EPISODE17、断じて
「世界を滅ぼす仮面か…」
伝説上の代物。
存在していると言われても信じ難い。
話すこと話すこと冗談混じりのリルアの声がいつもより落ち着いていた事を考えるとその言葉は嘘ではないのだろう。
夕食はまだだろうか。
そう考えていると、ラクネアが大量の料理を運んで来た。
いつにも増して量が多い…。
「お待たせしました。たまには豪勢に振る舞うのもよろしいかと」
ラクネアは少し上機嫌な様子で、食卓に料理を並べていく。
肉料理に魚料理。
そして、てんこ盛りの野菜。
「こんなに食えるのか?」
人よりは大食いだと自負しているが、流石に食卓に収まりきらないほどの料理を食せる自信はない。
「いっただきまーす!」
リルアは手を合わせた後、料理を口に運ぶと、皿ごと持ち上げてあっという間に平らげる。
完全に飲み込まないまま、次の料理に手を付け、同じようにかきこんでいる。
見ているだけで腹がいっぱいになりそうだ。
というか、よく噛んで食えよ…。
味が分からないだろうが。
そんなリルアを横目に俺も料理に手を付け、ラクネアの料理を堪能する。
美味い…。これに尽きる。
高級レストランのシェフより腕が良い。
古巣に居た時は、高難易度の依頼が終わる度に足を運んでいたから生意気にも舌だけは肥える一方で値段も高かった。
それがタダで食べられるのだから、ラクネアの作る三食はお得に感じる。
そんなことを考えていると、気付いた時には料理が全て平らげられていた。
「お前…!」
どんな胃袋してるんだよ…。
少し考え事してただけで料理が空だ。
俺は残された一品を味わいながら腹を満たす。
後片付けを終えた後、俺はラクネアのベッドの下に潜り込んでいた。
最大限に息を殺し、時を待つ。
入浴中の襲撃は失敗したが、寝る時は誰だって無防備になるはずだ。
また冷静になった俺は、これも変質者と言われても仕方がない行為だということに気付く。
女性が寝静まるまで時を待つ…?
夜中に息を潜め、女性を襲う変質者のようだ。
これも鍛錬の内だと言い聞かせるしかない。
上手くいく保証はないが、入浴中よりはマシだろう。
言い訳を並べて息を殺していると、扉の開く音がする。
来た…。
足元を確認すると、ラクネアで間違いない。
気配を完全に絶つ。
絶ったつもりだった。
布の擦れる音。
着替えだ…。
着替え中に襲うのは気が引ける。
だが、無防備だ。
絶好のチャンスには違いない。
これは鍛錬なんだ。
やましい気持ちはない。
俺は覚悟を決めて、ベッドから飛び出すとラクネアと視線が合ってしまう。
「あ…」
しかも木剣を手に待ち構えている。
「気配を完全に絶ったつもりでしょうが、何を期待していたのですか?」
バレていた。
俺の顔は真っ赤に染まっていて、恥ずかしさが込み上げて来る。
「べ、別に期待してねぇよ…!」
これは鍛錬だ。
ラクネアを仕留める為の鍛錬なんだ。
あわよくば生着替えの最中を拝めるなんて思ってもいない。断じて。
「これは鍛錬なので、反撃させていただきます」
ラクネアの容赦のない木剣の嵐。
いつもより痛く感じる。
全身の骨に響き渡るみたいだ。
俺は壁を突き破りすぐに意識を失い、全身の痛みよりもまた、心に深くダメージを負った。
書いてると楽しいけど、書き終えてみると厚みがないとションボリする…。