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私の心臓(ハート)はスライムビート  作者: お花畑ラブ子
剣闘士の町マスルリア
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「よぉ☆お疲れ様☆気がついたかい」

「こ、こは?」

「コロシアムの医務室さ。地下一階にあるね☆」

頭を向けるとマズルがそこにいた。剣闘士の衣装を纏い、試合へ向けての準備をしていたようだ。

「マズル、さん」

「いいさ、マズルで、僕は君に興味があってきたのさ☆勇者の紋章を持つ君にね。」

「勇者の紋章?」

「君の魔手甲に刻まれているそのマークさ☆」

自分の手の甲を見る。

「正直君にはがっかりしたよ。僕を倒すだっけ?」

やだ、恥ずかしい。あれだけ気合いを入れて望んだのに。

「僕を倒すなんて息巻いていたから。てっきりものすごく強いものだと思っていたのに。結果は予選落ち。君の父親が期待するのは、あくまでただの親バカだったと言う事さ☆」

腹が立ったが、ぐぅの音も出ない。

「もう君とも会う事はないだろう。どこへなりと。この話は他の誰にもしたことがないのだけど。僕はね、勇者が嫌いなんだよ。」

「勇者を嫌い??」

「僕の父は最高の剣闘士だった。圧倒的な強さタフネススピード。他に類を見ない、最強だ。僕は幼い時に、父から聞かされる武勇伝を楽しみにしていた。異国の戦士を倒したり、猛獣と戦ったり。だがそんな父が記念すべき百勝する前に、どこぞの馬の骨ともわからない輩と旅に出ると言って試合に出なくなった。いつしか親父の話はどっちが勝ったどっちが負けたそんなつまらない話になってしまった。俺はそんな父に失望しかけていた。決定的だったのが親父が勇者を守るために大事な体を犠牲にしたのだ。」


マズルのその表情は険しかった。


「くだらない自己犠牲の精神でだ。親父はコロシアムで勝てなくなった。親父の話がみもふたもないただの世間話になっていた。俺はいたたまれなかった。正直なぁ。だから親父を引退させ俺が剣闘士として戦い抜いた。そんな時に君たちが現れた。大事な調整時期に修行をつけろだ。あの手紙の中身も馬鹿げた内容だった。強さと言うものは1日にしてならない。目的意識と日々の鍛錬それがなければ強さなどありえない。たったの数日で誰よりも強くなるなんて事はありえないんだよ。その結果が君のその情けない姿さ」

「……」

「アルフォンスと言ったか。お前の仲間全員ぶちのめして俺が最強になる所特等席で見てな」


彼はそういうとチケットを置き、病室を後にした。彼のいうことは正しいのだろう。だけど、おれは幼馴染を狙っている者たちから守るためにいますぐにも力が必要なんだ。悔しい気持ちに胸が痛む。


「す、すみません。剣闘士の方でしょうか」

ふと見るとマズルが開けっぱなしにしたドアから、女性がこちらを申し訳なさそうに見ていた。

「夫をさがしておりまして。マズルくんがここから出るのが見えて、それで」

マズルの知り合いか。すこし、戸惑ったが。

「えっと、プロインテと言うのが夫の名前で」

マズルの試合で相手になっていた剣闘士か。あんなゴリラみたいな男にこんな可憐な奥さんがいるなんてな。修行の時に何度か相手になってもらった思い出がある。

「プロインテさんなら、本戦の準備をしているとおもいますよ。控室は、たしか、コロシアムの地下二階のはずですよ」

「ありがとうございます」

彼女は頭をペコリとさげると、後ろから小さな女の子が現れた。

「お兄ちゃんはどうして頭に包帯を巻いてるの?頭悪いの?」

首を傾げながら訪ねてきた。おい、まて。なんか間違ってない?

「こ、こら、イーリン!すみません」

精一杯の笑顔をつくり、にこやかにおれは返した。

「だ、大丈夫ですよ。お嬢ちゃん、お兄ちゃんは、頭が悪いわけじゃないんだよ、これはね」

「そっか、顔が悪いんだ!」

ぶん殴ってやろうかと思った。

「す、すみません!すみません!」

その子はとてとてと近づいてきて、こちらを見上げる。

「お兄ちゃん!しゃがんで!」

「?」

言われた通りしゃがむと、頭にぽんと温かな感触。

「お父さんが言ってたの。元気をあげるおまじない!これで元気!」

彼女はニコッと笑った。

「…ありがとなっ」

「うん!」

彼女たちを控え室に送り届けるなかで、様々な話をした。

「この街は元々魔王軍に占領された貧しい町でした。荒くれ者たちが小競り合いを繰り返していて、コロシアムでは奴隷たちが、生死をかけた戦いをしてました。コロシアムが今の形に、町が発展したのは先代のマズルさんのおかげです。そして剣闘士たちが人並みに生活できるようになったのは、マズルくんのおかげです。」

「そうなのか…」

マズル、あいつは。

「アルフォンスくんも気をつけて。今日の大会はなんだか、様子がおかしいの。やたら出入りに厳しいし。観客も雰囲気が変な人も多いし。」

「ママ、パパ大丈夫だよね」

彼女は我が子の頭をなでる。

控え室前。フィーネやララさんも中にいるはずだったが、なんて声を掛けたら良いか分からず、そのまま病室に戻ろうとした。戻ろうと振り返ると1人の少年とすれ違う。歳は同じくらいだろうか。小綺麗な衣装に身を包み。後ろにはメイドを2人つき従えていた。どっかの貴族のボンボンか?


「だっはっは!見たか!あの支配人のマヌケ面!傑作だったな」

「左様でございますか」

「あぁ。コロシアムのモンスターの内容を見て、マズルに殺されるとよ。てめぇが俺様と契約したんだろうがよ。ん?なんだ?剣闘士の子供?」

軽く会釈し、通り過ぎようとした。

「待て。スライム使い。あんな低俗な魔物を従えて、得意げになっていたな。あんな雑魚モンスター使役して、勝てるかよ。」

「んだと?」

「へ。俺様はナルシ家の4男。俺様に手を出すとどうなるか。分かるか?故郷を滅ぼされた()()()()()()

ナルシ家の!?しかも、バレてる。そう甘くはないか。いやそれよりも。

「故郷を、、滅ぼされた、、、一体どういう」

そのガキの胸ぐらを掴もうとしたが、あっという間に緑髪のメイドに組みふせられる。

「坊ちゃんに手を出すとは、この不届き者いかがしましょう」

「がぁ」

ミシミシと骨が軋む音がする。地面近くにあった俺の頭を踏みつける。

「はっ!たしか、ララの連れだったよな。あのパッとしない芋女とともに、決勝でぐちゃぐちゃにしてやるよ。なんてったって俺様のお気に入りが相手だからな。アイツらも俺様のペットにしてやろう。ははは!いい顔だな!鍛冶屋の息子!惨め!惨めだなぁ!はははは」

何も出来ない。高笑いしてその場をさる少年を睨みつけることしか出来なかった。

「まったく。ナルシ家に歯向かうとは」

メイドはため息をつくと俺を解放した。おれはしばらく動くことが出来なかった。

「くそ」

そのまま、足取り重く、コロシアムの観客席に足を運ぶ。観客たちの歓声は耳障りだった。マズルから渡された席はコロシアムを一望できた。




『さぁ!各予選が終了し、決勝が始まりました。最終戦は』



「ふぅ…☆」


『圧倒的です!!まさに圧倒的!!』


コロシアムは既に激闘が行われたと言った風体だった。円形のステージはあちこちの床が割れ、魔法痕が思い出したかのようにチカチカと光っていた。何人もの剣闘士が倒れている。


「まいったね☆」

マズルが笑う。




だが、その笑みには余裕がなかった。


マズルと向き合っているのは白い鎧武者。

決勝の出場者ほぼ全員をけちらしていた。


「ま、マズルさん。」

「動くなよ☆フィーネちゃん。君の力は切り札となり得るからね。」


「ぐらあああああああ!!」

鎧武者が雄叫びを上げる。

「こんの、バケモンがああああ!!」

「こんの野郎!!おれはマズルと戦うんだよ!!横やりしてんじゃねーよ!」


剣闘士が背後から殴りかかる。もう1人もモンスターを召喚する。カードから、ゴブリンが赤い帽子をかぶり、それぞれに武器を手に溢れ出る。レッドキャップス。彼がマズル用にとっておいた中級の魔物だ。スピードがすさまじく目にも止まらぬ速さで敵を切り裂く。1体1ではキツいマズルでも、可能性はあるはずだ。


「ぶっ潰れろ!ハンマーダング!」

「切りつけろ!レッドキャップス!」


白い鎧武者は片手でハンマーを受け止める。がら空きになった腹部に固く握られた拳を叩き込む。

「がぁああ」

「おっさん!おっさんを助けろ!レッドキャップス!」

赤い帽子を被ったゴブリンたち10数体は、その場で固まってしまっていた。

「おい!何やってんだ!」

「ムリダ」

「なにを馬鹿なこと言って、」

「アレハ、」

対マズル用に鍛えたゴブリンが身体を震わせている。かなりの強者でも、しりごむことは無いはずなのに。あの白鎧は、マズルよりも強いのか。

「マオウサマのハイカ」

そこまで言うと、ゴブリンたちは泡を吹いて気絶してしまった。鎧武者からの魔力に当てられたようだ。

「魔王の、配下、だと」

その彼も拳の餌食となり、呟きは喧騒に消えた。


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