剣闘士の町マスルリア2.
「親父の手甲……」
まずは魔石の着いてる方だ。指の付け根の所に魔石を嵌めることができるようだ。今は人差し指の所に赤い魔石、中指の所に青い魔石は中指の所にハマっている。あとは小さな魔石を集めた魔石が3つ。
「ん、なんだ。魔手甲か?」
「魔手甲?」
「あぁ、魔石の力を借りて、魔法使いみたく魔法だすって触れ込みの。ほれ」
ケンがこちらを覗きこんで言った。彼もおのれの左手を見せた。使い古された鋼の手甲だった。指を鳴らすと火が灯った。
「ボロいとか言うなよ。利き手は銃使ったりするから、つけねーけど、俺の場合は最強の魔法 一人百役があるからな。この中には、火を灯したり、出した分身体が使う武器や服が入ってる。いちいち召喚してたら面倒だからな。」
「なるほど、他にはどんな使い方ができるんだ!」
親父は使い方を教えてくれなかった。思った以上に色々なことが出来るかもしれない。
「ほれ」
ケンは手をだして、くいくいと動かす。
「?」
「一情報につき、一銀貨だ」
「高すぎんだろ!」
やっぱりこいつ嫌いだ。向こうでは、ポンさんとフィーが話し込んでいる。
「まずは武器の手入れを出来るようになりな」
「は、はい!師匠!」
フィーの気合いに少し面食らっていたが、それを気取られぬように。自分の予備の銃を一丁貸し与えた。
「赤鷲リボルバータイプだ。弾は6発。どこでも手に入りやすい40口径だが、最悪、火薬が手に入って筒に入っちまえば撃てる。町についたらちゃんと返せよ。今日はこいつの組み立て方、手入れの仕方を教える。移動中は反復して、練習しな」
「は、はい!」
「まずは名前を覚える、これはハンマー、ここがバレル、これはフロントサイト」
「は、はい、これがハンマーで」
フィーもメモを取りながら熱心に聞いているようだった。負けてらんないな。
「ケン!」
「あ?なんだよ」
「お前うちの刀返してないだろ!それ、小遣い全部はたいて買ったんだぞ!あんたらは依頼主から盗みをすんのかよ」
「あ、こらバカ!」
「おいおいケンどういうことだ?姐御に隠れてそんな事やってんのか」
普段はこの2人には序列のようなものは感じないが、ジャンさんの方がしっかりしてる歳上のようだった。怒ったときの迫力はすごい。
「や、やだなぁ、支払いを忘れていただけですよ。ジャンの兄貴ぃ、な、アルくーん幾らだったっけ」
すりよんな気持ち悪い。
「銀貨40枚」
「はぁ!高ぇよ!」
「ポンさんにバラしてもいいんだぜ」
「わかった!わかったよ!」
「毎度あり!んで、魔手甲のことなんだけどさ」
「あ、ずりーぞ」
ワイワイとしているうちに、その日の出発が遅れてしまった。
次の日、フィーは移動中はずっと銃を組み立て、崩し、組み立て、崩しをまじめに練習していた。スライムは大人しく、フィーの肩に乗ってその様子を見ていた。
おれも聞いた情報を元に魔手甲の使い方を研究してた。魔力を引き金に起動するみたいで、普段からつけていても問題はないみたいだった。魔力の感覚イマイチ分からねーんだよな。
左手は親父の魔力のおかげか、普通に起動した。起動した状態で、指を曲げたり伸ばしたりしてるうちに色々な道具が出てきた。トンカチ、ヤスリ、金槌、ノコギリ、ナイフ、缶切り、接着剤、キリ、ペンチ、カンナ、物差し、砥石などなど。どれも俺が使っていた道具だった。少しでも路銀の足しにしたくて、それで道具を作っていたら、ジャンさんに声をかけられた。
「アル。お前器用だな。これ直せるか」
なにやら古いランタンのようだった。
「明かりのつきがイマイチでよ。魔法でつけてもいいが、魔力つかってると困ることも多くてよ。」
「任せて下さい」
だが、ジャンさんはランタンを渡そうとしなかった。
「対価はなんだ」
「対価なんて」
「いや、アル。これからお前が生きていく世界では強かさが必要だ。労働には対価だ。対価をもらうことで責任を持つんだ。まぁ、つってもおれは金なんて大した量ないからな。あと、俺が出来ることっていったら、魔法だ。」
「え?」
「休憩ごとに魔法、魔力の使い方を教えてやる。」
「あ、ありがとうございます。」
「こちらこそだ。あんなに楽しそうな姐さんは久しぶりに見た。これでも感謝してるんだ」
向こうの方を眺めるとフィーの真剣な顔に満足そうなポンさんがいた。
「だいぶ早くなったな。だいぶ手に馴染んだろ今日はゴム弾を使って、狙いをつける練習だ」
「は、はい!師匠」
「止まってるものを狙うのは簡単だ。オーイ、ケンそこにフライパン持ってたて」
遠くで片付けをしていたケンを呼び止める。
「へ、へい?これでいいん」
ズドン
「ぬわあっ!」
「な!で、だ、フィー」
「な!じゃないですよ!フライパン、吹っ飛びましたよ」
遠くでケンが吠えている。
「戦いの時には、相手は動いてしまう」
ズドン、「ひ」バキュン「ひゃ」
「予想して撃つことが大切だ。」
「なるほど」
ズドン「うわっ」ダ、ダン「ぎゃ」カンッカンッ
「いま、みたいに相手の移動先に撃つことで移動を制限したりすることもできる。それらを実現するためにも命中精度は必要だ」
「やってみます」
「ちょ、待て!まさか姐御!そいつに撃たせるんじゃ」
おれはケンの悲鳴を背後に聞きながらランタンを預かり、修理に取り掛かる。
村を出て1週間。目的の町に着くことが出来た。
「ようやく着きましたね」
「ここがマスルリア。親父の仲間がいる場所」
「す、すごい」
巨大な城壁が町をグルりと取り囲んでいるようだった。
「ふぅ。久しぶりに酒が飲めるな」
「あ、ずりぃ」
「気ぃ抜くなよあんたたち!こっからが大変なんだから」
町へ入るにあたり、門番が出迎える。
「ようこそわが町へ。ここを入りたければ強さを示せ」