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最強ギルドを追放された俺はガチの最弱なので。  作者: 真宵 にちよ
第二章、新たな出会いと冒険と
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EPISODE22、信用

 俺の提案に、黒髪の少女は微かに困惑した表情を浮かべながら、その目が思索に沈む。

 彼女の視線は不安に包まれ、周囲の緊張感を表すように固く閉じられていた。


「…どうしましょうか?」


 その言葉は、少女の迷いを色濃く映し出していた。


「もしあなたの言うことが正しければ、ここにいるのは本当に危険なのかもしれませんね…」


 彼女の黒い瞳にちらりと浮かぶのは、警戒心が入り混じった色。

 俺を見つめ、目の奥に潜む不安を感じ取る。

 自分を嵌めようとしている相手と共謀者である可能性を完全には否定できず、信頼関係を築くこと迷っているようだ。

 逆の立場だったら俺も迷う。


「白銀王ってギルド知ってるか?」


 俺の質問に少し驚いたように瞬きをした。


「え?」


 追放された身としてはあまり言いたくないが、信頼を確保するためには言葉を使うしかなかった。白銀王の名は冒険者の間では誰もが知る最強ギルドだ。

 それを告げれば、少しは警戒心が解れ、心を開くかもしれない。


「貴方が所属していたギルドですよね?」

「そうだ。名前くらいは聞いたことあるだろ?」


 俺の心の中で期待が高まる。

 しかし…。


 ーーー少女は沈黙した。


 嘘だろ…?冒険者をやっていて白銀王を知らないなんて、予想外の反応だった。

 ますます事態が厳しくなってきた。

 まずい…まずいぞ…。

 この依頼は罠である可能性が非常に高い。

 隠し文字が使われている時点で、罠であることは明白だ。

 俺の不安が募っていく。


 何か信頼を勝ち取る方法はないのか…。


 頭の中が混乱し、焦燥感が背筋を這い上がる。

 信頼を得るための方法を見出せずにいる自分が情けなく思えた。


「知ってるよ〜、白銀王。最強のギルドだっけ?」


 茶髪の少女がその言葉を口にした瞬間、俺にのしかかっていた沈黙が破れた。

 それはまるで暗い森に突き出す光明のようで、一筋の希望が見えた。


 信頼を勝ち取る好機が到来する。

 これを逃す手はない…!


「白銀王は、何よりも仲間の絆を大切にする…!裏切る事は決してない…。命を賭けたっていい」


 追放された身にとって、言葉の信憑性が少なくとも効果を持つものだと信じたい。

【白銀王】という言葉に状況を打破するだけの力はあるはずだ。

 藁にもすがる思いで発した言葉には、真実もあれば思い出したくもない記憶も蘇る。


「命…ねぇ」


 茶髪の少女が振り向きざまに、その弩弓を俺に突き付けた。華奢な体躯には似つかわしくない、ずしりと重みを感じる武器を、左腕で軽々と扱っている。

 近くで見ると、彼女が装着しているのは腕甲ではなく、義手だった。

 まるで過去を語る証のように。


 気怠げで、死んだ魚のように鈍かった瞳が、今や鋭く光り、獲物を狙う狩人のように深々と突き刺さって来る。

 瞳の奥には、冷酷で静かな怒りを宿していた。


「少しは信用…しようかと思ったけど、簡単に命を賭けるだなんて言う奴は信用できないね」


 彼女の言葉が冷たく、一瞬で空気が張り詰めてしまった。

 まずい、確実に俺は彼女の地雷を踏み抜いてしまった。

 向けられた殺意は、じわじわと燃え盛る炎のように迫って来るようだ。

 とても少女がするような目付きじゃない…!

 地獄でも見て来たような殺意の塊だ。


「冒険者の世界で、騙されて殺されたなんて話はよくある。確かに、騙される奴が悪い」


 少女は冷淡に続け、弩級の矢先がじわじわと俺の顔に近付く。


「昔、あたしも騙されて左腕を失ったから、あんたの言い分も理解できない訳じゃない。記憶が確かなら、白銀王はたった一人を最近、追放している。それはあんただろ?追放されているなら、憎むのが当然だ。助かりたい一心で命を賭けるなんて口にしたのなら…」


 少女の声は静かに、しかし確実に冷徹さを増していく。


「今ここで、あたしが殺してやる…」


 彼女の言いたいことは理解できた。

 追放されて憎しみを抱くのは当然だ。

 しかし、ここで引くわけにはいかない。

 絶対に引けないんだ。


「俺だって最初は憎んださ。追放されたことに納得など出来なかった。でもな、次々に襲いかる現実に心は折れそうになった…」


 リルアにラクネア。

 今でも彼女たちは、俺の目指す場所にいる。


「強くなるために鍛錬を積んで、色んなことに触れる中で…」


 思いを込めて少女に向かって言葉を放つ。


「何も知らなかった…知ろうともしなかった…!強い奴らに囲まれて、自分も強いと勘違いして、あいつらに甘え続けていたんだ」


 その言葉は、俺の胸の内に秘めていた感情を解き放っていた。

 続けざまに語る。


「俺自身が強くならなきゃ、何の意味もないんだ。追放されても、あいつらは俺の憧れで、見返す目標で…最高の仲間たちだ!命を賭けられる存在なんだッ!」


 全てを吐き出し、心の奥をさらけ出した。


「騙すつもりはない…。だが信用してくれないなら、ここで殺せ…!」


 俺は目の前に迫る矢先に、思わず顔を寄せた。

 自分に言い聞かせるように続ける。


「撃たないと思ってる?」


 言いたいことは全て言った。

 これで死ぬのなら仕方がないと、心のどこかで覚悟を決めていた。

 油断していた自分が悪い。


 リルアやラクネアには、馬鹿にされるだろうな。


「はぁ…分かったよ、信じるよ」

「ほんとか!?」


 少女は呆れていた様子だが、喜びのあまり顔を近付けると再び、矢先を近付けられる。


「やっぱり撃とうかなぁ」

「待て待て!信じてくれたから喜びを隠せなかっただけだ」

「あたしは信じる事にしたけど、まだ不安?」


 茶髪の少女は再び、気怠げな表情に戻ると、黒髪の少女は不安を隠せない様子だったが、頷きつつ「貴方を信じます」


 と言ってくれた。


 縄を解いてもらい、名乗った。


「俺はレヴィンだ。助かった」


 腕の感覚を確かめていると、少女達も名乗った。


「私はファルと申します…」


 黒髪の少女は深々と頭を下げた。

 丁寧だが、まだ不安気だ。


「あたしは、ティルゼ・ハルゼクラ」


 茶髪の少女は気怠げな表情を向けながら、親指を立てる。


 追跡者を撒くためには、予測不能な動きが必要になるな。

 錯乱用の道具は持ち合わせているし、2人くらいなら撒けるだろう。


 俺が提案するのは逃走。


 しかし、2人は全く逆だった。


 ーーーー


「迎え撃つ…だと?」


 レヴィンは思わず眉をひそめた。

 頭の中では、完全に逃げ切るつもりで立てた計画が揺らいでいる。

 迎え撃つという考えは、予想を超えた挑戦だった。


「追跡者の実力が分かって言ってるんだよな?」


 彼の警戒心は、追跡者がブラック・ブラックの一派であると確信しているからに他ならない。

 選りすぐりの手練れである可能性が高く、軽率な行動が致命的な結果になりかねない。

 目の前にいる駆け出しの冒険者二人とでは、あまりにも力の差が歴然としている気がした。


「あんたの実力が分かんないけどさぁ…。何とかなるんじゃない?」


 ティルゼは気怠げな様子で、どこか余裕を漂わせていた。

 その態度からは、自信が漲っているように見える。


「盗賊ギルドに負けるタマじゃないって。ね?ファルちゃん」


 ファルは少し躊躇いながらも、彼女の言葉に微かに頷く。


「どうでしょうか…」


 レヴィンは深い思索に沈んでいた。

 二人の実力を知らない以上、迎え撃つのは賭けだと言わざるを得ない。

 直感が研ぎ澄まされ、ラクネアとの鍛錬で培った感覚が二人を分析し始めた。


 ティルゼはその華奢な体躯からは想像し難いほど、弩級を軽やかに扱っている。

 その動きは、確かなる反応速度を示唆していた。


 そしてファル。

 マントの中には剣が隠されており、魔力感知を駆使して追跡者の動向を捉える力もあり、魔力の扱いにも秀でているはずだ。

 どことなく強者の風格が感じられ、冷静さが伺えた。


 レヴィンの心が一瞬、疑念で揺れた。

「本当にこの二人が頼れるのか?」

 と。


 しかし、感は彼らを強者として位置付けている。それでも、具体的な戦力差や経験値、そして何よりも心の内が見えない以上、あくまで直感に過ぎない。

 一筋の光明ではあるが、心に灯った小さな希望に賭けるか、あるいは安全な道を選ぶか。

 決断の時は、刻一刻と迫っている。


 危険な賭けではあるが。


「あんたらが俺を信じてくれたように、俺もあんたらの実力を信じる。だが、出来る限りの作戦は詰めよう」


 レヴィンは【信じる】事にした。

 迎え撃つ以上、背中を預ける事になる。


 ならば出来る限りの事をするしかない。

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