EPISODE31、腕の見せ所
「レヴィン君の知識を参考にすると、残っているのは微妙な依頼しかないですね…」
ファルは空を仰ぐ。
静かに呟いた声には諦めが混じっていた。
この冒険者支部には、お手軽な依頼は残っていない。
高難易度の依頼を受けるにしても、実績も資金も人数も足りないものばかりだ。
「お手軽な依頼と言ったら【遺跡迷宮】くらいしかないしな…」
突如として出現する【遺跡迷宮】は、冒険者にとって醍醐味でもある。
踏破出来れば実績は勿論、財宝や貴重な装備が入手出来る。
しかし、駆け出し冒険者だけだと冒険者支部に依頼を斡旋すらされない。
「手続きは面倒臭いけど、あの手で行くか…」
レヴィンは、【遺跡迷宮】調査依頼を受ける方法に心当たりがないわけではなかった。
「ティルゼ、金貨何枚か貸してくれよ」
「おっ?賄賂か?」
ティルゼは冗談めいた調子で、少し意地悪そうな笑みが混じっている。
「仲介料だよ…」
「ほほう?」
ティルゼは懐から金貨を5枚取り出して渡した。
レヴィンは受け取った金貨を持って、酒場にいる顔触れを確認する。
「…あいつだな」
レヴィンが歩き出すと、ファルとティルゼは顔を見合わせて後に続く。
目を付けたのは、酒場の隅の陰に身を潜め、薄暗い光の下で酒を煽っている黒色のフードを深く被った男だった。
その風貌は不健康そうな色白の肌に、鋭い目つきと粗雑な格好。
まるで誰にも気付かれず、ふとした隙に何かを企んでいるかのようだ。
「なんだい、あんちゃん?」
フードを軽く持ち上げた男が、慎重にレヴィンの視線を捉える。
その顔は薄暗い影の中から浮かび上がり、鋭い目つきと無愛想な表情が一層不気味さを増していた。
すると、突然ファルの体が硬直するほどの驚きの表情を見せた。
瞬時に目が見開かれ、唇が僅かに震える。
それに引き摺られるように、いつも平然としているはずのティルゼまでも眉が一瞬上がり、目を大きく見開き、思わず口元に手を当てた。
「ちょっと相談したいことがありやして〜」
レヴィンは突然、ニタリと笑みを浮かべ、表情を崩し始めた。
その仕草は明らかに媚びへつらうようなもので、まるで猫が尻尾を振るかのように、へこへこと腰を低くしている。
あまりの突然の出来事に2人の空気が凍りついてしまった。
「相談?他をあたんな」
レヴィンはあしらわれるが、食い下がる様子を見せた 。
「そんな事を仰らずに〜お願いしやすよ〜」
レヴィンが机にそっと差し出したのは、ティルゼから借りた金貨だった。
その動作は、あたかも何気ない仕草のように見えるが実際には緻密に計算され尽くした巧みな手口であった。
冒険者達が集まるこの場で、金貨を出そうものなら視線は釘付けになってしまうだろう。
レヴィンは、自然な動作のまま指で隠しつつ、指の隙間から男にだけ見える角度で差し出したのだ。
他の冒険者達の死角から差し出された金貨という魔力に男は抗えるはずもない。
「話を聞くだけならいいぜ」
ーー来た。
すかさずレヴィンは言葉を紡ぐ。
「さすが〜。頼るなら、あなたが一番と聞きやしてねぇ〜」
レヴィンは巧みなタイミングで男の気持ちを和らげ話の糸口を引き寄せていく。
「あんまし大きい声で言えないんですがねぇ〜?【遺跡迷宮】調査の依頼を繋いで貰えると聞きやして…」
親しみやすさと信頼感を演じつつ、裏には確実に情報を引き出す狡猾さが潜んでいる。
「なんせ駆け出しの冒険者だと何処も断られてしまいましてねぇ…。次のヤマを当てないと食いぶちもなくって…」
「回してやりてぇが…今【遺跡】の枠は埋まりつつある」
「枠っつうと【アレ】ですかい?」
「そう【冒険者連盟】」
レヴィンの予想が的中した。
各ギルドがそれぞれの力を持ち寄り、高難易度依頼に挑む。
その結束は、強力なものとなっているが背後には、互いの信頼と狡猾な情報戦が繰り広げられている。
もちろん、そうした中で「おこぼれにあやかろう」と目論む無用の輩や、利を貪る者たちも忍び寄っている。
彼らは、表向きの連盟を利用し、隙を突いて自分たちの利益を得ようと狙っているのだ。
だからこそ、金を払ってまで連盟に食い込もうとする者たちも少なからずいる。
【冒険者連盟】が強力であればあるほどだ。
「今回はでかいヤマって訳ですな」




