EPISODE20、新たな冒険へ
リルアたちの元で鍛錬を積み続け、早くも二ヶ月が経過した。
俺の日々は、戦いの緊張感と成長の感触に包まれている。
「もっと感覚を澄ませてください」
緊迫した訓練の場で、ラクネアの声は冷静だ。
全身の神経を引き締めた。
ラクネアの木剣を受け止める打撃音と空気を裂く音が耳に入る。
俺の視界からラクネアが消え失せ、一瞬、辺りが静まり返り心臓の鼓動だけが響く。
横か?いや…後ろだ!
瞬時に反応し、短剣を振り抜くが、空気を裂く虚しい感触。
木剣が空を切る感触が伝わって来る。
反応が遅れた!
次の瞬間、木剣が無情にも背中に命中し、強烈な衝撃が体を貫いた。
息が詰まり、まるで心臓が止まったかのような感覚だった。
打ち上げられ、思わず目を瞑るが、頭の中を切り替えながら急いで体をひねり、手を使って着地の体勢を整える着地した。
今の俺は、ラクネアと同じように白い仮面を装着している。
視界は狭まり、自分の手元すら見えない状態だ。しかし、この状況は逆に俺の成長を証明していた。
相手の動きを、緊張した空気や微細な揺れを通じて把握し、それに反応する。「感覚」が研ぎ澄まされているのだ。あの頃よりもずっと強く、敏捷だと実感できる。
以前には考えもしなかった戦闘スタイルが確率され、ガントレットには魔力石を嵌め込み、肘関節部分には魔力糸を仕込む。
この魔力糸は、戦術的な柔軟性もあり、攻防一体になる。
双剣を持つことで手数も格段に増え、戦闘における選択肢が広がった。
残された課題は、感覚醒を完全に使いこなすことだけだ。
意を決して左手の短剣を逆手に持ち、心を集中させる。
そして、声を張り上げた。
「火玉ッ!」
赤い魔力石の魔力を引き出し、灼熱の弾丸となり、ラクネアに向けて放ち距離を詰めるために踏み出した。
これで終わらない。
隙を突こうと、腕部から射出した魔力糸で足を狙い体勢を崩させる。
普通なら、彼女は横に飛び退くはずだが、ラクネアは打ち返して来るはずだ。
予想通り片足を踏み出し、逆にこちらへ打ち返してきた。
冷静過ぎる判断力、研ぎ澄まされた反応に、心の奥底から恐怖が湧き上がる。
「ここだ!」
右手の短剣を全力で投擲する。
しかし、その瞬間ラクネアの姿が再び消え失せてしまった。
瞬時に空間から消えているようだ。
焦りと緊張が同時に押し寄せ、呼吸が速まる。
集中しろ…!
呼吸を止め、無駄な思考を排除する。
焦りを心の中を静めて集中状態に入った。
その瞬間、周囲の音が消え、世界が一瞬静止したかのように感じる。
【感覚覚醒】で木剣の位置を探るために、全力で感覚を研ぎ澄ます。
背後から迫る圧力。
冷たく鋭い気配が背中を撫で、その瞬間、回り込まれていると悟った。
心臓が激しく鼓動し、思考が鋭利な刃となる。緊迫した状況の中、白の魔力石の魔力を引き出し、右腕に魔力を纏った。
「魔力技、衝撃ッ!!」
白の魔力石は、魔力技や魔力を武器に纏わせるためのものだ。
簡単な魔力技は扱えるようになり、武器に魔力を纏わせたり、防御力を向上させたり、多彩な用途がある。
衝撃は教えてもらった魔力技の中で使い勝手がよく、得意とする技の一つ。
直感を信じて振り抜くと、その動きは空を切る音だけを残した。
体1つ分くらいの範囲はある衝撃波のはずだ。
背後からの圧はフェイクだったのか!?
素早く反応し、回避しようとした瞬間、予測を超える速さで木剣が俺の頭に叩き込まれた。
「いてて……!」
仮面を外し、視界が開ける。そこで目に飛び込んできたのは、木剣を突きつけるラクネアだ。
「詰めが甘いですね。」
その声色には、少しの余裕と優雅さすら感じられるが、俺は心の底で悔しさが渦巻いた。
「今度こそいけたと思ったんだけどな……」
到底敵わない。
強くなったという自負はあるものの、リルアとラクネアの【遊び】を目の当たりにし、抱いていた理想が遥か遠くにあることを思い知らされた。
「ラクネア、だいぶ形になったんじゃない?」
その瞬間、欠伸をしながら登場したリルアが無邪気に近づいてくる。
まるでまどろみから覚めたばかりの小動物のように見えた。
「これなら問題はないでしょう。」
ラクネアは、どこか満足げに口をほころばせる。
「何の話なんだ?」
リルアが俺の隣にさっと座り落ち着く。
「ちょっと聞いて欲しいんだけど、今の自分がどこまで出来るか試してみない?」
時折見せる真剣な眼差しだ。
「試す?」
意表を突かれたように反応する。
「そっ。自分で仲間を見つけて、冒険してみたらどうかなって思ってさ」
「厄介払いか……」
俺が溜め息を零すと、リルアは優しく首を横に振った。
「違うよ〜。世界を知るなら自分の力でってことだよ」
その言葉に、心の中で笑いが込み上げた。
「そうか……そうだよな…は。」
急に現実を思い返した。
大事なことを忘れていた気がする。
「そんな可笑しかった?」
リルアは少し困惑した様子を見せた。
「いや、俺はまだ甘えてた。これから先、お前らが居たら、どんな敵でも怖くないって思ってた。でも、それじゃあギルドに居た時と変わらないし、強くなる意味がねぇ…」
同じ轍は踏まないと心に決めた。
「冒険…出るぞ。今度は自分の力でな!」
ーーそう、俺は心に誓った。
决意を胸に秘めながら、情熱と不安が織り交ざった感情が、胸の奥で渦巻いていた。
「寂しくなるね」
と、リルアがふと思いついたように呟く。
瞳はどこか寂しげに見えたが、その顔には微かな笑みも浮かんでいた。
「とか言って、本当は寂しくないんだろ?」
冗談のつもりで言ったはずなのに、俺の言葉は思わぬ反応を引き出してしまった。
「お、おい。冗談だよな…?」
不安になり、視線を追いかける。
すると、リルアはあからさまに目を逸らしてしまった。
「もちろん!」
彼女の声は明るいが、どこかぎこちない。余計に疑念が深まる。
ダメだ……この屈託のない笑顔が、逆に信用できないものに思えた。
「ラクネアも、ありがとな」
俺は心から感謝の言葉を述べて、彼女に向けて微笑んだ。
「私は主の命ですので」
相変わらずの淡々とした口調で、ラクネアはすぐに答えた。
彼女の反応は、いつもどおりといえばそうだが、その中には微かな温もりを感じる。
「私は寂しいだとかは思っていませんよ」
ラクネアの言葉に、
「それはそれで、心に来るものがあるんだが…」
と言葉を返すが、どうしても感情が表に出てしまった。
「自分の足で前に進める事が出来ると思っていましたので」
その言葉を聞いた瞬間、俺は思わず嬉しさのあまり顔が緩む。
「もっと強くなって、絶対驚かせるからな!」
自分でも驚くほどに力強い声で宣言した。
「楽しみにしてる〜」
リルアの返事はどこか柔らかく、そして温かい。そしてその言葉には、彼女特有の無邪気さが漂っていた。
こうして、新たな冒険へと踏み出す希望は、俺の心に確かな光を灯した。
目の前に広がる未知の世界には、無限の可能性が待ち受けている。
自分の力で仲間を得て、困難を乗り越え、成長していく姿を想像すると心が弾む。




