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第37話 気ままな一日

 起きてみればもうお昼過ぎだった。

 家の外を窓から身を乗り出して覗いてみれば、日の光はもう頭上高くに昇ってしまっていた。

 遅くはなってしまったけれど、いつものように薬草と茶葉用の葉っぱを採取しに出かける。

 いつもはまだ日が昇りきらないうちに行う作業だけれど、今日ばかりは仕方ないというもの。


「ふぅ、この時間ともなれば少し暖かいわね。いつものメイド服じゃちょっと暑いかしら」


 汗のにじむ額を拭いながら、私はいつもの必要量の葉っぱを摘み取っていった。

 収納魔法が使えるようになったのだから、大量に摘めばいいじゃないかと思われるかもしれない。しかし、一気に摘み取ってしまうと数が確保できなくなってしまう。

 なので、いつもの通り、複数箇所を少しずつ摘んで回っているというわけなのよ。

 宿に泊まりに来ていた商人さん、知識をありがとう。おかげで今日も薬草が摘めているわ。


 薬草を摘み終わって家に戻れば、いつものように食事。

 少し休めば、水を溜めてお風呂にだって入る。洗浄魔法は楽なんだけど、たまにはこうやってお風呂に入るというのも気分転換になっていいものだ。

 体をきれいにした後の水は、家の外へ浴槽ごと持ち出してその辺に撒いておく。私の体をきれいにした水だから、そうするしかないのよね。使い道がないんだもの。

 お風呂に入ってさっぱりしたので、今日もポーションと茶葉の錬金をしなくっちゃね。

 摘んできた薬草を取り出して、空の容器に水と薬草を入れる。

 ポーション作りはもうだいぶ慣れたので、もはや惰性でも下級ポーションを作るのは楽だった。でも、惰性で作ってしまうと同じ下級ポーションでも品質が大きく劣化してしまう。やはり手抜きはダメなようだった。

 さすがは錬金術、繊細な魔法なのである。


「うん、この結果なら、誰でも錬金術師に慣れないという話に説得力が出てくるわね。ずぼらじゃダメってことだわ」


 なので、ちゃんと一本一本に魔力を込めていく。

 ようやく一日の最低限の必要数の倍となる二十本の下級ポーションができ上がったのだった。

 劣化しないように収納魔法にしまうと、次は茶葉を作り始める。以前にも言ったけれど、こっちの方がポーションより作るのに手間がかかってしまう。工程が多いからだ。

 それでも、さすがに毎日のように作っていると慣れてきてしまうもの。

 水洗いから乾燥させてもみほぐし、蒸し上げて再度乾燥。そういう面倒な工程を経て出来上がるのが茶葉なのである。

 魔法というのはこれらが一人でできてしまうので、本当に便利なものだわね。

 だいぶ錬金術の作業にも慣れたので、やることがスムーズに進む。おかげで家の中に眠っている魔導書や他の本を読む余裕すらあるくらい。

 ここに住んでいた人物は本が好きなのか、書庫の中にはかなり多くの本が置かれていた。

 私は宿屋の手伝いをしていたので、多少なりと文字が読める。そのおかげで書庫の文字も飛び飛びながらに読むことはできた。

 本を読み進めていると、ここに住んでいた人物の姿がおぼろげながらにも見えてくる。

 誰も来ないような森の中に家を建てて、さらには結界魔法までかけて姿を隠していたのだ。よっぽど世間とのかかわりあいに疲れたのだろう。

 新しい町について話をした少しの経験だけでも、私はなんとなく気持ちが分かってしまった気がした。


「錬金術っていろいろできるものね。ああも頼りにされちゃ、逃げ隠れてしまう気持ちがよく分かるわ」


 ついつい苦笑いをしてしまう。

 ただ、私としてはマシュローでお世話になったということもあるので、あまり邪険にしたくはなかった。

 今の私は魔族である以上、変に嫌われれば討伐隊を差し向けられかねないのだから。平和が一番よ。


「ふぅ、今日もたくさん本を読んでしまったわね。魔導書のおかげなのか、ずいぶんと読めるようになってしまったかしらね」


 本を元の場所に戻しながら、私は書庫の中を見る。

 まだまだ手つかずの本がたくさんある。よくもまあこんなに溜め込んだものだと思う。

 ちらりと目に入った窓の外。辺りはすっかり暗くなってしまっていたようだ。


「ああ、もう夜になっちゃってたのね。夜ご飯を食べたら、寝る準備をしないといけないわ」


 私はばたばたと書庫から出て行った。

 今日の夜ご飯は、昨夜倒した見たことのないウルフの肉を食してみる。昼に出会うタイプとはどう違うのか楽しみだな。

 魔法で火を起こして、平鍋で焼いていく。基本的に魔物の肉は生では食べられないものね。見た感じは、今まで食べていた魔物の肉と違いはなさそうだけど、味はどうなのだろうか。

 いざ、実食。


「うん、あまり大差はないかしらね。強いていえば、少し噛み応えが違う感じかな」


 なんだか少し柔らかい気がしたけれど、お味はまあまあ満足した感じだった。


「このくらいなら気にならない感じかな。五匹分もあれば、しばらくはこのお肉でいけそうね」


 食事を終えて食器を洗って片付けた私は、洗った水も外に捨てて眠る準備を始める。

 お昼くらいまで寝ていたけれど、不思議と今日は普段通りに眠くなってきた。うん、いい夢を見られそうな気がする。

 誰にも邪魔されない快適な一日を終えた私は、今夜もベッドでぐっすりと眠ったのだった。

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