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第30話 オークたちの再出発

 かつての主を失った魔族の屋敷。

 ピゲストロたちオーク軍が屋敷を訪れ、建物内のオークや使用人たちを集めていた。


「悪逆非道を極めたオークの主は討たれた。これからは、我ピゲストロが新たな主としてこの地を治めることになった」


 ピゲストロの口から出た言葉に、オークや使用人たちから動揺が広がっている。これから自分たちがどうなるのか不安なのだろう。

 騒がしくなる室内に、ピゲストロは両手を打って静かにさせる。


「我々は人間に敗北した。だが、彼らは我々を討たず、その存在を認めてくれた。これからは王国に所属し、我が治める領地として認めてくれることとなった」


「人間の支配下に入るのか?」


「そんな、人間なんて嫌よ」


 ピゲストロの告げた事実に、室内は再び騒がしくなる。


「心配は要らない。我々は我々の自治が認められており、この地に商売に来る者が出てくるが、基本的には互いに不可侵という約束を取り付けた。そなたらの生活は前より良くなることはあっても、悪くなることはない。我が保証しよう」


 オークも使用人たちも疑いは持つものの、あまりにも真っすぐで力強いピゲストロの目に、言葉を飲み込まざるを得なかった。

 静かになった室内を見て、ピゲストロは話を続ける。


「我らが暴虐の主は人間たちの英雄によって討たれた。だが、その英雄は我らを認めて下さったのだ。ならば、我らはその英雄の意思に従うというものであろう」


「英雄……、そんなものが現れちゃあな……」


 ピゲストロが語った英雄という存在に、オークたちは納得せざるをえなかった。

 勇者や聖女といった存在とは違うものの、英雄も魔族にとっては恐れるべき相手なのである。かつての魔族は、この三つの存在に敗れてきた歴史があるのだ。

 だが、今回現れた英雄は人間といさかいを起こさなければ見逃してくれるのだという。そう聞かされた魔族たちは次第に静かになっていったのだった。


 こうして、ピゲストロが新たな主として迎えることになった。

 魔族たちには不満なところはあるものの、英雄の存在を恐れて誰一人反発することはなかった。

 側近以外は誰もいなくなった部屋で、ピゲストロは目に手を当てて少し姿勢を崩していた。


「お疲れ様でございます、ピゲストロ様」


「うむ。思ったより反発がありそうな雰囲気でしたな」


「仕方ございませんよ。我ら魔族は基本的に人間との共存など考えられぬものですから」


「……そうですな」


 側近との会話で、ピゲストロは魔族の今までのあり方を再確認していた。

 自分だって、人間と相いれるものだとは思っていなかったのだ。

 それだというのに、今回ばかりは何か違うのではないかと感じていた。そのすべては、今回の戦いを終わらせた英雄、アイラの存在のせいだろうと考えた。

 そう考えるピゲストロの顔には、不思議と笑みがこぼれていた。


「さて、これから前の主の治めていた地域を引き継ぐわけだが、手分けして屋敷の中や領地のことをまとめてきてもらいましょう」


「承知致しました。では、他の者とすぐに開始いたします」


 ピゲストロからの命令を受けて、側近のオークがすぐさま行動を開始する。

 ピゲストロは椅子に腰を落ち着けて、頭を抱えるような仕草をする。


「領主を引き受けたはいいが、どのような仕事をすればいいのやらな。勢いで受けるべきではなかったか」


 今さらながらに反省するピゲストロだが、約束はしてしまったので、騎士道精神から今さら反故にできるわけがなかったのである。

 少し考え込んだピゲストロは、いよいよ決意を固めて椅子から立ち上がる。


「まずは屋敷の中の状況でも見て回るとしようか」


 部屋を出たピゲストロは、屋敷のあちこちを実際に見て回ることにしたのだった。


 ひと通り屋敷を見て回ったピゲストロは、気が付いたら庭園に出ていた。


「酷い荒れ具合だな。やはり、前の主にはこの屋敷は過ぎたものだったようだな」


 手入れが行き届かずに、すっかり荒れ果てた庭園を前に、ピゲストロはつい呟いてしまう。


「アイラ殿が居た頃は彼女のおかげできれいな景観を保っていたというのにな。何を思って彼女を追い出したのか、まったく理解ができんというものだな」


 ピゲストロは何を思ったのか、突如として庭園の埋め尽くす草を引っこ抜き始めた。

 アイラが手入れをしていた頃の庭園が懐かしかったのだろうか。

 だが、しばらく引き抜いていても、一向にきれいになる様子が見受けられなかった。


「ピゲストロ様、こちらにおいででしたか」


「ああ、すまない。自分でも屋敷を見てみようと思いましてね。気が付いたら、この庭園に足を運んでいたわけですよ」


 独り言ではないので、丁寧な口調になるピゲストロである。


「さて、貴公らの報告を聞きながら、今後の方針を固めていくとしようか」


「左様でございますね。ようやく前の主の圧政から抜け出せたのです。我々オークの本気、皆の者に見せてやりたく存じます」


「うむ、そのためにも力を貸してくれ」


「御意に」


 荒れ果てた庭園を目の前に、ピゲストロたちオークは新たな決意を固める。

 新たな主を迎えたオークの屋敷は、一体どのような変貌を遂げるのであろうか。

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