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私の心臓(ハート)はスライムビート  作者: お花畑ラブ子
剣闘士の町マスルリア
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14

 アルフォンスが観客席の異変を感じたのは、すぐだった。

 1人の観客の口元から血が汚れている。あっちもこっちも。あの親子も。興奮状態にある観客たちは量の差はあれど、皆そのような状態だった。


「なぁ、おい、スライム。あれってなんだ。流行ってんのか?ソースの食べ物なんかあったか?このコロシアム」


 バカが。血だ。それは


「血?!な、なぁ、これってあのガスのせいか!毒ガスなのか」


 いや、違うな。


「は?だったら、血が出てるのはなんでなんだよ。」


 さてな。


『マズルぃパンチ☆』

 コロシアムの様子が大きく映し出されている。ララさんもフィーネのやつも早く棄権しないと、ほんとにやばいぞ。マズルですら倒せない白いヨロイ。


 ドゴンという音が魔法壁を超えてこちらまで聞こえてくる。


 ごぶ。


「ん?」


 観客の口や鼻から、さらに血が流れ出る。


 ドゴンという音のたびに観客の口から、血が流れ出ている。


「……?……っ!まさか、これって、あの白鎧へのダメージが観客へ流れてるのか?!呪いかっ」


 あぁ、思い出した。これは、回復魔法だな。


「回復?血が出てるだろ!」

 ()()()()()()()()()の回復魔法だ。小僧。これは、痛みを他者に分け与え軽減する魔法だ。かつて勇者の仲間だった小娘が使っていた魔法だ。瀕死の勇者のダメージを肩代わりできるようにとか言ってたな。愚かな娘だったよ。


「こ、攻撃を辞めさせないと!」

 あの剣闘士の親子の顔が頭に浮かぶ。それに、フィーネたちも自分たちのせいで人が傷ついているなんて知ったら。


起動(アウェイクン)!赤煙きのこプラス飛び烏賊、紅玉!これで合図を送る!スライム!」

 スライムを使って打ち出す。空を飛んだ飛び烏賊は、赤い煙をあげる。

 赤い煙が立ち上ったが、剣闘士たちは気づくことはない。気づく余裕もない。それに伝えるすべも無い。



「くっ!なぁ、スライム!どうしたらいい!」


 知るか。姫を早く助けろ。まわりの人間など、ほっとけ。


「……。これは魔法なんだよな。だったら術士を倒せば、」

 消えるかもな。

「スライム!助けてくれ!」

 我に泣きつくか。ガキが。


「フィーネを傷つかせたくない。あいつは優しいんだ。俺がなんとかする!」

 奴らを助けて。フィーネも救うか。おめでたい奴だな。どちらも救うなんてことはできないぞ。


「……あぁ!わかっている!コロシアムのみんなを助ける!!」

 なんだと……。なんだと……小僧!!!姫を見捨てるのか!!この不届きものがあああ!!貴様の心臓をこのままえぐりとってやろうか!!!

 スライムの怒りが胸に響く。

「ぐああ!」

 胸が痛む。今までに感じたことの無い痛み。思わずうずくまる。胸をつかみ、痛みに耐えながら、言葉を吐き出す。

「はぁ……はぁ……ちげーよ!!信じるんだ!!フィーネは強くなった!……認めたくないけど、たぶん、俺より強いよ。」

 フィーネにおいていかれた気がした。今、離れて、負けて、ようやく気づいた。認めたくなかった。だけど。


「……今はフィーネを信じて、コロシアムのことは任せる。俺は、フィーネが全力を出せるように!後悔しないように!サポートする!!それがいま、俺ができる。最善策だ。この、コロシアムにかけられた回復魔法の出処を教えてくれ!!スライム!!いや、『暴食龍』!!」


 …………………………姫を、信じる、か。……………………小僧。ガスの魔法は範囲が広いが、効力を強めるため、空気より重い場合が多い。

「なら。上、か」

 あとは、これだけの魔法をかける為には、魔法陣の把握が必要になる。

「貴賓席か」

 ガスの魔法はひとまず置いておけ。先に解いてしまうとパニックになる。……あと、我の名は『暴食龍(グラド)』だ。


「あぁ!ありがとう!グラド!俺はアルフォンスだ」

 ふん。知っておるわ。




「30パーセント...マズルパンチ」

 激しい音を立てた鎧武者はマズルのパンチに怯むことなくララに襲いかかる。

「ララさんに近寄るなぁ!」

 様々な種類の魔法弾を放つも鎧に無効化されてしまう。あれだけポンさんにいろんな魔法弾を教えてもらったのに。

「嬢ちゃん!リタイアするんだ!こいつぁイカれてやがる。マズルも本調子じゃねーみたいだ!!さっきから、威力がよえー!!マズルっ!しっかりしろ」

 今や狂戦士と化した戦士を全員で止めようとしていた。審判の目は虚ろだ。

「…無駄だね☆審判たちは買収された者たちのようだし。街のみんなは魔法によって極度の興奮状態にされているようだね☆プロインテさん。今日、おれ、調子悪いみたいです。」

 手応えがおかしい。鎧武者へのダメージの入りが薄い。まるで、散らされているような、変な感覚だ。マズルパンチは、全力の一撃。無闇矢鱈に打ち込むのは、あまり良くない気がする。

「くそ、せっかくの日が、台無しだぜ」

 腹が立つことにな。マズルは貴賓席を睨みつける。当たりはついているが、証拠はない。寄付金もマズル家とは直接関係ない地方貴族からされてることになっているし、審判や門番の素性は知れないが、支配人が言いなりになってしまっているからお咎めも調査もなし。決勝の前に来たあの変なガキか?


 マズルは、入場門に近づき、構える。

「……マズルパンチ☆」

 凄まじい音がしたが、壊れる様子はなかった。

 コロシアム全体に結界が張られており、こちらの攻撃は伝わらない。


 貴賓席にて、少年はにやにやとその様子を見ていた。

「くくく!ばかだ!手がいかれるっての」

 ナルシ家の四男は魔法を唱える。

 マズルの服に仕込んだ蟲が囁く。


『歯がゆいだろうよ……コロシアムの英雄!そちらから、こちらには、魔法壁があり、攻撃することは出来ない。普段より強化してるしな。魔法により、誰も覚えていない。この街の戦士たちは、どうせ支配に対して反発するだろうからな。ララたちもろとも消してしまえば父上も喜ぶさ!ナルシの繁栄の礎になれ!哀れな剣闘士マズル!ははははは!』

「やっぱりあの時の君か☆」

 その蟲を握りつぶすと、マズルは白い鎧武者を見据える。奴をぶっ倒し、鼻っ柱をへし折るしかないな。


「……はは☆100勝の相手に不足なしだ、な」





「…」


 目の前の女を殺せば、解放されるのか。


(おんしは、無粋なやつよ、のう!花を愛し、季節を感じ、粋に生きるが、花道ってやつよ)


 かつての主の言葉がよぎるが。主の国も民も消えた。この鎧を残して、全て。わたしは所詮怨霊。


 この場にいる者は戦士なのだろうが、弱い。

 華奢ながらも私の動きについてきているこの娘は、かなりの鍛錬を積んできたのだろう。なんらかの流派を組み合わせての戦い方はリズムを読めなく、戦いづらい。騎士のような正々堂々とした太刀筋かと思えば、暗殺者のような静かな一手が急所を狙う。


「……」


 周りからの妨害もあるが、邪魔になりそうな遠距離の使い手は初めに排除した。いまなお、飛びものを使ってくる小娘は場違いだ。まだ、幼い戦士、子供だ。御館様は、そのようなものを手にかけることは嫌っていたか。だが、今は違う主。仕方あるまい。


 参る。


 今の私を見て御館様はなんというのだろうか。


「ようやく、隙ができましたね。」

 一瞬物思いにふけっていたため、気づくのが、遅れた。


「すみません。別の形で会えていれば 」

 ララは大剣を深々とその首に突き刺した。

 鎧武者はその場でしゃがみこむ。

 ララさんは剣を引き抜いた。

 ようやく、止まっ…………


「か、ひゅ?!!」

 首を刺されたはずの鎧武者が立ち上がった。ララの首根っこをつかみあげる。




「…………謝ることはない。」


 鎧武者の兜が地面に落ちる。声が反響して聞こえる。鎧の中で響くようだった。

 あるはずの頭はそこにはなかった。

「…………御館様以来だな。私の首を落としたのか」

 空っぽだったのだ。鎧の首から上の部分がなかったのだ。


「はっ☆通りで!攻撃がとおらねーのか!首なし騎士!デュラハンか!」



 貴賓席ではぱちぱちと拍手をする。

「ご名答!デュラハン。首なし不死身の騎士。その頭が魔力の中心であり心臓。つまり肉体はほとんど不死身。勝ちはねーんだよ!初めから!」

 箱をぽんと叩く。

「首はここにあるのだからな」

 中には、女の首が入っていた。死体と言うには、艶があり、まるで生きているかのように張りがある。血はなく、こちらを見る目は澄んでいた。


「……っ!なんだよ、それ!」

 フィーネたちは勝ちのない戦いを強いられてたのか。

「ん?おかしいな。ここは貴賓席だぞ。メイドたちはどうした」

「……全員倒した。」

 貴賓席に続く通路にいたメイドたちには、追いかけられたが、この1週間ずっと鬼ごっこさせられてたんだ。ここまで逃げ切り、通路は俺以外が通れないように、トラップをいくつも仕掛けた。まだしばらく時間は稼げるだろう。当然倒しせていない。

 ナイフやフォークやモップや枝切り鋏や、様々なものを持って追いかけてくるメイドたち数十名を全員相手にできるか!怖いわ!!


「ははは……面白い冗談だな。君の実力はここの予選敗退程度、彼女たちのほうが強いはずだ。大方、逃げに徹したか。まぁ、でも。彼女たちはクビだな。処刑しよう」

「ま、待ってください!」

 傍らにいたメイドが、かしづく。

「命だけは!彼女たちの命だけはご容赦を!」

「……主人を守れないメイドに意味は無い。デュラハン!例の回復魔法のターゲットをメイドたちに切り替えろ。それに、メイド長、君も対象だ」

「待ってください!!」「……新たな主よ。分かりました。メイド長殿すみませぬ」

 デュラハンは静かに言った。


「な!」

「かは」

 目の前にいたメイドが、口から血を盛大に散らし、その場に倒れた。外のメイドたちも大方同じような状態なのだろう。

「汚い血が着いただろうが!クズメイド!」

 少年は、床に伏したメイドを蹴りつける。

「誰が!拾って!やった!と、思ってる!!」

「…フォース、様、…!…どうか、…!…おゆるしを…!」


「やめろぉ!!!」

「あ?俺様が主人だ!!君は関係ないだろ!なぁ、おい!!ララも死に!スライムの女は、面白い。変態貴族にでも、売ってやんよ!黙ってみとけ!雑魚が!」

 さらに、メイドの顔を踏みつけにする。

「グラドぉおおおおおお!!」

 ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!

 胸の傷から、スライムが溢れ出る。

 腕が龍の腕になり、爪になる。

 半身がスライムに、龍の姿を形どる。部屋を覆うほどの翼を携え、目の前の少年を見下ろす。


「?!なんだ!……は!お前の力はスライムだろうが、そんな!こけだましが通用するとでも思ったか!馬鹿が!……おい!デュラハン!奴を呪え!!」

「……新たな主よ」

「『暴食龍の爪』!!」

「格が……違います……」

「あぁ、そうだろうよ!!何せ!こちらは魔王の幹部!!」

「あちらは、魔王、そのもの、です。」


 デュラハンの頭は、巨大な爪に貫かれる。

 彼女によってかけられていた魔法が解ける。




「ララさん!!す、スライム銃撃(バレット)!!巨大弾(ジャイアント)ぉ!!」


 だぽん!という音に驚くも、ぶよぶよんの巨大な液体が質量をもってララと白い鎧を包み込む。

「スライムくん!ララさんを引き離して!!」

 鎧は身動きがとれない。ララが弾き飛ばされる。

「でかした!フィーネちゃん!」

 デュラハンはスライムの中でもがいていた。

 それも、一時的に動きを止めているだけに過ぎない。すでに、大量のスライムを押しのけ出てこようとしていた。


「どぉしたもんかな☆」


 その時、会場にかけられていた魔法が解けた。ぞわりとした感触。上を見あげると、貴賓席から手を振るアルフォンスの姿。半身がスライムに包まれていた。

「なんだ?」


「待たせたな!マズル!!思いっきりやっちまえ!!」

 何を言ってるか、分からないが、この厄介な敵の謎を解いたみたいだな。

「アルフォンスっ……?!なんだか分からないが恩に着るぜ☆……ははっ☆必殺……マズル、ラッシュ!!」


「3連……」

 とん、とん、とん

 違和感は消えている。だったら……より強く

「5連」

 どん、どん、どん、どん、どん……より深く

「10連」

 ドドドドドドドドドド …より速く

「30連」

 ダダダダダダダダダダ……

「100連!!」

 強烈な殴打が連続して叩きこまれる。

「やっとあったまってきたぁ!!100パーセントぉ!マズルゥ…………」

 ここからは親父の物語ではない。僕の物語が始まる。なら、験担ぎした、この技の名はもうやめよう。この町に生き、育ち、強くなった自分の技を

剣闘士(グラディエート・)(バスター)!!!」

「……!!!!!」


 白い鎧のデュラハンはコロシアムの端まで吹っ飛ばされる。マズルはスロースターター。本調子になるまで時間がかかる。だが、彼の全力を出す前に大抵試合に決着がついてしまっている。彼自身、自分の全力を知らない。

「今日からは!ジュニアじゃない!僕が!コロシアム最強だぁ!!!」



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