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EPISODE6、謎の2人

「馬鹿野郎…なんで逃げてないんだよ…!」


 俺は声を振り絞り、今置かれている状況に絶望していた。時間稼ぎは無に帰したと言ってもいい。

 少女が現れた事が最悪の状況だ。


「捜す手間が省けたぜ!やっぱり居るじゃねぇかよッ!」


「ぐふ…ッ!?」


 俺は蹴りを入れられ呻き声を零す。


 そんな俺を見て少女は首を傾げている。

 どれだけ不思議ちゃんなんだ、こいつは…。


 逃げろよ…なんで逃げないんだよ…!


 どうなるか分かってないのか…?


「君達、暴力は駄目だよ!」


 少女が頬を膨らませる。


 そんなこと言って通じる相手かよ…。


 馬鹿なのか!?


「何言ってんだこいつ…!」


 ブラセ達は下卑た笑い声を上げる。


「時代は対話対話!私が説得してみせるよ!」


 俺に親指を立てて任せて!と言わんばかりの表情を浮かべるが全然意味が分からない。


 何かの作戦か?


 作戦であってくれ…。


 この隙に騎士団をメイドが呼びに言ってるとか、自身を囮にしてるとか?


「お金?宝石?欲しいのは何?」


 少女がブラセに聞くと答える。


「全部だ!全然よこせ!!」


「いいよ!好きなだけ持っていって!」


 少女が合図すると、メイドがブラセに金と宝石が詰まった大きな袋を投げ付ける。


「こいつぁ、すげぇ」


「本物だぜ!こりゃ」


 手下達は袋を開け、投げ渡された宝石を見て興奮していた。


 というか、メイドいるし…!


 作戦じゃないのかよ!!


「それあげるから、帰った帰った!」


 少女は手で追い払う。


 それで引くほど人間が出来ていないブラセは、さらに要求する。


 対話というか、財力だろそれ…!


「ならてめぇの体も貰おうか!」


 舌なめずりをして、手下に顎で合図する。


「早く…逃げろ…馬鹿!…死にたいのか…!」


 血を吐きながら少女に訴え掛けるが、少女は頬を膨らませて怒る。


「馬鹿?馬鹿ってなに!?今、対話で解決するって言ってるでしょ!?」


「会話が…通じる相手かよ…!」


 これじゃあ…体を張った意味がねぇ…。

 無駄死にじゃねぇか。


「ほら、早く来い!」


 手下が少女の腕を引っ張る。


「助けてあげるって言ってるのに、何で分からないかな!」


 少女が俺を怒鳴りつける。

 怒りたいのはこっちだっての…。

 命を張った時間稼ぎ、俺の苦労を全て無駄にしてくれる。

 これから起きる惨状を見せつけられるこっちの身にもなれってんだ!


「てめ…!早く来い!」


 手下が少女を階段から引き摺り下ろすのに苦戦していると、少女が手下に視線を移す。


「どいてっ!邪魔!!」


 少女が腕を振り払い、手下を突き飛ばすと壁にめり込んでしまった。


 は?


 手下は、めり込んだまま動かなくなってしまった。


「黙って見てて、対話で解決するから!」


 それ…暴力…!

 対話で解決する気ないだろ!こいつ…!


「お嬢様、やはりこの手の輩に対話は不要かと」


 メイドが少女に進言する。


 ようやく…いや、最初から対話する気ないじゃん。

 ただ財力を見せつけた後に、殴っただけじゃねぇか。


 財力と暴力だ!


 でも何だ?不思議な感覚だ。

 この2人が負ける未来が何一つ見えねぇ。

 強者?の余裕ってやつなのか?


「というか、なんで争ってんの?」


 少女がメイドに尋ねると答えてくれる。


「そこに這いつくばっているポンコツ、レヴィンが白銀王のギルドに所属していた時に起きた因縁からのようです」


 メイドが丁寧に説明してくれる。

 ポンコツは余計だが、事実なので言い返せない。

 ただでさえ疲弊してるのに追い討ち掛けるなよ。


「そして、そこの彼は調子に乗って酒場で武勇伝のように言いふらしたり」


 ん?


「俺は強いと気になる子の前でかっこつけたり」


 んん?


「まさに痛い事をして来たツケですね」


「おい…ちょっと待て…なんで…?…は?」


 このメイド怖っ!

 ほぼ初対面だよな?

 何で俺の痛々しい過去知ってんの!?


「なるほどね。駄目だよ?見栄も程々にしなきゃ」


 少女に言われ、さっきよりも精神的苦痛が俺を無慈悲に襲う。


「それはそれとして、じゃあ聞くんだけどさぁ」


 少女はブラセを指差した。

 異様な空気だ。

 何かが起きようとしているのか?


「このまま逃げるなら見逃すけど、掛かって来るなら命の保証はしないけどいいよね?」


 少女から放たれた殺気。

 弱者の俺でも分かるヒリついた空気が肌を突き刺して来る。

 さっきと同一人物なのかと疑いたくなる。


 殺気に悪意のようなものも入り交じっていた。

 吐き気がするほどだ。


「たかが1人倒したくらいで…随分と威勢がいいじゃねぇか!こっちは4人。てめぇら2人で俺らを倒すってか?」


 ブラセの言う通りだ。

 人数的にも不利な状況なのは間違いない。


「あっそ。じゃあ言い方変えるね?逃げなきゃ殺すって言ってるの」


 少女の発した言葉と同時に手下達は飛び掛っていた。

 やられる…!

 そう悟った時、手下達は空中で静止していた。

 何が起きたんだ?


「か、体が動かねぇ!?」


「なんだこれは!?」


 手下達は指一本動かせず、その場に留まったままだ。


「張り巡らされた糸に気付かないとは…。やはり愚か者は目も節穴ですね」


 月明かりに照らされると、何かが光る。

 メイドの手から糸が伸びていた。

 手下達の体に絡みつき、動きを止めている。

 全く見えなかった…。いつから糸を張り巡らしてたんだ?


抜糸(ぬきいと)


 メイドが糸を強く握ると、手下達は声を上げる間もなく肉片へと成り果てた。

 飛び散る臓物、階段から滴る血。

 騎士団でも手を焼く手下達を一瞬で?


 本当に…何者なんだ。

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