プロローグ。
「行くぞッ!」
ここは魔王城。
数多の冒険者が命を落としてきた。
俺は歴戦の仲間達と共に、到達不可能と言われた魔王の間へと到達していた。
魔王を守る四天王達は、まさに最後の戦いに相応しい実力を誇り、仲間達の強力な魔法を前にしても圧倒する。
「ダメ…このままじゃ」
「ここまで来て…勝てないのか!」
仲間達は、半ば諦めている。
当然だ。
今までの相手とは訳が違う。
だがここまで来て、今更引けない。
冒険者として、世界に平和をもたらすために…。
今、ここにいる。
「後は任せろ!俺が倒してみせる!」
俺は仲間達の前に立つと、四天王達は嘲笑してくる。
「たった一人で我らに勝とうだと?」
「ほざけ!」
そんな嘲笑をものともせず、俺は言い放つ。
「よく言うよな?弱い犬ほどよく吠えるってよ」
逆に挑発してみせる。
激情に駆られた四天王。
しかし、俺の放つ魔法は最強。
四天王程度じゃ相手にならない。
「馬鹿なぁ!」
「人間にぃ…!!」
あっさりと四天王を倒した先に、玉座にふんぞり返るのは筋骨隆々の魔王。
「四天王を破るとはな。名を聞こう」
俺はにぃっと口角を上げて言い放つ。
「俺の名前は、レヴィン!お前を倒す者の名だぁぁぁぁ!!」
俺と魔王の世界の命運を分けた戦いが今始まる。
ーーー
「んが…」
俺は反転した視界の中で目を覚ます。
「また居眠りかい?」
優しく語り掛けられた声に飛び上がる。
「げ…リーダー」
辺りを見回すと冒険者達が集う酒場で、俺は眠りこけていたらしい。
待てよ?
そんな事よりも重大な事を思い出し口を抑えていた。
魔王を倒す夢なんか見てたよな?
何か口走ってないよな?
ただ眠りこけてただけだよな?
他の仲間達に恐る恐る目を向けると、白髪で気だるそうな女が視界に入る。
魔法使いのイリーネだ。
すると、ニタリと口角を上げて厭らしい目を向けて来た。
「四天王とか…魔王とか言ってたけど…さぞ夢の中でご活躍だったみたいねぇ」
「だぁぁぁぁ!!やめろ!!言うんじゃねえっ!」
俺が口を塞ぎに掛かると筋骨隆々の男に首を絞められる。
「大事な作戦会議だってのに、居眠りしてる方が悪いだろ!」
戦士のルゴが落としに掛かって来る。
「締まってる…!締まってるって!離せ!!」
俺は腕を叩き降参すると腕が緩み床に落下する。
「作戦会議中だって言ってるじゃないか」
そして、リーダーのカルヤが溜息を零す。
俺が所属している冒険者ギルド白銀王は、魔王軍戦力と渡り合うほどの実力者ばかりだ。
運良く…、いや俺は実力でこのギルドに認められ、リーダーが直接率いるパーティーにいる。
作戦会議中に居眠りするなんて醜態は、普段は絶対にしない。
「このポンコツ、レヴィンのせいで話が逸れたけど結局どうするの?」
イリーネが俺を嘲笑う。
ポンコツだと?
この女、後で絶対分からせてやる。
俺が本気になれば、数秒もあれば地面に這いつくばせる事も簡単だからな。
「そうそうポンコツ、レヴィンのせいで逸れたけどな」
俺の頭を叩きながら、ルゴまで馬鹿にして来る。
「ポンコツ、ポンコツ言い過ぎだ!!俺がどれほど貢献して来たと思ってんだ!」
「何を貢献したのよ?」
「罠解除とか囮とか…」
「あとは?」
「荷物運びに武器調達とか」
やってる事が地味過ぎる!
ほとんど雑用じゃないか!!
いや、戦闘をする上で大切なお膳立てをしてやってるんだ。
感謝されて当然だろ。
「そんなの只の雑用じゃない。誰でも出来るわよ」
言われてしまった。
「罠解除は誰でも出来ねぇだろ!」
自身を弁解するが虚しい気持ちしか残らない。
「この際だからはっきり言うけど、あんた足手まといって分かってる?」
俺は口をパクパクさせて言葉を詰まらせてしまう。
「それは…」
言葉の続きが出てこない。
こいつらが強過ぎて、俺が出るまでもなく、戦闘はいつも終わってしまう。
「皆、私らと一緒にいるから言わないだけで、そう思ってるわよ」
イリーネに突きつけられた言葉に腹を立てた俺は殴り掛かろうとするが、ルゴに阻止され逆に殴り飛ばされていた。
「事実だろうが。言い返せないからって手を挙げるとはどこまでだせぇんだよ」
ルゴの容赦の無い拳に立つのがやっとだ。
「リーダーは…違うよな?俺が必要だから…だよな?」
すると、リーダーから返って来た言葉は、俺が聞きたくない言葉だった。
「正直、君が居なくても大丈夫なんだよね。これから魔王軍領に攻め入るのに、足手まといを庇って戦えるほど余裕はない」
俺は言い返そうとしたが、必要ないと言われてしまった手前、何も言い返せない。
「俺は…ギルドにとって必要じゃないのかよ…」
「そうなるね」
はっきりと答えられてしまう。
「前から言おうと思ってたけど君を追放する。もう関わらないでくれ」
「なんだよ…それ」
俺は唐突に【追放】を受けてしまった。