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薄暗い書斎で、黒板に何やら書き込む初老の男
「……懸案事項のひとつが消えたか。我が弟ながら最後まで手をやかせてからに。」
黒板にあった名前をひとつ消す。そこには、消された名前が他にもびっしりと書き込まれていた。
「王国騎士の何人かは気づき始めている。やはり動きが大きくなってくると、ブレが生じてしまうな」
「息子たちの首尾は?」
「上々でございます。旦那様」
物陰から声がする。
「各地の娘たちに暴動を起こすように指示を」
「はっ」
「15年。15年か。お前たちの身体は十分に役に立った。」
並んだフラスコに語りかける。フラスコの数は6本。中には、何かの肉片が入っており、その肉片は脈打っていた。
「怠惰、色欲、傲慢、暴食、嫉妬、憤怒、強欲。魔王どもが居なくなっても、争いが続く。人間こそが業が深いのではなかろうか」
「タンザ様が動かれました。」
「うむ。そうか……出立の準備を」
「はっ!」
気配なき気配が消え、1人窓を見る。王都の町並みの明るさが、空虚なものに思えた。
「弟よ、お前は無駄死にし、私は王になる。私は今宵王になるぞ」
ナルシ家別荘に侵入したもの。王国騎士たちは、マスルリアのコロシアムを観戦していたものだった。ララの所属していた騎士団の団員たちは、彼女の突飛な行動の真相を探り、調査していた。コロシアムをあとにした時に、ララとマズルが町を出るのを目撃。追跡していったところ、この屋敷にたどり着いたのだ。
「屋敷地下に巨大な空間。道中にアンデッドの群れ!多数!団長!撤退しましょう!」
「ここで逃げ出したら、王国騎士の名折れ!ようやく見つけたナルシ家の証拠!ララは嵌められた。奴らは王家に仇なすものだ。このまま追撃する」
「せめて、応援を呼びましょう。僕らで手に負えるレベルでは」
「だからこそだ。ほかの騎士団でも、ここまでたどり着ける訳では無い。むしろ、ナルシ家に盾つこうという気概をもったものは現在いない。体勢を立て直してるうちに証拠はすべて消されているだろうよ」
騎士団長は苦々しく言った。
「ララとマズル氏に追いつき、彼女らを援護しろ。」
「く」
「おいおい。ララよ。でかい口叩いてた割には、手こずっているようだね☆」
アンデッドの兵たちを砕きながら、マズルはウィンクをした。
「この狭い通路では大剣は不利、なんですよ。貴方がいるせいで、思いっきり剣を振り回せませんし」
「おいおいおい、僕のせいかい?思いっきり振れば良いじゃないか。僕はコロシアムで長い間戦ってたんだぞ。混戦は得意だ、よ☆って、おい!危ないだろ」
「なら、問題はないですよね。」
大剣を振り回し、衝撃波を放つ。アンデッドを薙ぎ払っていく。
「君は口調は、穏やかだけど、やることは過激だな」
「フィーネさんやアルフォンスくんを散々いじめてたのはどっちですか。」
「……ああそういう。あんたも戦える人間なら、甘やかしが強さに繋がらないのは、分かってるだろ?」
「それとこれとは」
狭い通路を抜けると広い空間にでた。大理石で作られた広場は、美しく。アンデッドの兵たちはその中心部から現れているようだった。ララは大剣を振るうとアンデッドたちは、散り散りになり、発生源が現れる。
「……悪趣味な鎧ですね。フォース=ナルシ。フィーネさんはどこですか」
鎧から溢れ出てたアンデッドたちが止まった。立ち上がるのは、鎧を身につけたナルシ家の四男。
「ララ。お前の顔も見飽きた。魔王の娘は兄さんが連れ帰った。俺様は知らない。俺様は邪魔者をひたすら排除するのみ」
手をかざすと、骨で出来た大剣が組み上がる。
「マーズルーパーンチ!!いってぇ!!」
マズルの拳を大剣で受け止める。受け止めた箇所の骨が砕け、マズルの腕に突き刺さる。
「貴様も居たか。剣闘士。お気に入りを壊されて腹が立ってたんだ。ララもろとも捻り潰す」
「あんただな。僕の記念すべき大会に水を差した野郎は。あのデュラハンは強かったよ。だけど、僕の方が、もっと強い。」
「転送まであと5分ほどかしら。兄さんたち。一応渡しておくわ」
「what?」「調整は終わったのかい?」
「さっき、フォースも服用したわ。魔法薬【魔王凱旋】。持続力も副作用もクリアしたわ。兄さんたちの実験の成果。ただ、人間には、複数の種類の薬は強すぎるから、気をつけてね。最低30分は間をあけること。私たち勇者の血縁だから、自我を保てるけど、実験体たちは自我を失ってたから」
「ああ気をつけよう。my sister」
「この魔法薬が。今までの我々の任務の集大成。勇者がなし得なかった。魔王根絶の足がかり。我々が勇者と呼ばれるための……」
「ね、ねぇ、あなたたち。それ、どうやって作ったの」
拘束されていたフィーネが問う。彼女の目には、その魔法薬が禍々しいオーラを纏っていたのが写っていた。
「どう、って。ひたすら、実験に解析、色々したわ魔物も、神器も魔法具も、全て解体し、切り刻み、色々よ」
「ま、魔物たちだって生きてるのよ!!」
彼女の目には涙が溜まっていた。だが、そこにいたナルシ家の面々は心動かされることなく言った。
「なんなら、あんたをバラしてみたかったのだけど、お父様はあなたを完品でご所望みたいだから。」
「魔物たちは悪だ。生きる価値もない」
「違う!そんなことは。」
「うるさいわね。ねぇ、お兄様たち。これ、すこし、削いでもいいかしら」
彼女は冷酷にそういいはなった