15
マズルとデュラハンの決着を見届け。
アルフォンスは貴賓席を見渡す。
ナルシ・フォースはスライムによって拘束されていた。デュラハンが、暴食龍の爪で貫かれた後、いくつかの魔法を放って来たが、全てスライムの身体に飲み込まれてしまい、吊し上げられていた。
「で、どう落とし前をつけようか」
「馬鹿が、俺様はナルシ家の息子だぞ。こんなことしてどうなるかわかってるのか。」
「しるか。?!」
口の半分右半分が勝手に動きだす。
「人間が、姫を危険に晒すなど、万死に値する。すぐさま、消化してやろうか!!」
じゅっと音がしたかと思うと、焦げるような匂いがあたりに充満する。
「ぎぃぃぃ。ふん!痛くは無い!……なにが、魔王か!この程度か?あ!」
「糞餓鬼がぁ!」
煙の量が増す。
「待てっての!!……こいつには、聞きたいことがある。俺たちの故郷はなんでナルシ家なんかに滅ぼされなきゃいけなかったんだ!応えろ!!」
「……くくく!知らないのか?!魔王は勇者に滅ぼされるのは、当然だろ?」
勇者?魔王?
「俺たち、ナルシは勇者の家系だ。正確には、父上が、勇者の兄だからだな。勇者である叔父のお陰で黙ってても、寄付や人が集まってくる。魔王を倒せば更なる金と名声が手に入る。」
ナルシ家が勇者の家系だと。
「!、まぁ、おしゃべりはここまでだ。ララのことは残念だが、チャンスはまだある。覚えとけ!この屈辱は必ず果たす!」
彼は瞬く間に消えてしまった。
「逆召喚魔法か!貴様がちんたらと問答をしているからだ。」
「悪かったよ……だけど、奴らのアジトを掴みたくはないか?」
「ん?なるほど。」
「まぁ、あとは、」
あとは、観客を助けないと。煙の魔法を吐き出させるには。
吐き出させる……。
「あ、そうだ」
市場で手に入れたものの中に面白いものが、あったよな。
「起動!赤縞スカンク、プラス、ドドドリアン!」
「なんて、匂いだ」
鼻をつまみながら、スライムに告げる。
「このふたつを培養してくれ」
「断る!!我の体内にこんなものを入れて、挙句は増やせだと!!」
「まぁ、まぁ、」
「ぐわああああああ!!!」
「「「「うぉええええ!」」」」
会場内に響き渡る吐く声。
無事煙を吐き出す事ができたようだ。
「死ぬ、死ぬぅ!!」
「鼻が、鼻がもげる!」
「ねぇ、ママ!匂い、匂いが取れないの!」
「キェェェェ」
阿鼻叫喚と化したコロシアムに響く。
「ついに、100勝☆ついに、親父を超えた……なんだ?観客の方が騒がし、、」
パン
そんななか乾いた発砲音。皆が、そちらの方を見ると
どさ
マズルが、銃弾を受け、倒れる音だった。
「あ、やっと、当たった!よし。あれ、撃って良かった、、、よね」
「ええええええ!」
『な、なんたることでしょう!本大会優勝者は!!フィーネ選手ぅ!!!』
「えっと、やったぁ!」
「ええええ!!!」
各選手ワンダウンしている中、フィーネと、マズルだけが最後ダウンしてなかったらしい。意外な勝者に街のお祭り騒ぎは夜まで続いた。
ナルシ家の邸宅の地下の一室。様々な実験のされている中、魔法陣が光り、少年が現れた。
「姉上、助かり、ました」
服は溶けてボロボロになり、体のあちこちに火傷のあとが見える。
「哀れな弟ね。まったく。同じナルシ家として、恥ずかしいわ」
緩やかな口調で女が見下ろす。その手には、様々な魔石の指輪がはめられている。彼女は様々な色に輝くフラスコを宙に浮かべ、白衣をドレスの上にまとっている。いくつかの魔法を纏いながら、彼女は手をのばす。
「なにを?姉上!」
「あら、気づいていないの?」
パンと彼の頭の上でなにかをつかみ潰す。
「スライムよ」
「あん、の、野郎!!!」
「口調が乱暴だわ……」
興味深そうに観察しつつも、彼を諌めた。
「ぶっ殺して」
「乱暴だわ」
「……すみません。姉上」
「そのうち王都まで乗り込んでくるかしら」
「そのまえにバキバキに叩きおりますよ」
「サンプルを持ち帰ったことは、褒めてあげる」
「サンプル……ですか」
「えぇ、これ」
彼女が手のひらを開けると、ぐちゃぐちゃになったスライムがあった。彼女は直ぐに、球体に封じ込める。
「魔王『暴食龍』の一部。これでチャラにしてあげる。一応ね。こちらの位置はバレてしまったけど、問題ないわよね」
彼女はその球体を手に部屋に入っていった。
一夜明け。
「北か。」
地図を見てスライムの信号が途絶えた方角を見る。
「君たちよくやってくれた」
「お爺さん!」
「ん?」
「マズルを倒してくれたお礼だ。フィーネさん手を出しなさい。」
お爺さんは彼女の手にペンダントを載せた。
「えっと、これは」
「通行手形だよ。これがあれば、君たちは勇者が通った町にはほとんど審査無しで行くことができる。そして宿なども提供してもらえるだろう」
「ほんと!あ、でも」
ちらりと、俺やララさんの方を見る。
「大丈夫だよ。君ら二人の分もちゃんと用意してある。」
色違いの同じペンダントをそれぞれ渡してくれた。
「ありがとうございます。」
「ありがとう!」
「君たちの旅には困難がつきまとうだろう。せめてもの助力にならんことを。」
お爺さんはしかと三人を見る。
「アルフォンスくん。君は、魔物憑きとして、必ず壁にぶち当たるだろう。だが、君の創意工夫が必ず、君を助けるはずだ。君のスライムとの対話を忘れずに。守りたいものを守るために、決断を強いられる。その時のために、君の、君自身の戦い方を探すといい。」
「ララさん。あなたの古巣とわれわれは幾度となく戦ってきた。ナルシ家との因縁を断ち切るためには、ナルシの当主と合間見れることになるだろう。信じるべき指針を心に抱きなさい」
「フィーネさん。ジュニアを倒してくれてありがとう。君の魔物と仲良くする力を狙うものは多い。君たちのスライムや、君自身を。仲間を頼り、君自身が強くなっていきなさい」
お爺さんからのメッセージとペンダントを受け取ると、こちらに向かってくる人影があった。
「だぁ、マズル、そんなに不貞腐れんなよ。100勝は100勝だろ」
「だってさ。僕の優勝だとおもうじゃないか。うわああああ」
「ったく。あ、フィーネ、なんでここに」
「師匠!」
「ひっく、あ、親父」
「「「はぁ?」」」
お爺さんはため息をつく。
「ぽんちゃん。ジュニアは酒に弱いんだ。程々にしてやってくれ」
「あー、タイミング悪かったか?ごめんなおじさん。」
「ちょ、ま、親父って、お爺さんが初代マズル?!あの墓は!」
「あれは、引退してたてた記念碑さ。わたしの戦士としての命は終わってる。後悔はないよ。大丈夫さ。」
彼は自分の手足を見ていった。
「いつまでも最強じゃいられない。ジュニア。マズルパンチを100パーセントにまで、持っていけたな。お前にも、やろう。」
ペンダントをマズルにほおり投げる。慌ててうけとるマズルジュニアだったが。
「?」
「?」
「旅に出なさい。」
「は?ちょっと待てよ。僕はここで最強の剣闘士として」
「わかった。じゃあ、こうしよう。わたしが勝てば、お前は旅に出る。わたしが、負けたら、そうだな。コロシアムはお前にやろう。支配人は、さっさと逃げてしまったようだし。地方貴族のやつも今回の件の責任をとらされている。」
「は?ナルシ家の子供は」
「誰も信じるまいよ。中央の貴族を相手どることはできないから、はじめから、用意されてた筋書き通りにされているのだよ。さぁどうする?ジュニア」
「わかった☆悪いけど、手加減しないよ。」
「よしきた」
向かい合う二人。
「はじめ!」
「自分の技に負けな!マズルパンチ☆」
老人は杖をつき、後ろに下がる。
「跳躍」
「な?え?魔法?」
大きく跳ね上がるジュニア
「マズルパンチは、地面を強く踏みつけ、魔力を一点に集中する技術。修行法のひとつなんだよ。起点を崩せば、この通り」
杖を強く握り、
「『大戦鎚』!!」
あれは、親父の、アルフォンスの父親の技だ。
「がは!」
地面に叩きつけられるも、すぐに立ち上がる、ジュニア。だが、
「立派になったお前に本物を見せてやろう。息子よ。世界を知れ」
すでに懐に入っていたマズルは小さくつぶやいた。
「マズルパンチ」
突風と衝撃に近くの家の窓ガラスがガタガタと鳴り、ジュニアは遥か遠くまで吹っ飛ばされていた。
「10%」
叩きつけられ、仰向けになり、空を見あげるジュニア。
「……はは、マジかよ、親父。魔法に、棍棒術だと。知らねーよ。んなもん。」
ジュニアに杖が突きつけられるが、杖の先は銃口があった。音も気配も感じれなかった。
「暗殺術に、機械技術もか、なんでもありだな」
「……お前は、私を高く評価し、また、軽蔑もしていたようだな。私の強さは、1人で得たものでは無い。鍛えるのもそうだが、、ライバルを超えるために、愛するものを守るため、様々な経験をつみ、頭を下げ教えて貰い、高めていったからこそある強さだ。……まだやるか」
「いや、もういい。父さん、あんたやっぱでっけーや」
「当たり前だ、世界最強の剣闘士と言われた男だ」