EPISODE2、少女と包帯と
目を覚ますと、そこは見知らぬ天井で、身体中に包帯を巻き付けられていた。
巻き付けられていた包帯は、本当に巻き付けられているだけであり、肝心の折れた肋骨は支えられていない。
折れた右腕も同様だ。
まるで意味がない。
俺は左手で包帯を解き肋骨に当て直し、散らばっていた木片で右腕に添え木をして巻き直した。
ここは一体どこだ?
状況を理解しようとするが、全身が軋む。
吐きそうなくらいの激痛だ。
ゴブリン程度に与えられたダメージで死にかけるとは情けない限りだった。
それは受け入れなければならない現実だ。
死ななかっただけ良しとしよう。
俺は立ち上がろうとすると、突然扉が開いた。
「駄目だよ!まだ起きちゃ!!」
俺は当然反応出来ず、体に走った衝撃に思わず絶叫した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
扉を開けた銀髪の髪を靡かせる少女が全体重で俺に飛び乗って来たのだ。
巻き直した包帯が本当に意味をなさず、さらに折れかかっていた肋骨が完全に折れる。
「わぁ…ごめんなさい!でも折れたくらいで大袈裟なような?」
「け、怪我人に追い討ちかけたのは…どこの…どいつだよ…?」
血走った目を少女に向けながら、声を荒らげる。
声の振動が体に響く。
「あんたは…何者だ?」
俺の問いに少女が首を傾げる。
「人間かな?」
「…そういう事じゃねぇよ…!」
何だ?不思議ちゃんか?
「助けて…くれたんだろ?」
「死んでるかなって思ったんだけど、息合ったし一応ね」
「一応…か… 」
助けてくれただけでも有難い。
俺は強くなると決めたんだ。
死んでなんかいられない。
少女は散らばった木箱やら何やら拾い集める。
空き部屋だろうか、やけに散らかっていた。
本に脱ぎ散らかした服…。
自室じゃないだろうな?
「あった!」
すると少女は何かを見つけたのか、持っていた木箱を放り投げる。
投げた先は、俺。
「ぎぃゃああああああああああああッ!?」
再び絶叫が響き渡る。
また折れかけていた肋骨が折れた音がした。
「こ、殺す…気か…てめぇ…」
「ごめんごめん…」
駄目だ。
ここに居ると殺される。
…にしても、この少女からは不思議な雰囲気を感じる。
どこか気品な所もある。
片付け方が丁寧過ぎる。
「あんた…どこか…貴族…の生まれなのか?」
「貴族?」
「屋敷…に住んでたとか…大金持ち…とか」
「ああ〜、まぁそんな感じかな」
お嬢様か。
「あと、ムカついた奴をぶん殴ったりとか!」
違うのか…?
駄目だ…。意識がまた遠のいていく。
本当に死ぬかもしれない。
「なぁ…出来れば医者に…連れて…」
ここで俺の意識が途絶える。
ーー死んだ。
命ここで尽きる。
ゴブリンでもなく、少女の天然に俺の命は絶命したのか。
再び目を開けると、先程と変わらない天井が目の前に広がっていた。
包帯の数は減っていて、腕と頭にだけ巻かれている。
さっきよりも痛みは引いているが、怠さが残っていた。
「いててて…」
体をゆっくりと起こす。
カチャ。
今度はドアノブが揺れた瞬間に身構えた。
いきなり飛び乗られでもしたら、また怪我をするに違いない。
あれ?来ない?
「今度はちゃんと起きたね」
「何故に窓から!?」
今度は窓から姿を現しやがった。
「手当て…助かったよ。医者呼んでくれたんだな」
「いや別に?」
別に?
「回復魔法使えたから使っただけ」
「最初から使えよ!」
俺は思わずツッコミを入れてしまっていた。
「だって君、軟弱過ぎて治しにくいんだもん。回復し過ぎると体に悪いから」
「んなわけあるか!」
怪我の程度が酷すぎて治しにくいなら分かるが、軟弱過ぎるからなんて初めて言われた。
「体に悪いってなんだよ…回復し過ぎるとどうなるんだ?」
回復魔法は、怪我を治癒してくれる。
体に悪いことはないはずだが、念の為に聞いてみた。
「体が弾け飛ぶかな」
「マジかよ」