龍の眠る村2 女騎士と砂糖菓子
「なんだ、このスライムは?」
フィーネにはりついてきたスライムを3人組の1人が見つけた。
「ほっときな。スライムなんて。それよりもこの娘見覚えがあるね」
「気持ち悪りぃ」
子分の一人がスライムを引き外し、草むらに捨てる。それでも付いてこようとするスライムを蹴っ飛ばす。
「うっとおしいんだよ」
「なにしてんだい。いくよ。お前たち。とんだ拾い物しちまった。この娘、あの時飛び出してきて騎士様に治癒魔法した子だよ。おかげで回復した騎士様に逃げられチマった」
「どこ行くんすか?」
「仕事はまだ未達成。これじゃあ、金は入らない。あの騎士ちゃんをとっ捕まえんのさ。こいつをおとりにしてな」
「じゃあ、オイラが行ってきますんで、姉さんたちは先にアジトに戻っていてくださいよ」
「いや、戻る必要はないさ。あの鍛冶屋の小屋を使わせてもらおう」
村へのくだり坂で少しずつララさんと話をしていった。さきほどの親父との会話とは違い、穏やかに話しかけてくれた。
「アルフォンス殿はお父上と2人で暮らしているのですか」
「親父、いや、えっと、父とずっと2人で暮らしてます。鍛冶の修行しろってうるさくて。さきほどは父が失礼しました。気難しい人でして」
「無茶なお願いだったのは事実なので。お父上は悪くないです。私も気持ちに焦りがありました。」
「そうですか。なんで、うちなんかに。村に鍛冶屋なんていっぱいあるでしょうに」
「任務の最中に盗賊に襲われてしまい。村の少女に助けられなければ全滅でした。お恥ずかしながら、今回の任務は情報収集だったため、戦闘の準備が十分ではなく、私たちの装備と実力では、勝てなかった。うごける仲間たちは国に報告と装備を整えるため、帰っていきました。仲間の仇を一刻も早く討ちたかったので私一人残り。当主の旧友たるお父上に助力のお願いをと。」
「へぇ。あの親父に友達がいたのか。初耳だな」
人づきあいなどできなさそうな父が村の外の人間と関わり合いがあるなんて。
「…」
沈黙が辛い。何か話題はないか。そういえば甲冑の騎士なんて、この辺りでは珍しい。
「ララさんはいつから騎士団に?」
「物心ついた頃、からですね。私は孤児院にいたのですが、ナルシ家の当主様が、私を見出して下さりまして。お優しい方で、孤児を何人も養子に。私もその一人です。私に勉学や剣術などの教育を受けさせて下さり、教養を身につけることができました。その恩を返すため、騎士団へ」
「へー」
王国騎士団は優秀な人物が集まるという。相当努力してきたのだろうな。恩を返すため、か。
「ん、どうしたんです?アルフォンス殿。」
「いや、なんでもないです。優しい方なんですね。当主様って」
「えぇ!敬愛しております。」
「あ、王都はどんな場所なんですか?俺、この村から出たことないんですよ」
「そうですね。王都には色々なものがあつまりますからね。あ、そうだ。」
彼女は皮袋を取り出した。中からカラフルな小さな欠片をとりだした。
「砂糖菓子の一種です。王都の市場で露店が出てまして、購入したものです。虹星糖というみたいです。星みたいな形で可愛くて甘くて美味しいです。わたしはいつも王都に戻った時には買い足すのです」
「いいんですか?」
「もちろんです!」
彼女は微笑んだ。数粒もらい、口にほおりこむ。カリカリとした食感に甘みが口に広がる。
「うまああ!!」
彼女も口に頬張る。
「美味しいでしょ」
嬉しそうに彼女は言った。
「あの!ララさん!もう少し頂けますか?」
「?えぇ、かまいませんけど」
「幼なじみがいて、食べさせてやりたいんです。そいつもここから出たことなくて、」
「そういうことでしたら、ぜひ」
快く応じるララさん。いい人や。フィーネの奴。先に村に帰っちまったのかな。アイツ甘いもん好きだからな。喜ぶぞ。
「その方は大切な人なんですね」
「はぁ?いや、大切とかは。その、あはは」
顔が熱い。そんな俺を見て。ララさんは、笑う。
「優しいお顔になっていましたよ。大切な人がいることはいいことです。人は愛し、愛されることで強くなれるのです。頑張ることも、踏ん張ることも誰かのためを思えば不思議と力が湧いてくるものですよ」
彼女は誇らしげに言った。
「まぁ、当主様の受け売りなんですけどね。ぜひ王都にその方と一緒にいらしてください。案内いたしますよ」
ララさんはそう言った。
村についてから、店へ向かう。
「…ガレオン商店?アル殿、私は剣が欲しいのですが」
「いいからいいから」
「ん?よぅ!アル!」
「あ、おばちゃん!」
「あん?」
凄みをきかせてきたのは大柄な女性のガレオン夫人。赤髪に眼帯をつけ、煙管を燻らせる姿は海賊のようだが、村の住人である。
「あ、いや、ガレオンさん」
「アル、てめぇ、えらい可愛らしいお嬢さんと一緒で。こりゃフィーのやつ、うかうかしてられねーな」
「からかわないでくださいよ。ガレオンさん。…僕の商品売れましたか?あと、買取もお願いしたく」
「お、なんだ、デートの金がたりねーのか?んなもんはあらかじめ、用意しておくのがな。」
「違いますって!!」
「はっはっは!そうだな」
彼女は引き出しから皮袋を出す。
「今月はドラゴンブレスが5本、ポーション28個、簡易調理セットが2個、ってとこか。んで、お前持ち込みのモンスターの素材併せて、銀貨30枚ってとこか。」
「あぁ、その金で刀を一振り」
「え、ちょっと待ってください、」
「いいから。普通に買うより安くしてもらえるから」
「ね!」
「はっ。まぁ、いいだろう。手頃なのを見繕ってやらあ。そこにある刀、どれか一本選びな。うちの村で打たれた刀だからどれも一級品さ」
「ありがとございます。えっと、それじゃあその真ん中の刀で」
「ちゃんと返してくださいよ。利子たっぷりでね」
「わかりました。必ず。あ、ドラゴンブレスというのは?」
「あぁ、見てみな」
店主は細いつつを取り出して、ボタンを押すと火が灯った。
「ほぅ」
「おもしれーだろ。アルはおもしれーもん色々作っててな。こいつは魔力なしで静かに火がつく。火打ち石よりも便利ってな。この下のネジを回すと火力が調節できて、さらに大きな火柱になる。うちの人気商品さ。こいつの親父には内緒だぞ」
「発明家なんですね」
「いまは、お金も素材もないけど、いつかは王都でも取り扱われるくらいの商品をつくるのが夢なんだ」
刀なんて人殺しの道具だ。刀鍛冶として誰かの血を糧に生きるなんてまっぴらごめんだ。
「あ、そうだ。アル。フィーのやつ知らねーか?」
「?」
「まだ帰ってないんだよ。お前んちに届け物を受け取りにいってもらったんだが」
フィーなら、会ったアイツがまだ帰ってないのはおかしい。ふらふらするようなやつじゃない。たぶん一番最後までいっしょにいたのは俺だ。まさか森の中を迷子になってるんじゃ
「すぐに戻って探してみるよ」
「あぁ、頼んだよ!今から店を閉めてあたしも探しにいくから」
二人を見送ったあと、刀の棚を見てしまったと額に手をやった。
「あの刀、あの親父が打った刀じゃねーか。なんでこの棚に。」
火事場にて、アルフォンスの父は、自身の打ってきた刀を見ていた。
「……ふん。駄作だな」
その刀を手に持った小さな金槌で叩きおった。金槌を懐にしまい、赤く燃える火を見る。
足元に散らばる刀の残骸。刀の残骸に顔が映る。
「……結局、お前の言う通りになりそうだ。」
1人ポツリと呟いた。
「今日は客が多いな。なんの用だ。」
「おっと、おっさん。その刀抜くなよ。痛い目みたくなけりゃな。」
若い女が銃をむけていた。
「なぁ、オイラにもそれ、分けてくれよ」
ふいに1人の男が現れた。村の住人ではない。それに、商人とも違う。若い男。上半身裸。ボサボサの髪。その手には刃こぼれ激しいナタが握られている。手首には赤いバンダナが結ばれている。
「へ、おい、ボーズ。さっさとどっかに行きな。俺はそこのねーちゃんに用があんのさ」
ナタをこちらに向ける。
「なんだ、こいつ」
「いやぁ、すまない。アルフォンス殿。下がっていてくれ。」
ララさんも腰にあった剣に手をかける。
「……最後の一振。当主様より賜った宝剣」
「おらあああ!」
ナタを振りかざして迫り来る男に。
「抜くまでもないですね」
彼女はナタを半身を下げることで躱し、男の腹に鞘を突き刺して、男は悶絶させる。うずくまる男の顎を鞘で殴打し、脳を揺らし昏倒させる。
「お強いですね」
「いえいえ。大したことないですよ。簡単な体捌きです。それに」
男が煙のように消えてなくなる。
「手ごたえが軽すぎる」
「いやぁ、お見事。鮮やかなもんだな。騎士様。大人しくついてきな。あんたを助けたお嬢さんを捕まえた。」
さきほどの男と同じ顔をした男が森の中からでてきた。一人、また一人。ぞろぞろと二十人ほど。
「魔法か」
「『一人百役(ぼっち〜ず)』!おれは一人で百人だ」
彼らのうちの1人が映し出した映像に人質が映し出される。
「フィーネ!親父!!」
「貴様らっ!!」
彼らの頭には銃口がむけられていた。
「なんだ知り合いか?災難だなボーズ。ひとりの女を助けたばっかりに、お前もきてもらおう」