EPISODE5、決意と意地
「おーい!居るんだろぉ!!ポンコツ、レヴィンッ!!」
響き渡る怒号。
聞き覚えがある声だった。
恐る恐る窓の外から除くと、頭に抉れるほどの大きな傷を持ったスキンヘッドの大男。
ブラセと言う。
犯罪ギルドのブラック・ブラックのギルドマスターで、殺人や強盗までやった事がない犯罪は無いと噂される犯罪者集団だ。
前に道端で絡まれた時、皆がボコボコにした相手だった。
こんな山奥まで、捜しに来たのか?
というか、なんで俺?
「何?知り合い?」
少女が尋ねて来たが、俺は情けなくビビり散らかしていた。
「あ、ああ。犯罪ギルドのギルマスだ…。しかも指折りの実力者ばかり…」
騎士や傭兵崩れで構成されている事もあって、街の騎士団でさえ手が付けられないと言われている奴らだ。
勝ち目なんてない。
少女の蹴りを受けただけで死にかけた俺が言うのもなんだが、実力差が分からない。
命を助けられたばかりか、食事まで世話になった。
これ以上、この2人に迷惑を掛ける訳にはいかない。
「俺が奴らを引き付ける。お前らは逃げろ」
「は?なんで?」
「なんでって…。あいつらは極悪集団だ。女の子が居るって知ったら何をされるか分からないんだぞ!いいな、逃げるんだぞ!」
俺は両腕を吊ったまま、窓から飛び出して着地する。
「俺を捜してるのか!?ブラセ!!」
俺が叫ぶと、ブラセは口角を上げていた。
「何だぁ。やっぱり居るじゃねぇかよっ!」
ブラセが指差して俺を嘲笑うと、手下の4人も嘲笑っていた。
「俺に何か用かぁ!?またボコボコにされたいのか!」
今は2人が逃げるまで時間を稼ごう。
怖ぇけど…。
「てめぇが俺様をだぁ?勘違い野郎めッ!アレはてめぇの仲間が強かっただけでてめぇ自身はクソザコじゃねぇかッ!!」
痛い所を突かれる。
実際、俺はクソザコだし言い返せないな。
「それはどうかな?俺が出る幕はねぇって考えたことないのかよ!」
俺は見栄を張って言葉を続ける。
「この傷を見ろよ。この森で遭遇した森で蠢く狼とやり合ったんだ」
森で蠢く狼ってのは、この森に生息する魔物で、5段階ある討伐難易度は4。
当然、嘘なのだが手下達は顔を見合わせている。
よしよし…。
ビビってるな。
このまま時間を稼ぐぞ。
「今は療養しないといけないからな。まぁ、お前らの相手だったら足が動けば十分だがな」
よし、挑発もした。
家からの興味は逸れたはず…!
後はこの家から離れて全力で逃げるだけだ。
目を逸らした瞬間だった。
目の前には拳。
当然、避けられるはずもなく顔面に拳がめり込んでいた。
地面に打ち付けられた後、派手に転がり、入口の扉を突き破って壁に激突していた。
「がは…ッ…ごほ…ッ」
な、何が起きた?
鼻が折れて、鼻血が溢れ出ていた。
呼吸も詰まる。
何回目だよ、ちくしょう…。
「なぁ?言ったろ?クソザコだってよ」
ブラセの一撃が繰り出されていた。
全く見えなかった。
逃げ足には自信がある方だが、逃げることさえ出来ないのかよ…!
「残念だったなぁ〜。ポンコツ!てめぇが白銀王を追放されたのは知ってんだよ!」
もう広まってるのかよ…!
「白銀王の後ろ盾がなけりゃぁ、てめぇはただのクソザコ!奴らにやられた分、てめぇできっちり払わせてもらうぜ!!」
ブラセ達は、治りかけの両腕や肋を殴る蹴る。
俺はなされるがまま。
抵抗すら出来ない。
顔面を腫らし、視界が狭まっていく。
「ボス!この匂い…女の匂いだ!」
ちっ…!
鼻の効くやつがいたか…!!
「だったら…それは俺の匂いだな…知らねぇのか?最近は…男も匂いに気を遣うん…だぜ?汗くせェてめぇらじゃ分かんねぇ…だろうけどよ」
俺がニヤリと笑って見せる。
ブラセの踏み付けは、俺の腕を易々とへし折った。
余程、気に入らなかったらしいな。
痛てぇ…。
痛てぇけど、ここで踏ん張らなきゃ…いつ踏ん張るってんだッ!!
「ここに居る女は、てめぇの女か?」
「さぁな…?こんなボロ小屋に女なんか住むかよ…!」
俺の答えにブラセはニヤついた笑みを返す。
「こいつの鼻はなぁ?女の汗を嗅ぎとるんだよぉ!嘘ついても無駄だッ!!」
何それ気持ち悪っ!?
腐っても犯罪者ギルドかよ!!
なら…。
俺はブラセの足に思い切り噛み付いた。
殴られた時に顎を痛めたせいか、全然力が入らねぇ…!
気持ちでは噛みちぎってるつもりなのに…!
「汚ぇなッ!!おい、女を連れて来い!」
俺は剥がされ地面に突っ伏し、頭を踏んづけられる。
身動きが取れなくなってしまった。
「ここまで抵抗するってこたぁ、大事な人ってことだよなぁ?」
「そんなんじゃねぇ…!」
「まぁ連れて来たら、目の前でひん剥いて、体の隅々まで堪能させてもらうぜぇッ!」
この外道が…!
だが、時間は稼げたはず…。
上手く逃げているといいが…。
少しは恩を返せたか?
何も出来ねぇ弱っちい俺だけど、こういう散り方なら悪くねぇや…。
俺にもっと力があったなら、こんな奴ら蹴散らしてやるのにな…。
女が居ないとなれば、矛先はこちらに向く。
俺はこのまま嬲り殺されるだろう。
悔いだらけの人生でも…これで格好はついただろう。自己満足だけどな。
あるなら…来世に期待でもするかな…。
「ちょっと!ボロ小屋って酷くない!?」
現れたのは少女だった。
「な…っ!?」
俺は驚きの声を上げてしまっていた。