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第17話 一騎打ち、そして

 たくさんのオークが攻めてきたはずが、どういうわけかクルスさんとオークのリーダーの一騎打ちになっていた。

 どういうことなのかは分からないけれど、クルスさんに危険が迫っているのは間違いなかった。

 なんといってもその体格差がありすぎるというもの。クルスさんの倍以上の背丈があるんだから。

 送り出したクルスさんの体は、少し震えていた気がする。

 なんにしても、クルスさんの戦いでマシュローの命運が決まってしまう。私たちはただ見守るしかない。


「体格的にこちらに分はあるが……、これは真剣勝負だ。そのくらいは、貴公も理解できるな?」


「魔族にそんな事を言われるとは思ってもみなかったな。十分理解しているよ」


 オークのリーダーの確認の言葉に、クルスさんは剣を構えながら答えている。

 クルスさんと一緒に防壁の外に出てきた私は、その防壁の近くに立っている。この距離からでも、しっかりと話を聞き取っていた。聞き耳を立てているわけでもないのに、全部が聞こえてきてしまっている。私はそのくらいに、クルスさんのことが心配になっているみたいだった。


「では、始めるとしよう。我が負けたらおとなしく撤退する。だが、貴公が負ければどうなるか分かるな?」


「無論だ。だからこそ、全力でいかせてもらう」


 オークのリーダーも身構えると、クルスさんが先に動く。

 相手はどっしりと構えて、クルスさんの動きを見極めようとしている。

 オークは一般的に本能的で知能は高くないといわれている。けれど、このオークのリーダーはその知識とはまったく真逆の性質を見せている。

 さっきのクルスさんたちとのやり取りも実に冷静で、一方的にぶつけてくる要求というよりは交渉に近いものだった。

 ただ、私は一つ引っ掛かっていた。


「う~ん、あのオークのリーダーって、どこか見覚えがあるのよね……」


 そう、うっすらとしたものではあるものの、見た記憶があるのだ。

 魔族だから、おそらくは魔族の屋敷でだとは思うんだけど、私はとにかく忙しくて他人と接触してもあまり顔を覚えられなかった。宿屋時代ですら覚えられていたのだから、どれだけあの屋敷での仕事が激務だったのか。

 しかし、今はそんな事を考えている時ではない。

 クルスさんとオークのリーダーが激しく攻め合っている。

 あれだけの巨体だからオークの動きは遅いかと思ったらそうでもない。クルスさんもよく躱しているとは思うけれど、いつあの剛腕による斧の攻撃を受けるかと思うと、気が気でならないというものだった。


「ふん、やりおるな」


「そちらこそ、よくその巨体でそこまで動けるものだな」


「鍛え方が違うというものだ!」


 戦いながら話をしている。

 多分、みんな聞こえていないと思うけれど、私の耳にははっきり聞こえてくる。

 必死に戦っているはずなのに、どことなく楽しそうになってきている。私の耳にはそう聞こえてくるのだった。


 でも、それはそれほど長く続かなかった。

 さすがに人間と魔族では、体力に根本的な差があるというもの。

 私だって何日も食事や睡眠をとらなくても平気だったように、魔族の体力は意外と長持ちする。

 人間であるクルスさんは、徐々に息を切らし始めて、体がふらつき始めた。完全に疲れてきてしまっているのだ。


「人間にしてはよく粘った方よな。これほどの武人、亡くすには惜しい。だが、これが戦いというものですからな!」


 クルスさんに斧が振り下ろされる。

 誰もがダメだと思ったその瞬間、私は自然と体が動いていた。


 パキーン。


 高い音が響き渡る。


「むっ? 何者だ貴公は」


 オークのリーダーが問い掛ける。

 その時、はらりと私のかぶっていたローブのフードがめくれてしまう。

 私の顔を見た時、オークのリーダーは驚きに満ちた表情を浮かべていた。


「てめえ、せっかくの勝負を邪魔しやがって!」


「邪魔したやつも処せ!」


 突然の妨害に他のオークたちが騒ぎ始める。


「黙りなさい!」


 オークのリーダーが一喝する。


「なんと、追い出されたと聞いていましたが、ここにいたのですな」


 丁寧な口調で、オークのリーダーは私に声を掛けてきた。


「あの時は助かりましたぞ。おかげで我は今もこうやって斧を振るっていられるのです」


 オークのリーダーが自分の前に跪いて何かを話しているのだが、私にはまったく理解ができなかった。なにせ覚えがないのだから。


「むぅ、覚えていませんかね。あれはどのくらい前だったか、別の魔族との戦いを終えた時のことでした。あの時の我は戦いに勝利はしたものの、大ケガをしてしまいましてね」


 オークのリーダーが話し始めたことを聞いて、私の中に少しずつ記憶がよみがえってくる。

 そう、あれは魔族の屋敷に連れてこられてまだ日の浅い頃、追放直前ほどの忙しさのなかった頃の話だった。


「ああ、あの時のオークですか。思い出しました」


 すっかり記憶が戻ってきた私は、思わずポンと手を叩いてしまっていた。


「懐かしいですね。姿が立派になっていたので思い出すのに時間がかかってしまいました」


「あの時は戦いの後で装備が壊れた上にボロボロになっていましたからね。あの時のあなたが作ってくれた食事と処置のおかげで、私は再起できたのです。本当に恩に着る」


 私たちが話す様子を見て、周りは状況が理解できずにまったく動けなくなってしまっていたのだった。

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