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第34話 町づくり会議

「ああ、やっと戻ってきたか、マリエッタよ」


「お父様。わたくしを見るなり情けない声を出さないで下さいません?」


 マリエッタさんは男爵様にとても厳しかった。

 クルスさんの様子を見る限り、どうにも町の方向性というものが作業員にうまく伝わっていないようだった。


「まったく、クルスくらいはまともに説明できるかと思いましたのに……。何のために領主様とお話をなさいましたのよ」


 頭を抱えて文句を言うマリエッタさんだった。

 私は詳しくは知らなかったのだけれど、あとで聞いた話では、マリエッタさんとクルスさんの二人にこの町のことは任されていたらしい。

 だからこそ、マリエッタさんは新しい町長となるランスター男爵夫妻が到着するまでの間、町長代理として働いていたということになる。クルスさんは夫妻の護衛のために一度マシュローの町まで戻っていたのだという。

 つまり、町の整備方針に最も詳しいのはマリエッタさんで間違いはない。しかし、クルスさんもある程度聞いていたはずなので説明できないのは問題だろう。

 現在二人が揉めているのは、そういった事情があるからだった。

 でも、これは私には関係ない話で間違いはなさそうだ。私はただポーションを茶葉を作って、決まった日に持ってくるだけだものね。

 そんなわけで、こっそりと話をしているところから抜け出そうとするものの、マリエッタさんに捕まってしまった。


「あら、アイラからも意見が欲しいですわね。もうちょっとお付き合い頂けるかしら」


 肩に手を置かれる感触があったので、私はゆっくりと後ろを振り向く。そこにはとてもにこやかな笑顔を浮かべるマリエッタさんの姿があった。


「いけませんわよ、アイラ。あなたも元は人間の町で住んでいたのでしょう? 町民目線の意見が欲しいところですわね」


「か、勘弁して下さい。私が言えることなんてそんなにありませんから……」


 マリエッタさんの笑顔が怖い。

 ただ、私はこの貴族たちがいる空間から早く立ち去りたかった。でも、マリエッタさんどころかクルスさんも逃がしてくれそうになかった。

 結局、私は町づくりの会議に参加させられることになってしまった。しかも、なんで私がお茶を淹れなければならないのかな。メイド服を着ているからかな?

 理不尽だと思いつつも、私は作ってきた茶葉で紅茶を淹れて、クルスさんやマリエッタさんたちに振る舞った。


「うん、おいしいな」


「ええ、この味わいはお気に入りですのよ」


 飲んだことのあるクルスさんやマリエッタさんは相変わらず褒めてくる。ところが、初めて飲んだ男爵様たちにまで褒められる。


「ふむ。これを町の特産として売り出せば、結構な儲けが出そうだな。町長の屋敷と宿屋限定で出せば高級感も損なわれないだろう」


 男爵様にここまで言われるって、なんだか背中がかゆくなってくる。

 私はただ魔導書が教えてくれた通りの方法で、試行錯誤で茶葉を作っただけである。努力は確かにしたけれど、それは魔導書なくてはできない作業。私だけが褒められるのは、やっぱり何か違う気がしていた。

 しかし、話を聞いていると、茶葉の作る量が増えそうで私は段々と落ち着かなくなってくる。材料となる葉っぱの数が知れているんだもの。

 そこで、私は話し合いの中に思い切って割り込んでみる。


「あの……」


 私が手を挙げると、マリエッタさんたちの視線がこっちに一気に向く。思わず怖くなって体が震えてしまう。


「茶葉を増やすとしても、必要となる葉っぱの数が限られているので、厳しいと思いますよ」


「むむっ、そのような問題があるのか」


 男爵様とクルスさんが同時に唸り出した。

 私が縮こまって様子を見ていると、そこで話し掛けてきたのは伯爵夫人だった。


「この葉っぱって、この植物かしらね」


「えっと?」


 伯爵夫人はその手に見たことのある葉っぱを持っていた。どこで摘んだのだろうか。


「あっ、それです」


「よかった、合っていたのね。お会いする途中で珍しい葉っぱを見たので、つい摘んでしまいましてね。でしたら、この町の一角に畑を作って栽培しましょうか。これだけおいしいお茶になるのでしたら、そのくらいはしても問題ないと思いますから」


「おお、それはいい考えだな。だが、どの辺りに作る?」


 茶葉の元になる葉っぱを栽培するという話になっている。もうこれは完全に決定と見ていいのだろうかな。

 話し合いの場にいるのに、なんだか仲間外れな感じを受けちゃうな……。

 なんともいたたまれなくなってきたので、私は立ち上がって帰ることに決める。


「あの、次の納品のポーションを作らないといけないので、これで失礼しますね」


「あ、ああ。引き止めて悪かったな。気を付けて帰ってくれよ」


「大丈夫です。この辺りは今の私にとっては庭のようなものですから」


 私はどことなく気持ちが落ち着かないものの、きれいな歩き方で扉へと向かっていく。


「それでは、また次の時にお会いしましょう。失礼致しました」


 両手を体の前で揃えて、深く頭を下げて挨拶をする。扉を出てしまえば、私は大慌てでその場を離れていった。

 あの場所には、私の居場所はないのかもしれない。なんとなくそう感じた私だった。

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