剣闘士の町マスルリア1
俺たちの住んでいる村から2方に道が伸びている。
その街道のうち一本を進んでいる。一行は森をぬけ、見晴らしのいい草原を走っていた。
旅の仲間は俺アルフォンスと、幼なじみのフィーネ、そして馬を操るララさんである。ララさんは甲冑は脱ぎ村娘の衣装を身にまとっている。金髪が太陽に晒されて美しい。綺麗なお姉さんだ。
「アルフォンス殿、そんなに見つめられると照れます」
片腕で、馬をあやつっている。彼女の右腕は事情があり、失っている。
「ララさん、そのアルフォンス殿ってやめませんか。俺たちは商人の家族って設定ですし」
「たしかに、そうですね。では、アルくん、そんなにこちらを見ないでいただけますか?さっきからフィーネさんの視線が痛いです。」
フィーネは黒髪の隙間からジトっとした目線をララさんに向けていた。
「おい、フィー。やめろって」
こちらを見る目もなにやら厳しい。
「べ、べつに。ララさんが羨ましいわけではないもん。おっぱいばかり見ていやらしい。アルのエッチ」
「ば、馬鹿言え!だれもそんなとこ見てないわ」
「ふ、ふーんだ。ば、馬車に揺れてる胸見て喜んでるなんて、さ、さいてー。あたしだって二三年したら、バインバインのボ、ぼいんぼいん、になるんだから」
「こ、困ります。そんな目で見ないでください」
耳を赤くして胸を隠そうとするララさん。いや、でも、押さえつけることによってさらに際立って
「……アルくん」
「……アル」
「ララさん!誤解だから!フィーも変なこと言うなよ!頼むから」
そんな子供たちの様子を見ていて、ため息をつく。馬車の左右と後方に馬を走らして、護衛についている冒険者たちがいた。互いに連絡をとる。
「なぁ、ポンの姐御。こんなゆるくて大丈夫なんですか?」
大柄の男が話しかける。背中には大きな魔法の杖を背負っている。連絡をとれているのは彼の魔法のおかげだ。
「知ったこっちゃないね。でも、仕方ねーだろ、ジャン。あの子らに命救われちまったんだ。文句言える立場じゃねーよ、あたしは。依頼料もあのオッサンからもらっちまったんだ。ま、町につくまでの辛抱さ。ついたら、おさらばさ。あと、ポンの姐御っていうな。何度も言うがポンって名前なんか抜けてて嫌なんだよ」
後ろを走っている長い赤髪を束ねた女が応じる。彼女の首元には大きな縫い傷があった。パンツルックで腰にはホルスターが2丁分ぶら下がり、背中にはライフルを斜めがけしている。
「姐さん!」
「何だい。ケン。」
「7時の方向から近づいてくる馬を確認。恐らく盗賊です。数は8」
「ったく、仕方ねーな。馬車はこのまま走らせな!ケン!ガキ共と並走。あのララって娘に状況伝えて、警戒態勢を取らせろ。子供らは姿勢を低くして、流れ弾に当たらないように。もしあたしらのどちらかがやられたら、全力で走らせな。」
「姐御!敵を視認!弓が5.杖が3。盗賊だ。」
「ジャン、行くよ。お前は足を止めな。」
「へい」
「あとはあたしが、全員狩る」
ホルスターから銃を抜き、目つき鋭くそう言った。
ケンは馬を走らせ、ララに話しかける。
「おい姉ちゃん、敵だ。大方、この荷馬車を狙ってんだろ。ガキどもは頭を下げな」
「馬を走らせますか」
「いや、姐さんたちが、対処してる。あまり走らせると馬が疲れちまうから、合図が出るまでは待て。
たぶん大丈夫だろ」
「あんたらは俺たちを敵に売ったりしないのな」
おれはあまりこいつらの事が好きでは無い。ララさんや俺たちを捕まえようとしたり、戦ったりしたからだ。
「あ?なんだ?俺たちはならず者ってわけじゃねーぞ。そこのねーちゃん襲ったのも、依頼があったからだ。今お前たちを守ってんのもな。お前の親父が依頼金払ってるからだよ」
「親父が……」
「私が言うのもですが、アルくん。こういう時は信頼関係が大事です。」
ララさんがこちらを見ていった。皆まで言ってないが、言いたいことはわかる。
「悪……かった、ごめんなさい」
「へっ。まぁ、お前のことは嫌いだが、お前の商品はすげぇよ。あとで仕掛けを教えてくれ。姐さんの役に立つ」
「……へ?あ、ああ」
「ふふ、どっちも素直じゃないですね。」
ララさんがクスリと笑った。しばらくたった後
「おーい、撃退したぞぉ!飯にしよぉ」
2人が帰ってきた。馬車を止めて、休憩することになった。
「ありがとうございました」
ララさんが水をついで男2人に振る舞う。
「いやぁ、あはは」
「デレデレすんなよジャン。当然のことしたまでだよ」
ララさんは二人と今後の道を検討するようだった。
「えっと、あの、ありがとう、ございます」
フィーも少し離れた位置に座るポン、さんに水を持っていく。
「ん、ありがとうよ、……なんだい?」
フィーはポンさんの銃をじっと見てる。
「あの、これって、」
「ん、なにさね?銃に興味あんのかい?おもちゃじゃないよ」
「……わ、わかってます。あの、すみません」
「?」
それから数日、そんな日々が繰り返され
「あぁ、もう、なんだい。言いたいことあるなら、はっきりいいな!」
「あの、えっと、その」
正直人見知りのフィーが知らない相手に話しかけるのも、珍しいことだったし。突き返されても、何か言おうとするのはよっぽどのことだ。村にいた時は俺が代弁することが多かった。しょぼんとした顔をするフィーを見かね。こちらに呼ぶ。
「ア、アル。」
「フィー、これからは村にいた時のように、俺がいつも近くにいるわけじゃない。」
「う、うん」
「でも、いつでも必ずお前を応援してる。だから、頑張れ」
「あ、アル。わかった。ありがとう」
スタスタとポンさんの近くに行き、大きく何回か深呼吸をした。
「な、なにさ」
「わ、わたしに!銃を!教えてください!!!」
「は?」
予想外だった。
「あっはははははは!!なにさ!あんた!それがいいたくて!ずっと!言い淀んでたのかい!あっはっは!!」
フィーが顔を真っ赤にしている。
あの野郎。フィーが勇気を持って、話したってのに。腕まくりをする俺の肩をジャンさんが止める。
「何すんだよジャンさん」
「姐御が爆笑してる。珍しいな。こりゃ。まぁ、見てな。お前もあの子を信頼してんだろ。信じて待つのも男だぜ」
「なぁ、フィーネ、とか言ったか?お前はなんで、銃が使いたい?こないだも言ったが銃はおもちゃじゃねーぞ」
「えっと、その、あの、えっと」
そうこうしてると、ケンの奴が、近づいていって、煽る。
「がっはっはっは!!ばーか!姐さんはな。ギルドでも数人しかいねぇ、腕利きのA級銃騎士なんだぜ。お前みたいなヒョロ腕のガキンチョなんかの相手なんかすっかよ。」
ズキュン。
ケンの頭の帽子が吹っ飛んだ。
「黙ってな。口挟むんじゃねーよ。女同士の会話だ。すっこんでろ」
「あ、あ、あ、」
フィーは今しがたの発砲音に目をぱちくりしていた。
「フィーネ。銃は玩具じゃねー。引き金引くだけで、下手すりゃ人が死ぬ。仲間を危険に晒すこともある。なんでお前は使いたい」
ゆっくりと少しずつ言葉を紡いでいく。
「わ、わたしも、戦う力がほしい。仲間を自分を守るための力がほしい。わたしたちを守ってくれたポンさんたちはあと数日でお別れしちゃう。だけど、わたしたちの旅はたぶん、しばらく続く。だから、アルやララさんに守られてるだけの自分じゃいやなの。早く、2人を守れるくらい強くなる!だから、お願いします!」
「……」
じっとフィーネの眼を見ていたポンさんはそのまま、こちらに話を振る。
「ジャン!目的の街まで何日かかる。」
ジャンさんは俺にウインクをした。
「あと、3日です!」
「休憩の回数と時間を増やせ。その分馬を走らせる。ララ。それでいいか」
「アルくんたちが良いなら」
フィーネの真剣な横顔を見る。こいつのこんな顔初めて見たな。
「もちろん構わない」
「はっ!決まりだ!フィーネ!あたしが教えるんだ!泣き言言ったら許さねーからな!あと、あたしのことは、師匠と呼びな」
「は、はい!ポ、、、師匠!!!」
ケンは驚いた顔をしていたし、ジャンさんはウンウンとうなづいていた。
嬉しげなフィーネの顔を見て、俺も考える。両手の親父の手甲を見て。