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馬車に揺られる中、アルフォンスは自分の中に違和感を感じた。
急激な眠気を感じ、そのまま意識を失ってしまった。
「小僧、目を覚ませ」
声をかけられ、目を開けると、目の前にドラゴンがいた。
「お前、グラドか?」
「姫の身が危ない。なんとかしろ」
「そうは言っても、馬車で最速で飛ばしているんだ。これ以上のスピードは出ねーよ」
「貴様が、もっと我の力を引き出せていたら、空を飛べたのに、」
「そんなことできるのか、なら、やってくれ」
「辞めといたほうがいいぞ」
「だれだ、ってあんたさっきの!どうしてここに」
「まぁ、まぁ、お前のスライムに食われたんだ。仲良くやろう。もはや、敵意なんてねーよ」
先程の妨害してきた冒険者だ。
「おれはローゼ。これ以上魔人化を繰り返せば、自我を失うぞ」
「自我を、失う??」
「ちっ」
「あぁ、俺をやった時、半身がほぼ魔人化してた。つまりは、もうお前の体の半分近くは、その龍が主導権を握ってんのさ。あと、もうすこしの解放で、お前とその龍の立場は逆転する」
「おいおい、ぽっと出の分際で何を適当なことを」
「さっきの魔人化。坊主。てめぇの感情のぶれもあるかも知れないが、想定以上身体が魔人化してだろ」
「たしかに」
腕だけを使うつもりが、半身が暴食竜となっていた。
「勝てたか。腕だけの力で。こいつは、強かったぞ。」
「あぁ、そうだ。俺は強い。あのコロシアムの町で竜の称号を得るくらいには強いさ。まぁ、カリカリすんなよ。暴食の魔竜。あんたは姫さんを助けたいんだろ?おれはむしろ、あんたらの協力者さ」
「協力者?」
「あぁ」
彼はアルフォンスの魔手甲を見た。
「その家紋。いや、マークに縁があってな。勇者の、仲間に……あぁー。助けられたことがあるのさ」
「なる、ほど」
「お前の記憶を覗かせてもらった。暴食龍、デュラハンの剣技、コロシアムの体術、暴食龍の胃袋にあった様々な魔物の残骸、お前の創作意欲と刀鍛冶の里の技術。全てを繋いで消化し昇華してやる。お前はひとつひとつを懸命に磨いてきたようだが、個々にバラバラな力として使ってんのさ。だから、強さにムラがあんのよ」
「どうして、いや、どうやって。」
「コロシアムの体術に剣技を加えれば、威力は高まるし。その辺の《最適化》は俺の得意とするところさ。なにせ、俺はこの力で魔王と。いや、時間が無いんだったな。お前の学んだ全てをひとつにする。デュラハンの足運びの際に、マジックブーストをかけて、つま先に魔力を集中しながら地面を蹴ってみな」
訝しげながらもやってみる、と。
「うわぁ!」
その場ですっ転んでしまった。だけど、
「ものすごく跳んだな」
暴食龍は面白なげに評価。
「上手くコツを掴めよ。少年。ここは精神世界。ある程度融通はきく。お前が1人じゃなくて、2人いて、それぞれが修行できたら、どうする?」
「それはすごいことだけど」
「そうさ。半身がスライムになりかけのお前なら、イメージできるんじゃないか?自分を増やすイメージだ。」
次々とアイデアを出す男。暴食龍は複雑な気持ちでそいつを見ていた。魔王を次々と倒していって人類の英雄になった男。自分と相打ちになったこの男。この場にいるということは、そういうことなんだろう。こいつは人間の姿をしてはいるが、かなり魔物に近づいている。
「おい、ゆう……」
言いかけた言葉を奴は制しし、にやりと笑って、自分の足を指さす。さらさらと、足先が砂のように崩れていっていた。
「わずかな時間、付き合ってもらうぜ。あんたらには、静かに暮らしてほしかった。その想いは変わらない。だから、おれの分身にかける。」
この言葉は暴食龍の頭に響いた。アルフォンスには聞こえていない。
「なるほど、そういうことか。」
奴のない片腕。スライムによる分身体。記憶を失った勇者。アルフォンスの本体は。
「これ以上の推察は野暮か」
「失敗は出来ない。もう、俺様には後がないんだ!!」
屋敷での戦闘は壮絶を極めていた。飛び散る骨。散った無数の骨がさらに攻撃を仕掛けてくるしまつ。
「なんで、あちらが、焦ってるのでしょうか。焦りたいのはこっちなんですよ」
「100パーセントが打てない、な☆ララどうにかならないか」
防御に魔力を回している分、マズルはイライラしていた。
「なんで、この骨の礫をよけれてるんですか。変態ですか」
呆れながらも、同意した。ララも魔力で鎧を強化していたが、このままでは、無駄な時間が経過してしまう。
「マズルさん。賭けに出ます」
「お!秘策かい☆」
「いきます」
義手の各所に散りばめた魔石を核にして、魔力を練り上げる。さらに練り上げた魔力を大剣に纏わせる。
「突撃槍!!改!!」
そのまま大剣をぶん投げる。
「おらあああああ!!」「力技かい?!」
「なに!!くそっがあああああ!!」
瞬時に骨を集結させ、防ごうとするが、威力が高く、次々と骨の壁を突破していく。
「お情けでナルシ家に入った下女の分際で!!舐めるなぁ!!」
骨の壁を何重にも重ね、クッションのようにして、衝撃を殺す。
大剣はフォースの目の前の最後の骨の壁を前に、地に落ちる。
「はっ!所詮下女!」
「女性に向かってその言い方は失礼だ。……彼女はすごいぞ!!君の一瞬の隙を作ったのさ!!!」
その声はすぐ目の前、骨の壁1枚隔てたところから、聞こえたのだ。
「剣闘士の拳!!」
轟音と共に解放された魔力が四男を襲う。
「くそっ、がぁ!!」
身体をねじり、直撃をかわそうとする。衝撃が来る右半身に骨の鎧を集中させる。これなら、致命傷にはならない。ここさえ乗り越えればやつらは、魔力切れを起こすだろう。
「俺様の、勝ち……」
その首筋には、黒塗りの刃。
「ナルシ流暗殺術。朧突き」
音に紛れ、ララは距離を詰めていたのだ。鮮血が飛び散る。
「かひゅ」
「あなたたちの元メイドより、伝言です。『クソ喰らえ』」
「か、かは、ばかに、する、な、」
「ララ!離れろ!!」
取り出した瓶を一気に飲み干す。
「ナル、シ家に失、敗は、ない。『餓者餓者髑髏』」
全身を食い破るかのように、骨が溢れ出す。
「マズルさん!」「ララ!」
2人が同時に叫ぶが、骨が触れ合う音に、かき消されてしまった。




