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第41話 最悪な再会

「あ……、また眠っちゃってたか」


 再び目を覚ます。

 窓の外からは、まだうるさく雨の音が聞こえてくる。まったくやむような感じには思えないくらいだった。


灯よ(トーチ)


 真っ暗の部屋の中なので、明かりをともす。

 ベッドに視線を向けてみると、メイドはまだ眠っているようだった。それでも、呼吸はかなり落ち着いているし、額を触ってみれば熱もすっかり下がっている。


「これなら、じきに目を覚ますでしょうね」


 峠を越したとあって、ようやく私もひと安心だった。

 少し寝苦しくしていたのか、布団の状態が乱れていることに気が付く。私は洗浄の魔法をかけた上で、布団を掛け直しておいた。

 まだ目が覚めないと判断した私は、ひとまず部屋を出ていく。

 いろいろあったせいで、昨日はほとんど何もできていなかった。そのために、せっかくが目覚めたのだからと今から済ませることにしたのだ。

 とはいえ、窓の外を確認しても雨の勢いはまったく衰えていないので、外でする作業は不可能だった。

 私が多少触ったとはいえ、あれだけの期間放置されていた家だというのに雨漏りのひとつも起きていない。あれだけの魔法の技術を持った人だったので、その辺りも魔法でどうにかしてしまっていたのだろう。

 それを考慮したとしても、今なおそれが有効で家をしっかり守っているのだと思うと、錬金術というのはかなりとんでもない技術なのではないだろうか。


(いや、そうだとしたら、私が継承してよかったのかしら……)


 今さらながらに、戸惑いが湧き上がってくる私なのだった。

 それもそのはず。町娘だった頃には自分の家が雨の度に雨漏りに悩まされていたので、この大雨でふと思い出してしまったのだった。だからこそ、この家とその主の素晴らしさにおそれを抱いてしまったのだ。

 再度、家中を確認してみたものの、やっぱり雨漏りの形跡はなかった。窓だって雨が叩きつけられているのに入ってくる気配がなかった。

 安心した私が再び客間に戻ってくると、目の前の光景につい驚いてしまった。


「あ、目が覚めたのですね。簡単な食事を用意しますよ」


 私が声を掛けると、目を覚ましたメイドがギロリと睨んできた。ああ、やっぱり分かるんだ。


「どうしてあんたがここにいるのよ。あんたのせいで私は……」


 さらに目つきがきつくなっていく。

 どうやら何かしら私に逆恨みのようなものをしているようだった。

 しかし、次の瞬間そのすごみも意味をなさなくなってしまう。


 ぐぅ~~……。


 大きなおなかの音が鳴ったのだった。

 ベッドで体を起こしているメイドが、恥ずかしそうにしている。


「パンがゆでよければすぐに用意するわ。雨に打たれて風邪を引いていたんだから、無理はするものじゃないわよ」


 私はぱたぱたと台所へと駆けていく。

 町で仕入れてきたパンとミルクを鍋で煮詰めていく。パンがとろとろになってきたところで火を止めて、お皿に盛ってメイドのところへと持っていく。

 メイドやっぱり私を睨んでいるけれども、空いたお腹ばかりはどうにもできなかった。

 布団の上にパンがゆの置かれたトレイを乗せると、不機嫌な表情ながらもものすごい勢いでパンがゆを食べている。よっぽどお腹が空いていたんだと思われる。まるで、屋敷を追い出された時の私のように。


「……認めない」


 ぽつりとメイドは何かを口にする。


「なによこれ。なんでおいしいのよ、ただのパンがゆのくせに!」


 あまりにも予想外な言葉が出てきて、私は目を丸くしてしまった。


「それだけ元気なら、心配なさそうですね。でも、念のためもう一日ここでゆっくりしていきなさい」


「はあ? なんで私があんたの世話にならなきゃいけないのよ。あんたがクビになって追い出されたせいで、私までクビにされちゃったのよ」


「いや、それはあなたが仕事をしないのが悪いんでしょうに。逆恨みはみっともないですよ」


 騒ぐメイドにしっかりと言い返しておく。

 最近充実しているせいか、私の精神には思ったより余裕が出ているようだ。


「それに、私たちはお屋敷を追い出された者同士です。もう過去のそういったことはしっかりと水に流しましょう」


「な、なによ。いい子ぶっちゃって!」


 私の言葉を聞いて、腕を組んで顔をよそに向けてしまっていた。なんだろうか、可愛いとしか思えなかった。思わず笑ってしまう。


「それにしても、どうしてあんなところで倒れていたのかしら」


「あ、あんたになんて関係ないでしょ」


 質問にまったく答えようとしない。メイドは私のことを一方的に嫌っているのは間違いないわね。


「この近くにできた新しい町へと向かわされたんでしょうね。持たされていた荷物を確認しましたけど、町までの地図がありましたからね」


「はあ? なに勝手に人の荷物見てるのよ。最低だわ」


「まったく、ああ言えばこう言うとは……。でも、元気そうで安心しました」


 態度の悪いメイドではあるものの、私は不思議とまったく腹が立たなかった。

 なんというか、町娘の頃に見た、手のかかる近所の子どもを見ているようで微笑ましくなっていたようだ。


「雨がやんだら町に向かいますので、今はパンがゆを食べてしっかり休んで下さいね」


「偉そうに指図しないでよ。ああもう、本当に気分が最悪だわ」


 そう言いながらも、メイドはパンがゆをがっつくように食べている。空腹には逆らえなかったようだ。

 空になった器を受け取ると、私はメイドに話し掛けておく。


「一応この家の主は私になりますから、この家にいる間は私に従って下さい。とにかく、回復するまでしっかり休むこと、いいですね」


「もう、分かったわよ!」


 メイドは横になって頭から布団をかぶっていた。本当に手間のかかる子だわ。

 私は不思議と腹立たしくなることなく、笑みを浮かべながら部屋を出て行ったのだった。

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