EPISODE8、来世に期待
あれ…?
ここは何処だろう…。
何も見えない真っ暗闇だ。
そうか…。死んだのか…俺。
周りも良く見えないし、何も聞こえない。
死ぬとこんな無の空間に行き着くのか。
皆、どうしてんのかな?
魔王軍領で戦ってるのか?
気にしたって仕方ないな…。
俺は無の空間の中で感傷に浸り、出会った時や喜びを分かち合った時を思い出していた。
俺の中で1番楽しかった思い出だからだ。
死んだ後くらい、楽しい思い出に浸ってもいいよな…。
すると、思い出を掻き消すくらいの勢いで全身に痛みが走る。
痛ぇ…。
身を焼かれてるみたいだ。
意識を体を動かす事に集中する。
微かに指が動く感覚があった。
身を焼かれてるみたい?
ーーまさか…。
俺はゆっくり、ゆっくりと目を開ける。
顔面の右半分は腫れ上がっているせいか、目を開ける事は出来ないが左目だけは薄目だが開ける事が出来た。
目の前に広がるのは夜空。
輝く星々が異様に眩しく感じる。
「…俺は…」
声も出せる。
全身は死ぬほど痛えけど微かに声も出せた。
「ちょっとちょっと!生きてるよ!」
少女の声だ。
暗闇を彷徨っていたせいか安心する。
「あれ…?俺…死んだはず…じゃ…」
「全然?そんな事ないよ?あっ!でも数秒間くらいは死んでたかも!」
何じゃそりゃ…。
少女が言うには、なるべく俺に被害がいかないようにブラセだけを焼き尽くしたらしい。
ブラセは最後の抵抗からか、俺を離さなかったため火傷を負い、数秒間だけ仮死状態になっていたという。
「今から出来るだけの治療をするみたいなんだけど…」
だけど?
「今日が峠だって」
死んでもおかしくない状況じゃねぇか!
え?何?
重要な事をサラッとしか言えないのかこいつは!!
俺のツッコミだけは全快だ。
重なる怪我に俺の肉体も限界だしな。
死んでも仕方ない事ではある。
「また…助けられた…な」
「え?全然助けるつもりなかったよ?本当は、あのハゲと一緒に焼き払うつもりだった!」
「は?」
…どゆこと?
俺に被害がいかないように気を遣ったという話は?
…え?
駄目だ…。この少女に対してのツッコミが止まらない。
「だってさぁ?一人でカッコつけて勝手に死に際決めてさ、ムカついたから!貧弱な体だったから火力調整めんどくさかったんだよ!?」
ああああああああああああああ。
弱くて良かったぁ…!
初めて俺自身が弱かった事に感謝した。
「そ・れ・に!貧弱な君に助けられたみたいで、私がカッコつかないじゃん?」
言いたい事は分かる。
俺も強者だったら同じ気持ちになるかもな。
「まぁ…助けてもらった…事に変わりはない…ありがとな…」
また助けられる事になってしまった。
助けてくれるなら、これだけは言わなければ…。
「包帯だけは…勘弁…してくれ…」
「え?それどういう意味!?」
包帯に殺されるからだよ!
と言ってやりたいが、またちょっかい出されたらそのまま絶命する気がするから黙っておこう…。
「お嬢様。適切な治療をするために拠点を移す事を提案します」
助けてもらう立場にいる俺が、わがままを言えた訳じゃないが甘えさせてもらおう。
「大丈夫だと思うけど?包帯あるし」
少女は不思議そうな表情のまま首を傾げ、両手に包帯を持っていた。
殺す気か。
「ちょっとやそっとで死なないでしょ」
だから殺す気か…。
「ここに先程のような輩達が来ないとも限りません」
その通りだ。
「移動するかー」
少女は承諾すると、メイドが俺に肩を貸して背負う。
女性に背負られるのは恥ずかしいな。
わがままは言ってられない…か。
…この匂いは、香水か。
花畑にいるような匂いだ。
「申し訳ありませんが、あまり鼻息を荒げられると気になるので控えて頂けないかと」
メイドの言葉に俺は顔を赤らめた。
そんな言い方されると変態みたいじゃないか。
下心はない…!決して。
視線を感じ、引き攣った表情を少女へ向ける。
「変態」
ニヤリと少女は不敵に笑う。
だからちげえよ…!!
俺は心の中で訴える事しか出来なかった。