EPISODE28、仲間として
レヴィンがゆっくりと意識を取り戻したとき、また見知らぬ天井がぼやけながらも目に映る。
頭の奥に鈍い痛みが残る中、重い瞼をゆっくりと開き、視界を横に動かすと、静かにうたた寝しているファルの姿が視界の端に入った。
よく見れば、薄い毛布の上に、色白の肌にほんのり赤みを帯びた柔らかそうな頬と、火照りの残る額、痛々しい焼け爛れた手をそっと覆う彼女の細い指先。
青みがかった黒髪が揺れ、穏やかに眠り続けている。
レヴィンは疲れの残る体をゆっくりと動かし、起き上がろうとした。
筋肉が重く関節が軋む。
何とか身体を起こし、状況を整理しようと頭を巡らせようとすると扉が静かに開き、ティルゼがゆったりと入ってきた。
「随分と長いお休みだったね〜」
と、声が柔らかく響いた。
その一言を聞いた瞬間、鼓動は一気に高鳴った。
長い眠りから覚めて、また数日も寝続けていたのだと錯綜した。
「また…数日間寝てたのか」
驚きと情けなさが入り混じる声で呟いた。
「8時間くらいかな〜」
ティルゼはあっけらかんとした様子で答えるが、レヴィンにとってはそれどころではない。
その声には何の気遣いもなかったが、胸に満ちた不安と杞憂は、少しずつ払拭された。
今回こそは本当に短い眠りだったのだと。
「ファルちゃんは、ぐっすり寝てるけどね」
と、ティルゼが続けた。
(うたた寝じゃねぇのか…)
レヴィンは自然と視線をティルゼの左腕に向けてしまった。
その腕は、かつて失ったと言っていた。
「やっぱ気になる?そりゃそうだよね〜」
ティルゼは合わせて笑いながら、無造作に左腕をゆったりと揺らした。
右手には、手入れの行き届いた義手の金属部分が光っている。
見た目は滑らかで、金色の腕甲のようで精密に作り込まれているため、その動きも自然だ。
左腕に嵌めるとその動作とともに、義手が軽く鳴った。
すると、意思を取り戻したかのように、左手がゆっくりと動き始めた。
レヴィンは唇を噛み締めながら、その義手を見つめ、胸の奥にあった思いを必死に押し殺した。
「悪ぃ…無くしたって言ってたもんな」
理由は定かではないが、詮索するものではない。
「気ぃ遣わなくても平気だよ〜?もう10年くらいの付き合いなんだよね、義手とは」
ティルゼは手を振り返す。
「ところでレヴィンって何歳なの?」
ティルゼが話題を変えてくれる。
「16だ…」
「マジ?歳下か〜」
ふっと笑う。
「は?」
レヴィンは戸惑いながら反応した。
「あたしとファルちゃんは18〜」
ティルゼは何気なく付け加える。
その声にはちょっとだけ、からかうような調子もあった。
レヴィンはそれを聞いて、少しムッとした表情を浮かべながらも、思わず目を反らした。
完全に見た目で判断していた。
しかし、レヴィンは【白銀の翼】でも一番の歳下であった。
「これから頼むよ〜。歳下くん」
ティルゼの軽やかな声が響く。
「え?」
レヴィンはその言葉に思わず反応してしまう。
「これから?」
「ん〜?そうだけど」
「仲間…ってことか?」
過去の記憶が一瞬、脳裏をよぎった。
冒険者ギルド【白銀王】には、土下座して半ば無理やり加入したのだ。
あの時の恥ずかしさ、焦燥感、自分の無力さ。
すべてが今も心の奥に残っている。
現在は追放され、強くなるためにと、命の恩人であるリルアやラクネアのもとで腕を磨いてきた。
彼の肉体は少しずつ強くなり、戦いの実感も得ている。
だが、その一方で心の奥底に潜む空虚は消えなかった。
強くなることは確かに望みだったが、本当に満たされるべきものは何なのか、その答えは見えないままだった。
ましてや、仲間として迎え入れられることなど、最初から考えてもみなかった。
それだけど、今こうしてティルゼの優しい言葉を聞き、胸の奥が締め付けられた。
そして、レヴィンが一番聞きたかった言葉でもあった。
「俺こそ…よろしく頼む」
レヴィンは喉の奥が詰まるような思いを感じながら、静かに言った。
その言葉とともに、目からは涙が零れた。
震える指先で、慌てて涙を拭った。
心の奥底に押し込めていた感情が、一気に溢れ出した瞬間だった。
周囲の空気が静まり、ただ一瞬の沈黙が流れた。
だが、その笑顔は曇りない素直な心の表れでもあった。




