表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/109

第39話 もう一人のメイド

 あれは少し前のことだった。


「なんですって! この私がクビですか!」


 私は働いていた場所をお払い箱になってしまった。


「うむ。他の使用人たちからの証言でな、お前は働いていないということが分かったのだ。割り当てられた仕事をできないのではなくてしないのは、他の使用人たちに示しがつかないのだ」


「う、ぐぅ……」


 雇い主であるオークから言われて、私は言い返せなかった。

 私以外からの情報が集まっているのなら、言い訳しても無駄でしかないからだ。


「相当サボっていたようだからな。これなら、私たちが治めるようになる前からと考えられるので、常習性から見て即刻クビという結論に至った。すぐに出て行くのだな」


 私は逆らおうとするものの、目の前のオークにはまったく歯が立たず、襟首から持ち上げられて屋敷の外へと放り出されてしまった。


「そうだ。さすがに何もなしに放り出すのは可哀想だからな、ちょっと待っている。門番、押さえておけ」


「はっ!」


 さっさと立ち去ろうとする私だったのもの、しっかりと腕をつかまれてしまい、逃げるに逃げられなかった。

 しばらくすると、さっきのオークが戻ってくる。ポンと私の前に何かが放り出される。


「お前の私物と、近くにできる街への地図だ。お前も魔族の端くれなら、四日間一人でも大丈夫だろう。餞別としては少ないが、ちょっとしたお金と食料もその私物の鞄に入れてある。まあ、頑張るだな」


 言いたいことだけ言うと、オークはそのまま屋敷の中へと戻っていく。

 門番のオークに荷物を持たされると、私は突き飛ばされるように屋敷から追い出されてしまった。


 一体どうしてこうなってしまったのか。

 確かに仕事はしてなかったのは事実だけど、一人で任されていた間はちゃんとしてたわよ。

 というか、あの広さを一人で面倒見るとか無理に決まってるでしょうに。

 私は屋敷から追い出された時のはずみでこけてしまったので、立ち上がってメイド服の埃を叩いて屋敷へと顔を向ける。

 右目の下まぶたを指で下に引き、思い切り舌を出す。精一杯にオークたちをバカにした私は、渡された地図を持ってその街へと向かうことにしたのだった。


 そういえば申し遅れました。

 私はオークの屋敷でメイドをしてい……ましたプレアと申します。

 ええ、自己紹介ですから、言葉遣いがここだけ違うのは当然ですね。

 先日、ついに働いていたオークの屋敷を追い出されてしまいました。なんですか、ちょっと楽をしていただけなのに。

 まったく、失礼な人たちですね。これだから豚は困るのです。


 ふわふわとした緩いウェーブの髪を縛り、ゆらゆらと揺らしながら私は地図に描かれた町へと向かっている。

 かすかに切り開かれた道があるので、そこに沿って進んでいけば着けるみたいだった。

 正直、まだまだでこぼことした道を歩いていくのはだるい。これならまだ、屋敷の中で動いている方がまだマシだわ。

 自業自得とか言われそうだけれど、私は楽ができるなら楽したいのよ。

 はあ、もう一人のメイドがいた頃は本当に楽だったわね。彼女にほぼすべての仕事を押し付けて、私は優雅に過ごさせてもらっていたわ。あの時は主であるオークも頭が悪かったし、本当に楽できて楽しかったわ。

 まったく、そのもう一人のメイドが追い出されてからというものよ。私の状況が狂い始めたのは。

 そのメイドがやっていたことを私一人にやれだ?

 はっ、さすがに頭悪すぎるんじゃないかしら。あの屋敷、どれだけの広さがあると思っているのよ。

 私の魔法はそれなりに使えるものではあるけれど、あの広さの前には無力に等しかったわ。結局一日あたり全体の4分の1くらいが精一杯だったわね。

 あのメイド、それを一日で片付けてたっていうんだから。なにやっちゃってくれてんのよ。

 結局、それが原因で私もこうやって追い出されたんだからね。あったらとっちめてやりたいわ。


 いろいろとむかむかとした気持ちを抱きながらも、私は仕方なく町へと向かって歩を進めていく。

 もう一日歩けば町に着けるはずだった。

 ところが、そのタイミングになって急に雨が降り始めてしまった。


「ひゃ、ちべたい! な、なによ、急に降りだしてきて!」


 急に降り出した雨は勢いが強く、あっという間に私から視界を奪い去ってしまった。

 雨から逃れるために、私は走り出した。しかし、こうも視界が悪ければ、正しい方向に走っているのかも分からない。

 荷物の入ったカバンだけでも渡されていたのは、正直言うと助かった気がするわ。おかげで多少なりと雨を避けれらるんですからね。

 しかし、雨足は段々と強くなっていき、結局そんなものすら無駄になってしまうくらいだった。

 全身があっという間にびしょ濡れになってしまい、走り疲れた私はいよいよ限界を迎えてしまう。


「はあはあ……。もう、だ、め……」


 視界がぼやけて、なんとなくふわっとした感覚に襲われる。

 私はそのまま、地面へと倒れ込んでしまった。

 このまま、私は死んでしまうんだ。そう思えるくらいに……。

 意識がもう消えようとするその時、目の前に誰かが来たような気がした。しかし、その姿を私は確認できずに目を閉じてしまったのだった。

 ああ、あなたは一体誰なの……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ