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EPISODE4、目覚めてまた失って

 再び目を覚ます。


 この天井を見るのも3回目だ。


 今度は息が苦しい。

 体も動かない。


 いくら回復魔法でも治らなかったんだな…。


 ん?


「ふご…ッ!?んごご!!」


 呼吸が苦しいのも当然だ。

 俺の目元以外、包帯でぐるぐる巻きだ。


「おっ、さっきより起きるの早いね〜」


 しかも、包帯を現在進行形で巻き続けているだと!?


「ほほけ…!!」


 解けと言っているが、口が塞がって上手く話せない。

 俺は血走った目を向ける事しか出来なかった。

 なんだこれは。

 関節までがっちりと固定されているじゃないか。


「まっ、これだけ巻いとけば大人しくなるっしょ」


 身動きが取れない。

 というか、締め付けが強過ぎで別の意味で死にそうだ。


 全身に広がる圧迫感。


 その証拠に指先の感覚まで無くなりつつある。

 この少女、俺を殺したいのか生かしたいのか分かない。


 ここまで来ると怖ぇよ…。


「ふご…ふご…!!」


 俺は必死に訴えかける。


 しかし少女は、鼻歌を奏でながら包帯を巻いていく。


 死ぬ…。本当に死ぬ。


「はいはい、大人しくしててよね。こうでもしないとまた、死にかけるよ?」


 最早、狂気。


 魔物に殺される前に、包帯で死ぬのだけはごめんだ。


 口元が血で滲むのを見たのか、少女は慌てて包帯を解いてくれた。

 結局、包帯は完全に取れた訳じゃなかったが両腕を体の前で固定された状態になる。


「さっきは…悪かった。当たり散らして…」


 俺は頭を下げた。

 相当、追い詰められていたとはいえ、助けてくれた少女に辺りを散らすのは最底だ。

 ルゴが俺を殴り飛ばしたのも頷ける。


「別にいいよもう気にしてないから」


「ごめん…」


「いいって気にしてないから」


「でも…」


「気にしてないって!」


 少女の手が運悪く俺の顎に命中。

 辺りどころも悪く、再び意識を失うには十分過ぎるほどだった。


 何なんだよ…もう。


 生き地獄かよ…。


 俺は涙を流しながら闇の中に沈む。


 次に目を覚ました時、見慣れた天井とはいかず、驚きで言葉を失い体が硬直する。


「が…が…は…」


 視界に飛び込んで来たのは少女ではなく、白面を付けた女。

 髪色は茶髪でお団子ヘアーで、目や鼻は無い白面でメイド服を着ていた。


「お目覚めになりましたか。必要な治療は施しておきました」


 丁寧な口調で優しく語りかけて来た。


「ご、ご丁寧にどうも…」


 俺は顔を強ばらせつつも、お礼だけは言った。

 体に怠さは残るものの、包帯も適切に巻かれていて呼吸も安定している。

 ようやく安心出来そうだ。


「どうやら、お嬢様がご迷惑をお掛けしたようで…」


 メイドが頭を深々と頭を下げると、俺はすぐに首を横に振る。


「助けられたのはこっち…なんで。大丈夫ですよ」


 助けられたとはいえ、ここで死にかけるとは思わなかったが。

 お嬢様ってことは、どっかの貴族らしいな。


「もう夕暮れですし、よろしければ、ご夕食はいかがですか?」


 俺は断ろうとしたが、


「遠慮せず、食べなよ」


 窓から少女が顔を出して来た。

 来るな来るなよ窓から。


「お嬢様。窓は出入口ではありませんよ」


 メイドが注意すると少女は何故か満面の笑みだ。


「せっかくなんで…頂きます…」


 俺が答えるとメイドは食事を運んで来た。


「ありがとうな。助けてもらった上に食事まで…」


「別にいいって!」


 食事に目をやると、じゃがいもと人参がごろごろと入ったスープ。


 切り分けた肉も入っているが、メインは野菜といった感じだ。


 スプーンを手に取るが震えておぼつかない。


 力を込めるだけで痛てぇ…。


 すると、メイドが器を手に取るとスプーンで野菜を掬い白面を軽く上げて軽く冷まして、俺の口元まで運んで来る。


「え?」


「どうぞ」


 どうぞって言われても…。


 食べさせられるのか…?


「何してんの?食べなよ」


「いや…その」


 俺は躊躇ってしまう。


 おそらく美人?なメイドに食べさせてもらうこの状況が恥ずかしくてむず痒い。


「じゃ、じゃあ…遠慮なく…」


 野菜を口に入れると、ホロホロと口当たりに広がり体の芯まで温まるようだ。


「…美味い…」


 家庭の味だ。


 まぁ、生まれた時から両親が居なかった俺にとっては分からないが、優しさというか温かさっていうのを感じる。


 家庭の味っていうのは、こういうのを言うのかもしれない。


 次々に程よいペースで運び込まれる野菜達。

 口の中で奏でられる味のハーモニー。


 あっという間に平らげる。


「美味かったです…」


 俺が感想を伝えると、メイドが軽くお辞儀する。


「お口に合ったようで良かったです」


 メイドは空になった皿をまとめ、部屋を後にしようとするとピタリと足を止めた。


「ーーお嬢様」


「分かってるよ、明らかに敵意を持った反応が5人。盗賊団か何かかね」


 何だ?このピリついた空気感は。


 この2人は、俺の知らないところで何かの気配を捉えていた。

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