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追放魔族のまったり生活  作者: 未羊


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第45話 懐かしき町へ

 目的地はオークの屋敷を通らなければいけないけれど、あんな事があったので足早に通り過ぎていく。

 いくら主が誠実な騎士であるピゲストロさんに変わったとはいえ、過剰に働かされた挙句追い出された苦い経験のある場所なんだもの。とても直視できたようなものではない。

 そういえば、オークの屋敷から西側の地域っていうのは、何気に初めてやって来た場所だ。

 人間として死んだあとは、気が付いたらオークの屋敷で働かされていたので、どうやって移動したのかまったく分からないのよね。

 魔導書の協力もあって、初めての場所でも迷わず突き進んでいける。川があったり崖があったり、果ては狂暴な魔物に襲われるで、危うく死にかけることもあった。それでもなんとか無事に旅を続けられている。

 そういえば、今の私の服装はメイド服だ。魔族になってからはずっとこの服装だったので、どうしても愛着がわいてしまって着替えられなかったのだ。


 家を出てから、食休憩くらいの不眠不休で移動することおおよそ十日が経った。

 私はいよいよ目的地となる場所に到着していた。

 頭には下級魔族特有の角があるので、クルスさんとマリエッタさんのおすすめで購入した帽子をかぶっておく。これなら見た目はただのメイドだもの。

 まだまだ距離があるけれども、町を囲む塀を見てついつい懐かしくなって涙が出てくる。なにせ、私が住んでいた頃と変わらない町の姿なのだから。

 魔族の襲撃で派手に壊された町は、すっかり元通りに復元されていたようだった。


(よかったぁ。どうなっているのか気になってたから安心するわ)


 懐かしさを抑えながら、私は町の入口に近付いていく。

 町の入口には当然ながら門番が立っている。現在は魔族の私ではつい警戒してしまいそうになるけれど、マシュローで作った身分証があるので、すんなりと町の中に入れてしまった。

 一体どのくらいぶりの故郷なのだろうか。私は中に入った途端に、懐かしさに思わず声を出してしまう。


「うわ~、懐かしいなぁ」


「おやおや、メイドさんはここに来たことがあるのかい?」


 私はくるりと振り返る。誰かと思えばさっきの門番の一人だった。

 そうだった。私が今いる場所は門から入ったばかりの場所だった。ならば門番に声をかけられるのも当然なのである。


「あっ、ごめんなさい。来たことないですよ、知っているところと似てたので、つい……」


 私は門番の問い掛けに適当にごまかしておく。

 うん、危ない危ない。うっかり独り言も呟けないわね。

 門番が去ったのを見ると、私は汗を拭って大きく息を吐いた。

 メイド服にキャップという目立つ格好で、懐かしの町を私は歩いていく。荷物は全部収納魔法に放り込んでいるので手持ちには何もない。おかげでスリにあっても被害は何もない。

 それにしても、魔族に襲われた形跡がどこにもないのを見ると、相当に時間が経っているのだなと思わされる。

 町の中を行き交う人たちにも笑顔があふれている。もう魔族による襲撃の爪痕は残っていないようだった。

 私が町の中を歩いていると、無意識にかつて働いていた宿屋あった場所に足が向いていた。きっと、当時と町の形が変わっていないせいだろう。


「ありゃ、ここって今も宿屋なんだ」


 私が働いていた宿屋は再建されて今も宿屋になっていた。魔族の襲撃で跡形もないくらいめちゃくちゃになっていたのに、どうみても同時の形そのままといった感じだった。もしかしたら、あの襲撃の生存者が当時を再現したのかもしれない。

 とはいえ、今の私は宿に泊まるつもりはないので、そのまま通り過ぎようとした。

 その時だった。


「アイラ?!」


「ほへ?」


 私を呼ぶ声が聞こえてきた。

 驚いてくるりと振り返ると、そこにはいい感じに年を重ねたおばさんが立っていた。

 なんだろう。微妙にその顔に見覚えがあるような気がした。


「ちょっとアイラ。私が分からないのかい? 一緒に働いていたマリアベルだよ」


「へっ、ベル?!」


 名前を聞いて思わず変な声が出てしまった。

 いや、それもそのはずでしょう。マリアベルは私よりもひとつ下の少女だったはず。そこのおばさんはどう見ても私の母親くらいの姿だったのだ。変な声が出るのも当然でしょうに。


「その反応、やっぱりアイラだね」


 ベルはそう叫んで外へ出てきたかと思うと、辺りを確認しながら私の手をつかむ。


「なんであの時のままなのか聞かせてもらおうじゃないかしら。とりあえずこっちに来なさい」


「ちょ、ちょっと、ベル?!」


 手を引っ張られたまま、私は宿屋の中へと引きずり込まれてしまった。

 ベルに話を聞かされた結果、どうやら町が魔族に襲撃されてから二十年という月日が経っていたようだった。反魂の魔法を使われて私がよみがえるまでにそれほどの時間が経過してしまっていたらしい。


「はぁ~……。つまり、アイラは今は魔族っていうわけなのね」


「うん、内緒にしてもらえるとありがたいんだけど……」


「そりゃまあ、あの頃は世話になったからね。それに私を庇ってくれたからこそ、私は今もこうやって生きてるんだからね。命の恩人の頼みを聞かないわけにはいかないよ」


 ベルの反応と言葉に、私はほっとひと安心をする。


「それにしても、私が生き返らされるまでの間にそんなに経ってしまっていたのね。だから、私は下級魔族になったのかしら」


「まぁそうかもね。とりあえず、どんな形にしてもアイラに再び会えたのは嬉しい限りだわ」


 ベルはそう言いながら、私の顔をじっと見てくる。なんだろうか、不思議と緊張してしまう。


「だってね、アイラが守ってくれたからこそ生きているって言ったでしょ? こうやって面と向かってお礼が言える日が来るなんて普通は思わないでしょうに」


「あっ、確かに!」


 ベルに言われた私は、今さらながらに気が付いた。

 それからしばらくの間、私はベルといろいろと話をした。二人で一緒に働いていた時のことはもちろん、魔族の襲撃があってからの町のことなど、それはもう時間を忘れてしまうくらいたくさんのことをだった。

 ちらちらこちらを見る視線はあったものの、みんな空気を読んでか二人にしてくれていた。


「ああ、もうこんな時間だわ。どうするの、宿は決まっているのかい?」


「いや、こうなったらここに泊まるしかないでしょうに。懐かしい場所だし、そうさせてもらうわ」


 すっかり外は真っ暗になってしまったので、私は仕方なく懐かしの宿に泊まっていくことにした。

 うん、目的の薬草はまた明日にしましょう。

 予定が狂ってしまったものの、懐かしさが勝った私の顔は笑顔に満ちあふれていたのだった。

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