11 コロシアム予選
歓声が上から雨のように振ってくる。こないだは観客側だったが、今回は違う。空気が重みとなってのしかかる。
「あ、ああ、あ」
となりでフィーネが震えていた。やっぱり俺だけ参加すればよかったか?
「そ、そん、なに、きききんちょう、す、すんな、よな」
「あ、アル、だ、だって」
2人してガタガタ足がふりえている。
「2人とも落ち着いて。わたしがいます」
「ララさんこちとら、この1週間死ぬ気でやったんだ。だだだ大丈夫!」
あのおじいさんに1杯食わされたのか?場合によってはとんずらもできたかもしれないが。それじゃあ後味が悪い。きっちりマズルを倒しそう。
『さぁ!我らが剣闘士2代目マズルさんが100勝を飾るかどうかの記念すべき大会だ。先代が、99勝でストップした連勝記録はいまだ破られず。だが、2代目マズル昨日も勝利し、ついに、先代に並びたった!今回は王都からスペシャルなスポンサーがついた本大会は賞金も商品も超豪華!!いざ始めよう!』
『今回の本戦チケットはまさにプラチナチケット!!この試合みたさに、お仕事休んだお父さん、旦那を追い出したお母さん、学校休んだ子供たち!今日はお祭りだあ!』
『予選の開始の合図はもちろんこの人!我らが剣闘士マズル!!!』
『今日はほかの街の戦士もたくさん来てくれたみたいだね!僕の100勝を祝うためだ、ね☆ありがとう!わざわざ来てくれて☆偉大な親父の伝説をこの僕が塗り替える瞬間!みんな楽しみにしてくれよ、な☆』
あの若造ぶち殺してやる。
あの小生意気な面にナイフぶっ刺してやりてぇ
やめて!マズルさん挑発するのは、強面のおっさんたちが青筋ピクピクさせてるから!
「しあーい開始☆!!」
その合図に戦士たちが一斉に動き出す。当然と言うべきか。フィーネをまず狙うものが何人か
「嬢ちゃん!かわいいね?おじさんたちと遊ばなーい」
「あの糞ガキに舐められて鬱憤溜まってんだ!発散させてもらうぜ!」
「ひっ……」
弱いものから片付けていくのは定石なのだろう。ララさんは大剣で1人を抑え、おれは魔火玉でもう1人を食い止める。
だが、まだ敵はいる。何人かがフィーネの方へ向かう。
姫に手を出す不届き者が!!
心臓のスライムが怒りを顕にすると、俺の血が滾り体が熱くなる。
「下がってろ!フィー!おれがお前を守っ…」
だが、フィーネは引かずに、ホルスターに手をかけた。長い前髪に隠れた瞳がうっすらと輝く。
「ど、どいて、アル……スライムくんたち、い、行くよ!アルは私が守ってあげる。そ、それー!」
フィーネのそでから、カラフルな小さなスライムがこぼれ出てくる。コロコロぷよぷよと転がっていく。
それを踏みつてしまった俺の相手をしていた敵がぶよんとひっくり返る。
「のわっと、と、バカにしやがって」
「あ?召喚士か?スライムって弱すぎだろ。ジュック!みっともねーぞ」
「うるせー!そっちも、そのパツキンねーちゃんをさっさと倒せよ」
あまり、ダメージはないようだが、大丈夫か。今のうちに魔手甲を起動させる。
「起動……」
だが、フィーネが銃を引き抜く方が早かった。
「す、スライム流銃術。銃弾!」
彼女のリボルバーの弾倉にスライムが滑り込む。
「発射!」
彼女が引いた引き金。小さな発砲音は観客たちの声に紛れる。とはいえ、直線に飛ぶ弾丸は軌道を読みやすく、こういった場所では向かない。
「は!銃じゃ闘士は捉えられねーよ!群衆の面前で片乳剥いてやるよ!」
魔力を体に流し、加速する戦士。弾丸の通る直線コースを読み、横にずれる。フィーネは誰にも聞こえぬくらいの小さな声で、でも確実にこう呟いた。
「……弾力弾丸!!」
弾丸に絡みついたスライムが、弾丸を真横に弾き飛ばす。弾かれた弾丸は弾を避けたと油断した男のこめかみ付近を通過し、そのソニックブームで、脳震盪を引き起こす。ぐらりと、その巨体が倒れた。
「弾の軌道を変えただと……」
目の前の光景が信じられず、驚くも距離を取ろうとする他の剣闘士だったが。
「に。逃がさない。……三連!」
「地獄犬!!」
立て続けに発砲音が3発。
「う、が、」
「ぬ、」
ララさんや俺と戦っていた闘士を倒してしまった。
「まじかよ」
「フィーネさん!すごいです」
「へへ」
姫!素晴らしいですぞ!!
「ぬらあああ!」
「負けてられねーぞ、ララさん俺が隙をつくるから、剣闘士たちを倒してくれ」
「ええ!」
「召喚札!ゲキコウホタル!プラス!オオホエガエル!」
カードを取り出し魔力を込めると、俺の両手にホタルとカエルが現れた。あらかじめ、召喚術式を描いた紙に魔力と召喚物を仕込んで置くことで、最小限の魔力で召喚できるという剣闘士の技だ。魔力の少ない俺にはうってつけだ。
「2人とも目と耳塞げぇええ!!」
「アルフォンス工房謹製!!」
魔手甲とスライムを自在に動かし、その場その場で、最適な道具を作り出す。
「閃光轟音!」
辺りを眩しく照らし、轟音が鳴り響く。
「ぐぅお!」
「……ララさん!」
怯んだ敵をララさんが倒していく。
「くっそ、があ」
背後に現れた剣闘士。鉄兜で光を防がれたか。
「召喚札!ホエガエル!スライム!!」
ホエガエルの鳴き声をスライムの体で包み、スライムの体でさらに増幅させる。そのスライム玉を剣闘士の体に押し込む。
「共鳴衝底!!」
音は目に見えない衝撃として、剣闘士を襲い、彼は膝を着くこととなった。
「よしっ」
俺には強さはない。だけど、故郷で磨いてきた技術はある。召喚札によって、素早く素材を用意し、魔手甲とスライムを操作して、片手でもクラフトが可能に。剣闘士たちとの追いかけっこで鍛えた回避力スタミナ。これらを駆使してかけ昇ってやる。
「す、すごいね!アル」
彼らの様子を貴賓席から少年が見下ろしていた。
「よろしかったのですか?寄付して頂いたことを観客に伝えなくて」
支配人はおずおずと尋ねた。
「こういうのはアピールが大事という訳では無いのさ。ナルシ家の地位はもう十分にあるし、俺様としては、試合に干渉することに意味があんのさ。準備は出来てんだろうな?」
「も、もちろん!抜かりなく!」
「それでいいのさ」
杖を取り出し喉にあてる。
「ヤヤ、リリ、ガガ、ササ。26番、74番。こいつらを本戦に上がらせろ。あと、13番、58番、71番は確実に潰せ。このあとの本線に残られたら面倒だ。あとは適当に数を減らしてやれ。」
会場を見下ろすとメイド服の女性たちが次々と剣闘士を倒していっていた。
『本戦出場者が決まりました!ララ選手、フィーネ選手!なんと女性御二方の本戦出場だあ!』
「あれ?」
俺は目を覚ました。頭に氷を乗っけられて、どうやら病室に居るようだった。
「…あれ?」