたと言わんばかりに、私にも襲い掛かってきた。


(落ち着いて、私。魔導書が教えてくれた魔法を使うのよ)


 私は手に魔力を集中させる。そして、魔物をしっかりと見てこう言い放った。


火よ(エンバー)!」


 生活魔法で火を起こす魔法だ。通常これだけでは、すぐに消えてしまいそうな小さな火しか起こせない。

 ところが、この時私が使った魔法は、そんな通常のものをはるかに超えたとんでもないものとなった。


「ギャウン!」


 私に襲い掛かってきた魔物は大きな声で鳴いて、火に包まれながらその場で転げまわっている。その火力に、私は思わずびっくりしてしまった。

 魔物たちはこの一発が相当に怖く思ったのかじりじりと後退していく。

 その姿を見た私は、もう一度手を前に差し出す。私の行動を見て自分も燃やされると思ったのか、魔物たちはくるりと振り返ってその場から逃げ去っていった。

 ようやく魔物が去っていき、私は気が抜けてその場に座り込んでしまう。


「わわっ、火、火っ!」


 ちらりと目を向けた先でまだ魔物が燃えているのを見つける。私は慌てて水魔法をぶっかけて火を消し止める。

 だって、この周りには薬草とか役に立ちそうな草花がたくさんあるんだもの。燃え広がっちゃったらもったいない。

 この時、自分が使った魔法を見て、私はあることに気が付いた。


(そうだわ。この水魔法を使えば、ポーションをこの人に飲ませてあげられるんじゃ……)


 思いついたら即実行。男性の状態はかなり悪いんだもの。

 ポーションの蓋を開けて、私は集中して魔法を使う。しばらくすると、ポーションが容器の中で震え始める。


(このまま、この人の口の中へ)


 とにかく、水を注ぎこむようなイメージで魔法を使う。

 ポーションの液体は容器から飛び出し、男性の口の中へと流れ込んでいく。もっと奥へとしっかり念じながら魔法を使っていると、男性ののどが小さく動いたように見えた。


(やった。飲んでくれた)


 狙い通りあおむけの男性にポーションを飲ませることに成功した私は、効果が出るのを今か今かと眺める。

 じっと様子を見ていると、顔色はよくなり呼吸が安定してきた。こうなればもう安心じゃないかな。

 ほっとした私は、横に転がっている魔物の燃えた後を解体して使えそうな部分を取り出すと、まだ使えそうな毛皮で包んで鞄の中へと放り込んだ。薬草と混ざっちゃうと変質するかもしれないけど、今のところは緊急事態だからと割り切った。

 荷物を片付けると、再び男性の状態を見る。まだ目を覚ましそうにないので、このまま置いておくにもいかず、家まで連れて帰ることにした。


(ポーションを飲ませて治したから、動かして大丈夫よね)


 そっと確認してどうにか男性の上体を浮かせてその下に入り込む。

 これでも宿屋の手伝いで酔っぱらいを部屋まで運んだことがある。多少の重量ならどうにかなるわ。


(重い……。さすがに鎧は予想外……)


 見た感じただの服だと思っていたら、どうやら下にプレートを着込んでいたみたい。浮かせた時点で感じていたけど、背負うとより重量感を感じる。

 それでもちゃんと抱えて引きずっていけるのは、私が魔族になったからなのかもしれない。

 とにかく、私は頑張って男性を引きずりながら家まで戻っていった。


 どうにか家に到着すると、私は一階にあったソファーに男性を寝かせる。ベッドは一階に無いし、ここまで運んできた時点でもう腕が限界だった。ソファーに寝かせられただけでもマシ。

 とにかく疲れたので、食堂に移って水魔法を使ってのどを潤しておく。コップ一杯分くらいなら楽に出せるけれど、さっきみたいな消火作業や人に飲ませるような繊細な動きはすごく疲れちゃうものだ。

 のどを潤せば、さっき摘んできた薬草と倒した魔物の処理を済ませておく。鮮度が命。

 魔物の肉を捌いて作業が落ち着くと、部屋の外から声が聞こえてくる。寝かせておいた男性が目を覚ましたのだろうか。


「目が覚めました……かっ!」


「お前は何者だ」


 部屋に顔を出した途端、私は男性に剣を突きつけられてしまったのだった。

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