第48話 従魔登録
苦労して歩いてきた道のりを、マンティコアであっという間に戻ってきてしまう。しかし、さすがに町に近付くことはできなかった。
町から徒歩半日くらい離れた場所で、私は地上に下ろしてもらった。
「ここまでありがとうね。みんなのところにお帰り」
マンティコアの顔を撫でてあげる私だけど、困ったことにマンティコアはその場を去ろうとしない。本当に懐かれてしまっている。
撫でてあげたからか、顔をこすりつけてくる。うーん、どうしましょうか。
近くに浮かぶ魔導書が、ページを開いたまま私に無言の圧力をかけてくる。さっきも見せていたとある魔法のページだった。まるで顔に覆いかぶさってくるように近付いてくるから本当に怖い。
「うーん、しょうがないわね。このままじゃ町に入れないもの」
私が町に向けて歩くと、マンティコアもついてこようとしたもの。町に入れなくなるのは困るから、魔導書が見せてくれた魔法を使わざるを得ないのは間違いなかった。
「小なれ」
やむを得ずに私は魔法を使う。
すると、目の前の大きなマンティコアが段々と小さくなっていく。見た目的には、ちょっと大きな猫といった感じだ。しっぽは……サソリの尾のままだった。
「くあぁぁぁっ!」
思い切り鳴くものの、なんだか体のせいで可愛く思える。
念のために鑑定を使って状態を調べる。すると、やっぱりしっぽは刺されると猛毒を受けてしまうらしい。これはしっぽをなにかで覆ってしまえば大丈夫かなと思う。
「大なれ」
対となる魔法を使うと、マンティコアは元の大きさに戻る。大きさをすぐに変えられる上に元にもすぐ戻せるようだ。
安心した私は、もう一度マンティコアを魔法で小さくする。
「いい? むやみにしっぽを振り回しちゃダメだからね」
「にゃう!」
元気のいい返事があったけれど、本当かなぁとちょっと疑ってかかってしまう。でもまぁ、しっぽの先が当たらなければ大丈夫だよね。
私は小さくて可愛くなったマンティコアをしっかりと抱き締めておいた。
移動を始めようとすると、自分で歩きたがるのか腕の中で暴れるので地面に下ろしてあげる。
結局、マンティコアの横について半日の距離を歩いて町まで戻った。
「で、この魔物は何なんだ?!」
当然ながら、門番さんに止められてしまう。やっぱり、そうですよね……。
私に対して厳しい態度を見せる門番さんを見て、マンティコアがぐるると唸っている。
「ダメよ。問題を起こしたらあなたは殺されちゃうわ。私と一緒にいたいんでしょ、我慢して」
抱っこしながらなだめていると、マンティコアは理解したのかおとなしくなった。
私とマンティコアの状態を見て、門番さんが驚いていた。
「こいつは驚いた。いうことを聞いているんだな」
「ええ。群れからはぐれたところを助けてあげたら懐かれちゃいまして。あははは」
もちろん半分嘘。助けたら懐かれたの部分だけが正しい。
私が苦笑いをしていると、門番さんはものすごく悩んでいた。小さいとはいえ魔物。町の安全を守るのが門番の役割なので、彼は役割を全うしているだけなので責めることはできない。
「私と一緒にいればおとなしくしていますので、とりあえず今日だけでもお願いします」
私は必死に頭を下げる。
門番さんはものすごく悩んでいる。
「うーん、自警団まで来てくれ。そこまでいうのなら、従魔登録しておけばいいと思うからな」
「従魔登録?」
「ああ、テイマーっていう職業の連中だけが持つ特権なんだ。嬢ちゃんはどう見てもメイドだから、こういう提案自体が例外なんだよ」
「なるほど」
門番さんの話によれば、国ごとにテイマーという魔物を専門に扱う職の方がいらっしゃるらしい。そういった方でないと本来は従魔登録はできないのだという。
「でも、たまにいるんだよな。嬢ちゃんのように急に魔物を手懐けてしまう人がな。本来、そういう人が現れたら国に報告しなきゃいけないんだが……」
門番さんは私をちらりと見てくる。
「面倒は嫌ですね。私はどこにも縛られずにゆっくりと暮らしたいんです」
「……だよなぁ。しかし、町に入れるには従魔登録は必須だし、登録すれば国に報告する義務があるんだよ。ただ、拘束義務はないから、普通に町を去っていくことはできるから安心してくれ」
「分かりました」
町の自警団で従魔登録を行うと、団員たちは腰を抜かしていた。
「ま、マンティコアだと?!」
「あー、やっぱりこれは逃げられないパターンですか……?」
私がマンティコアを抱きしめながら上目遣いで確認する。
「いや、いくらでも理由付けができるから安心してくれ。ただ、国の兵士が追いかけることになるだろうから、面倒は起きると思うよ」
「だな。マンティコアが相手じゃ俺たちじゃいくらなんでも相手できない。幼体とはいえ毒の強さは成体と変わらないからな」
難色を示す団員たちだけど、今いる町をその昔にめちゃくちゃにした魔物の一体なのでしょうがないよなという顔をしている。
ひとまず、無事に家に帰れそうなのでほっと安心する。
無事に従魔登録を終えて自警団を後にした私は、ベルの働いている宿に顔を出す。
ベルにも驚かれはしてしまったけれど、私が魔族だと知っているベルはなんとなくとはいえ納得してくれたようだった。
またいずれ遊びに来ることを約束して、無事にひと晩休むことができたのだった。




